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2011年10月14日
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ボルチェリーノ家は呪われていた。
 組織のナンバーツーであったミケーロ・ボルチェリーノとその妻ミホ・ボルチェリーノは招待された富豪のパーティへと向かっていた。誕生日や記念日には必ずそういったイベントをするのが、上流階級の決まりごとだ。強大なプライドのために多額の金を費やす。
 十二月の季節らしく、雪で広大な富豪の所領は覆われていた。吹雪というほどでもないが雪は間断なく降り続いている。広大な敷地の真ん中に自然を支配するかのように建立されていた屋敷から、上級な音楽が流れて来る。前後にはボディガード代わりの部下が乗り込んでいるリムジンが、二人を守るように走っていた。
「なんだ!」
 突然前方に火が走った。視界がオレンジ色に焼き染められ、視力を失った。衝突を避け急ブレーキをかけたリムジンが、激しく回転し森の大木に衝突した。クラッシュした瞬間にさらに横転し、道路から投げ出された。何度も回転しシェイクされバウンドし、雪の中にめりこんだ。その衝撃で、新雪がはじけ矢のように空中へと散っていった。リムジンは大破し、ありとあらゆる部品が夜空へと飛び上がりそして落ちてきて、雪にブスブスと突き刺さってゆく。
 後続のリムジンも同じように転がってきた。破裂したような小さな音が、何度も聞こえている。銃撃だ。素人ではなかったミケーロにはすぐに判った。屋敷に作った射撃場で訓練をしているし、マシンガンのような銃器も扱った事がある。長すぎた高級なコートの裾をたくし上げると、脱出を急いだ。
「ミホ、急げ、爆発するぞ」
 リムジンの乗客は命からがら這い出すと、新雪の中を四つんばいになって逃げ出そうとしていた。這い出してすぐに妻を探す。頭を車に突っ込み女の腕を見つけた。そして渾身の力で引きずり出す。部下達のリムジンもやられている以上、助けは期待できない。ここは一人でやらねばならないと彼は思った。何て事だ、油断した。こんな時に襲撃されるとは。息子を置いてきてよかった。
「ミホ、しっかりしろ。目をさませ」男は妻の頬を何度も叩いて、正気にさせようとした。いつまでもこうしていては、すぐにやられてしまう。動物の子供が生まれ落ちてすぐに立ち上がり走るように、態勢を整えなければならないと思っていた。
「あなた、あたし達どうしたの?」「襲撃されたんだ。すぐに走るんだ。見つかるぞ」
「!」殺気だ。背後に立っている大男が、ミケーロとミホを見ていた。闇の中の闇色の男。まるで死神だ。横転したリムジンのヘッドライトの太陽のような純白の世界で、巨大な死神の影が二人を眺めている。
「お、お前は誰だ? 組織の裏切り者か?」
「・・・・・・・」
 Batubuatubatubatu!
 ミケーロは衝撃を確かめようとして、視線を落した。指の先が赤黒く染まっている。
 痛みが遅れてやって来て致命傷を負った事に気づいた。
「BYE」
 Batubatubatubatubatubatu!
 さらに撃ち込まれて視線を動かすと、死神の銃口は愛しい女を指していた。
「や、やめろ」
 狂気に気づいて、ミホは雪のなかを走ろうとした。足を飲み込まれそうになりながら、ミホは泳ぐように逃れようとしていた。ミホの生への渇望を深い雪が阻んでいる。雪は無邪気に殺人者の共犯者となっていた。
 Batubatubatu!
「ミホ!」
 女は雪の中の深紅の湖で溺れている。飛び散った血潮が周りの雪を、美しい血模様で飾り立てていた。女の最後の仕事だった。それだけが女が人間であった事を語っていた。
「お前ももう死ぬ」
「たのむ、息子だけは助けてくれ。リューだけは殺さないでくれ。俺達だけで十分だろう?」 妻を失ったばかりの瀕死の男は、残してきた一粒種の事を思っていた。たった一人の愛しい子。この世に一人だけ残してゆく事が残念でならなかった。男の特殊な世界であの子が生きていけるのだろうか。守護者がいないという孤独と恐怖に、一人で戦ってゆけるのだろうか。特殊な能力でもあれば、最後の言葉をあの子に送ってやりたい。
「さぁ、それはどうかな。血脈は完全に断たねばならない。禍根は断っておくのが生き残る術だ」
「たの、む。子供だけは殺すな。息子だけ、は」
 Batubatubatubatu!
「さっさと死ね。往生際が悪い」そうして暗殺者が鉄の狂気をホルダーに納めると、彼の部下達が走ってきた。雪が深くかなり足をとられているが、彼らは一流だった。太く逞しい体躯で、難なく追い付いてきた。雪の対策のために、防寒防水が完全なゴム製のスーツを着ていた。闇色のそれは、純白の雪の中で宇宙のように不気味に光っている。ブラックホールへと人間達を誘うかのようだ。ありとあらゆる暗殺術を身につけ、依頼者の依頼を完璧にこなしてきた悪意の化身だった。
「上もすべて片付けたぞ。大した事はなかった。一人残らず蜂の巣にしてやった」
「いや、まだガキが残っている。こいつの血脈はすべて断つ」
 暗殺者は完全なる悪意だった。情をひと欠片も持ち合わせていない。男の暗殺計画は完璧であったが、すぐに成し遂げられる事はなかった。それでも男は諦めなかった。諦めの悪さだけは恐竜並みだったが、頭脳は明晰、慎重で欲深く狡猾だった。





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最終更新日  2013年01月19日 13時20分59秒
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