【ジゼル】キーロフ
【ジゼル】(全2幕)キーロフ・バレエ
【ジゼル】 キーロフ・バレエ
(収録:1983年/キーロフ歌劇場)
ジゼル: ガリーナ・メゼンツェワ
アルブレヒト: コンスタンチン・ザクリンスキー
ミルタ: タチアナ・テレホワ
二人のウィリー:(モンナ)アルティナイ・アスィルムラートワ、(ズルマ)オリガ・リホフスカヤ)
ヒラリオン: ゲンナジー・セルツキー
バチルド: アネリーナ・カシーリナ
舞台の背景がいかにも手描きの水彩絵の具的で超素朴ですが、明るくてのどかな田園風景なのでこれはこれでよいのかな。
ノーブルなザクリンスキーがなんだか新鮮。私的にザクリンスキーのデフォルトが「海賊」のランケデム役なので、とてもクセのない感じが別人のよう。
ザクリンスキーは育ちがよさそうなアルブレヒト。ジゼルを包み込むような落ち着いた大人でとってもやさしい。恥らうジゼルに「おぉ~~っ、なんってかわいいんだ、君は!」と天を仰ぎ、うっとり目な君こそかわいいよ~。ジゼルに促されてベンチを片付けるのなんて、律儀さに高貴な振る舞いがかいま見える。真面目でいい人なんだわ~。自分の腕にジゼルの手をとるときも、とてもやさしい。
メゼンツェワは踊りが正確できれい。まだ年若いジゼルがバチルドに憧れの気持ちを抱く眼差しや、恥らってみせる仕草は素朴な娘のもつ素直な好奇心と可憐さがあった。
狂乱のシーンでは気がふれてしまうというより、悲しみにとらわれてしまったジゼルが自ら生きることをやめたようでもあった。メゼンツェワの目から涙が頬を伝っているのが印象的。
ミルタ役はテレホワさん!ウィリー達と同じ振りをすると、まるでお手本のよう。
品格があって安定感抜群。床に突き刺さるようなポワントは鋭く、舞う姿は軽やかで美しい。連続した動作も細かく決まる。なんかもー、かっこいいです。
二人のウィリーには名前があったんですね。知らなかった。そのうちのモンナ役、アシルムラートワが一人特別に光っていて、やはり彼女は別格だった。手足の美しさも格別だけど、何故か背中で彼女とわかる。
ヒラリオン役のダンサーは渡辺謙をぎゅっと小男にしたようなイメージで、衣装がピーターパンぽい。まぁ、森番だしね。ジゼルとアルブレヒトの仲を裂こうと躍起になるけど、ジゼルのことを好きには余り見えなかったなー。ジゼルの恋路を邪魔する、理屈っぽい兄ちゃんみたい。ちょっとおじさんクサイ。走り方がいつも「大慌て」。なにも腕を肩まで上げて走らなくても。
バチルドが人当たりのよさそうな美しい笑顔の貴婦人なので、なんだか初めて「好きになれそうなバチルド」かも。ジゼルのことを「まぁ、なんてかわいらしい方」と本当に気に入ってたみたい。首飾りを与えるときも心がこもっていた。
ジゼルが真実を知って詰め寄ったときも、優雅に「だって彼はあたくしの婚約者ですもの」と意地悪さはまったくなく、アルブレヒトにも「あなたはなんて酷いことを」と気絶しそうになる。ジゼルの嘆きに手を差し伸べるような仕草が、なんだか心優しい人みたい。
2幕で登場したアルブレヒトの顔は、悲しみで耐えられないというより、何故か「吐きそう」。目の焦点が定まってないのは、まだ呆然としているみたいで同情してしまう。
U字に大きく開いた胸元のベロア調の衣装が素敵。濃いめの紫のタイツも美脚が強調されてなかなか良い。ザクリンスキーって美形でかわいいなー。現役の彼を見られないのが残念無念。
ウィリーになったジゼルはゆっくりと大きく踊る。バランス力が凄い。リフト以外、彼女にはなんのサポートも必要ないくらい安定している。どのポーズも隙がないくらい美しい。
彼女の手首から先の動きが重さのないウィリーを感じさせる。しな垂れた柳のように動きにあわせてたゆたう。空気を含んでひらひらとかげろうのような白いチュチュと同じように軽い。
片膝を付きミルタに「お願い」して却下されたときのザクリンスキ-の「あぁっ」という大きく目を見開いた顔がなんつーか、かわいい。そんな顔されたら、もう一回「ダメ」と無情に言ってみたい(ミルタの心境)。
夜が明けて鐘の音を聞いたとき、ジゼルの目には確固たるものがあって、それを見ていると、ジゼルはただのか弱い乙女ではなくて、とても意志の強い女性だったのだと感じた。「彼を救えた」ときに初めて大いなる母性でアルブレヒトを包みこみ、最後にアルブレヒトに抱きかかえられたとき、二人は幸福を味わったに違いない。
何度も見るうち心に迫るものがあって、何故メゼンツェワがジゼルを演じるのかがわかったような気がした。