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さ・る・の・あ・な・た

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一緒に見上げた空

一緒に見上げた空
「自閉症児×元不登校児」武蔵野東ラグビー部の軌跡

一緒に見上げた空.JPG

待ちに待った大元よしきさんの新刊です。

東京・武蔵野東学園グループに属する武蔵野東技能高等専修学校。

武蔵野東学園は、自閉など発達障碍のある子と健常児がともに学ぶ
混合教育の理念をわが国ではじめてとりいれ、現在も推進していることで有名です。

武蔵野東技能高等専修学校もその例にもれませんが、
もと不登校児などなんらかの挫折を経た子が多く、
高等教育機関としてはユニークな存在。

そんな中にあって学校一の部員数を誇るラグビー部。

監督の天宮先生はじめ多彩なコーチ陣、障碍のある子をふくむ大所帯の部員たち、
バックアップする保護者・OB
の汗と涙の奮闘をつづったドキュメント。

・・・といってしまえば簡単なのですが、

天宮先生のたえざる努力を筆頭に
チーム一丸となっためくるめく思い、ぶれない意志に圧倒されます。

外部の者からみれば、
中学卒業まであまり運動経験の無い子や
まして障碍のある子が
「ラグビー」というとりわけ激しく消耗する競技に
そまり没頭してゆくこと自体『奇跡』のようにみえます。

自閉のように独自のこだわりの強い生徒さん、ラグビープレーヤー
とはおよそ対極にあるような気がするのですが、
おそらく天宮先生も、はじめから綿密に計画した設計図が
あったわけでなく、無我夢中で日々真正面から取り組んでいるうちに
おのずから「活きる力」としての武蔵野東ラグビーが実を結んだのでしょう。

コンタクトプレーのぶつかりあい、
一瞬にして変わる立場・状況で
集中力・察知力がやしなわれる。
殊に障碍によってことばのコミュニケーションが円滑でない子
が、いわくいいがたい思いをふくめ
「仲間の気持ち」を文字通り「肌で」感じ取っている、
ちょっと例をみないすごいことだと思います。 

武蔵野東に入学するまでに、いじめにあったり、
不登校だったりして心に傷を負う子たち。
ガラスのようにもろく繊細な心は、
反面、驚くほど素直で
無条件な信頼という「愛情」を浴びると
めざましく順応してすばらしい底力を発揮する・・・。

誰かに必要とされる。
誰かの役にたっている。
部員ひとりひとりにとって
その喜びと自信の大きさは、かけがえのない宝。

先生がたの日々たゆまぬ努力はもちろん、
思春期の成長に多くの「得がたい人」との出会い
がいかに大切か、痛感させられます。

天宮先生自身の、学生時代の挫折と試行錯誤。
偶然聴講した「体育心理学」の講義により
目からうろこがおちて、運命の道、教職へとみちびかれてゆきます。
若き日の蹉跌や苦しんだ経験が、
悩みをかかえた生徒たちに接するときに
とても大きな財産になっていることが伝わってきます。
(・・・この天宮先生前史の下り、筆者の大元さんご自身の投影もあるのか
非常にリアルに迫ってきます。とりわけ第四章はくりかえし読者に読んでほしい
と願います。)

・・・小説なら、全国大会で優勝して歓喜のラストシーンでめでたしめでたし。
でもいいのですが、実際はエンドレスループで
きのう、きょう、あしたがえんえんとつづいてゆきます
(武蔵野東のみならず、どのチームでも)。

たくさんのひとたちに支えられ、

ときには期待した部員の離脱や離反、
そんな事はくらべものにならないほどつらい教え子の訃報
なども経験しながら、
悲喜こもごもをつみかさねて

「天宮プロジェクト」はこれからもネバーエンディングに
すすんでゆくことでしょう。

現実は茨の道・・・、決して甘く楽しくはないけれど、
みんなで達成し乗り越えたところにかつて味わったことのない幸せもある・・・、
しずかな感動と励ましを与えてくれる好著です。

子をもつすべての親御さま、
毎日クラブに熱中している高校生、
教職、福祉系をめざしている学生さん
にぜひ、一読していただきたい本です。

『一緒に見上げた空』

一家に一冊、お備えください。


(大元よしき著・扶桑社刊・2009年1月)


(Mar 6, 2009)


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