カテゴリ:★小説「メデューサの聖廟」
★投稿した小説「聖母たちの棺」(6)★(一部割愛)
大昔に投稿した作品なので、誤字脱字以外はご容赦下さい。 「氷上さん?」急遽、図書館へゆくのをやめた美緒はこの目立ちたがり屋の刑事の前に現われた。 「やぁ、高島美緒さん。ぼくのお気にいりだ」 「冗談はやめてください。でも今日はあなたにいいものあげようと思って。これです」 美緒は飯田が書いたメモを差し出した。警察も把握できなかった母親と関わりのあった人物たちの名が記されている。 「これは~っと? なんだね?」 「この人たちを調べてください。みんなお母さんにお金を借りていたりしていた人たちです。警察の知らない動機があります」 「どうしたんだ、君は自殺だって言い張っていただろう? 落ちていた刃物を家のなくなったナイフに似ているといったのも、君じゃないか?」 「あ、あれはたぶん数ヵ月前から見なくなったナイフに、なんとなく似てるなって思っただけで。あたし、あなたに一方的に容疑者にされているのが我慢できないんです。だからあたし以外にもお母さんを恨んでいた人がたくさんいるって、証明したかったんです」 「ああ、確かにね。自殺と捜査結果が出たんで、隠された動機を洗わなかった人物ばかり並んでいるね。教頭に関しては校長と一緒に高島先生と口論していたっていう証言だけだった。指導法について話し合うことは別に特別なことじゃないから、深く動機を探らなかった。ありがと。参考にさせてもらうよ。それで君の容疑が晴れれば いいがね」 「お母さんは、自殺です。絶対です。発作的な自殺なんです。あたし今が大切なときなんです。お母さんの期待にこたえるためにも、受験勉強に集中したいんです。これ以上邪魔をしないで!」 氷上はメモを受け取ると、その整った顔の鼻先で笑った。整然とした容貌のその微笑みは、美緒を冥府へと連れ去るようだった。 「君のことをもっと知りたいな。君の過去、知能、幼児の頃や小学校の頃のこと。交友関係、趣味に人格。すべての資料を手に入れたい」ヒザまで冷気があがってくるのを美緒は感じていた。 「高島先生はトラブルをたくさん抱えていたよ。知ってるかい? 容疑者はこの学園中にいる。いやこの学園そのものが、容疑者なのかもしれない」 美緒は(ムカついて)いた。従順で地味な彼女がこんな汚い感情を持つことは稀だ。それでも彼女はあの氷上刑事に(ムカついて)いた。警視庁に人権蹂躙で訴えてやりたい心境だった。 それでも平穏な青春を過ごすために、爆発しそうな怒りを圧し殺したまま自分の生活に戻った。いや戻ろうとした。しばらくは氷上などこの世には存在しないかのように、記憶から消し去ることが賢明だった。氷上刑事のことは胸郭の奥に封じ込めた。 高島芳子の亡霊が出るという噂が出始めたのは、その頃だった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007.01.03 10:43:55
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