103163 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

Cafe  Worldillia

Cafe Worldillia

遅刻

遅刻


23000番を踏んでいただいたりんりんさんに、「Aokage」のリクエストを頂きました。
久しぶりだったから……燃えた(笑)
そのくせ文章力&表現力共に相変わらずゼロで御座います。駄文です。
個人的に思い入れの深い「雲をも掴む民」なので、別の曲を彷彿とさせる表現が数か所出てきますが、その辺はご愛嬌って事で。
分かった方は管理人までこっそりご連絡下さい。
賞品は…でませんが^_^;


もしよろしければ管理人まで感想等お願いします。



「やっべぇ!」


起きた時には もう約束の時間の5分前だった。
昨日の夜ちゃんと目覚ましをセットしたはずなのに、
やつは「寝過ごしたのはお前のせいだろ」って顔で 平然と時間を刻んでる。


「止めた記憶なんか…無いんだけどなぁ……」
誰に言うわけでもなくつぶやいてベッドから起き上がり、
寝ぼけた頭のまま出かける準備を始める。


寝癖でボサボサの頭を適当にごまかし、リビングにあった小さなチョコレートを何個かポケットにつっこんで、自転車に飛び乗る。


チェーンが壊れかけてカタカタ言っているのに聞こえないをフリして、
錆びたペダルに思いっきり体重をかけて全速力でこぎだした。




どうやらペダルが重いのは自転車が古いからだけじゃないみたいだ。
小さな島だからいつも優しい潮風が吹いているこの街だけど、
今日は一段と身体に受ける風が強い。
しかも、真正面から。


急いでるっていうのに…つくづく運がないよな、僕って。


時計に目を移す。
やっぱり間に合わなそうだ。


イライラと僕を待つ彼女の顔が頭に浮かんで、思わず足を緩める。
Y字路に差しかかった。
普段なら、迷わず右だ。開けた少し広めの道で、左の道よりも早く着ける。


でも、
「乱れた呼吸を整えたいから」
「向かい風が強いから、今日はこっちから行ったほうが早いかもしれない」
なんて適当に理由をつけて、左にハンドルを切る。
静かだけど、少し時間がかかるほうの道。


本当はうまい言い訳を考えるのに時間が欲しかったんだ。
どうせ、もう遅刻なんだし。














でも結局話下手な僕は、気の効いた言い訳なんか考えられないまま。






タバコ屋の優しそうなおばあさんに、いつものように会釈をする。
視線を前に戻せば彼女の家のあざやかな赤い屋根。
3件手前の家の短気な犬が吼えかかってくると、その声を聞いた彼女が僕のやって来るほうを覗いて、笑っていて…は、くれないか……。




そんな事を考えていたら、彼女家の前に着いてしまった。
時計を見る。
約束の時間からは、15分遅刻。
出てきた途端に怒鳴られるだろうと思って身を縮めていたけど、彼女は一言。
「…遅かったね」


少し拍子抜けな気もしたけど、とりあえずさっき考えた精一杯の言い訳をする。
頭の中で何度も推敲して作り上げた原稿をリハーサル通り読み終えて、多少心はすっとした。




僕はいつもと違う彼女に少し戸惑う。
僕が遅刻すると、彼女は大声で怒鳴って 僕はひたすら謝って。
甘いものでも差し出せば、君は途端に、幸せそうな笑顔になる…


今日もいつも通り、そのはずだったんだけど。




…そんなに怒ってないってことか………な?










難しいことを考えるのは苦手なので、少し先を行く彼女の背中を眺めながら、また自転車をこぎ始めた。


追いかけても追いかけても、逃げるように前を走る彼女。


なんだ、この異常なまでのスピードは。
そんなに急いで行かなきゃいけないところじゃ…なかったよな?




ふざけて競争するような雰囲気でもないし、今は僕が何か言えるような立場でもない。
ましてや追い越すなんて…
なぜか、できなかった。


彼女との3、4メートルのこの微妙な距離を、縮められずにいた。



後ろから見る彼女の背中には、なんとも言えない空気が流れていた。



怒ってないわけ………ないよなぁ……………。








相変わらずカタカタと騒々しい僕の自転車の音と、
いつの間にか背中に感じるようになった潮風の吹く音以外には、なんにも聞こえない。








沈黙に耐えられず、思わず喋り出す僕。
何か言いたいわけでもない、ただ沈黙が嫌だった。


忙しくはためく彼女のシャツのすそをつかむような気持ちで、話しかける。


返事はしてくれるけど、そっけなく短いし、明らかに声のトーンが違って聞こえる。





道の反対側をふと見ると、僕の家の近所のじいさんと目が合った。


軽く会釈をしながら、自分たちがどんな風に見えているんだろうと想像した。
よそ見もせずひたすらに自転車をこぐ少女と、
必死に少女に話しかけながら、数メートル後ろを追いかける少年。


少し笑えてきて、背中を押す風も、強くなった気がした。








間を持たせようと一生懸命喋っていたら、彼女の態度も少しはゆるんできたみたいだ。
振り向いてはくれないけど、笑ってくれたみたいだった。
僕も思わず頬が緩む。














気付けば青影トンネルの近くまでさしかかっていた。
急な上り坂で、車もアクセルを踏み込んで進むのでかなり煙たい。
坂のキツさと排気ガスで、息も苦しくなってくる。




でも、ここを抜ければ目的地はすぐそこだ。
思いきりペダルを踏み込んで、少し彼女に近づいてみる。
トンネルを通るころには、もう少し近づけるかな?





潮のにおいが強くなる。
坂道と短いトンネルを抜けた僕らの前には、きれいな海が広がっていた。


緩やかな下り坂と、爽やかな潮風。
さっきよりも優しく、でももっと強く、追い風が僕の背中を押してくれる。
















海に着いたら、もう1度ちゃんと謝ろう。
また君とここに、来られるように。


















ポケットの中のチョコレート、2人で食べれるかな?
溶けてないといいんだけど。






―END―






ポルノ本。に戻ります
ヘボ管理人に感想を伝えにBBSに行く!


© Rakuten Group, Inc.