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2015.10.13
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カテゴリ:古本コレクション

邦坊3.jpg

あなたが舞踊をやりだしたのは幾つからですか』
『昭和二年、十六歳で東京へ出てきたのです』
『十六歳で』
『ええ、
石井漠先生のもとに三年いて、それから十八で京城へ帰りました』
『なるほど』
『すると、親たちが早く結婚しろというのを押し切って勉強を続けました』
『しかし、二年してすぐ結婚したんでしょう』
『ええ、それは朝鮮というところは大体芸術家は卑しいものとして、
お嫁にしない風があるのです』
『お嫁にしなきゃ何にするんですか』

『パトロンがついて、妾にするんです』
『あなたにもそのパトロンが申し込みましたか』
『ええ、随分煩かったですわ。だから私、そういうパトロンから逃げる為に
防風林みたいなものが必要だったのです』
『へ、防風林 ?』
『ところへちょうど兄のお友達で年は二つぐらいしか違わないけど、今の夫と・・・』
『ちょっと、待って下さい』
『何ですの』
『その防風林というのは夫のことですか』
『ええ』
『風除けとはけしからん。あなたは夫を愛していないのですか』
『愛していますわ、そりゃ』
『エヘン』
と次の間から満足の咳払いが聞こえる。


『しかし、私小さい時から周囲の人から愛される立場であったから、
自分から積極的に愛する立場になったことがないの、だから愛に対する本当の経験が無いわ』
『あなたは子供があるでしょう』
『ええ、子供も愛しているわ』
『じゃ、家庭生活は円満だな。夫も愛しているし、子供も愛しているから・・・』
『ええ』
『ファンからのラブレターや誘惑は来ませんか』
『ラブレターなんか来ません。世間では私に夫があること大抵知っているから・・・』
『誘惑は ?』
『舞踊に夢中になっているから、そういうものを受け入れる暇がありませんわ。
それに私は自我が強いから駄目』
『エヘン』
と再び満足の咳払いが聞こゆ。

『あなたの子供は幾つですか』
『五歳』
『あなたは幾つですか』
『二十五歳』
『じゃ、結婚するとすぐ出来たのですな』
『ええ』
『やっぱり脚が長くて跳ねますか』
どうもこの質問のコトバはよくない。まるで馬の子みたいだ。
『門前の小僧習わぬ経を読むっていうのでしょうか。私の真似をよくするのですよ。
パタンと転ぶところなんかやって見せるわ』
その位なら僕でもやって見せる。

崔承喜5.jpg

愛娘の勝子ちゃん、のちの安聖姫は自身も優れた舞踊家になり、
一家の帰国後モスクワに留学したり、数々の国際コンクールに出場しました。
当時の雰囲気がつたわってきます。

崔承喜4.jpg


『あなたのその髪はなんですか』
『ただの断髪』
『人見絹枝嬢もそういう断髪をしていたな、彼女とあなたはよく似ている』
『そうですか。今度オリンピックは日本でしょう。私、走ろうかな』
『孫選手と一緒にお走りなさい』
『ええ、ホホホホホホ』


今度のオリンピックは日本
とは、1940年開催予定だった東京オリンピックをさしていると思われます。


『あなたは何が好きですか』
『映画を見ることと・・・』
『別に僕が奢るわけじゃないから遠慮なく好きなものを並べてください』
『私はあんまり、好きでたまらんというようなものはありませんわ。
ただ眠ることが好きなの』
『眠ること・・・それならタダだ。ウント眠りなさい』
『一日に十も踊るんでしょう。そりゃくたびれますわ』
『もう、そろそろくたびれましたか』
『ええ』
『それじゃ眠りなさい』
僕は立ちあがって、最後に、
『あなたは化粧をしてないようだが、ふだんはしないのですか』
『簡単ですわ。眉を引くのと、唇を描くのと・・・・』
『あなたの、その唇は中々いい格好だ』
僕は唇を誉めて、
『そういう唇はキッスがとても上手なものですよ』
といったら、次の間から、
『エヘン、エヘン、エヘン ! ! 』
と三つも大きな咳払いがした。
僕、急いで帽子をとって、ステッキを抱えて・・・

『いや、どうもお邪魔しました。』(をはり)

明眸皓歯の美しい舞姫に、悩殺される邦坊画伯(^^)。

『婦人倶楽部』本文以外の画像は、すべて『世紀の美人舞踊家崔承喜』(エムティ出版)より。

1936年、崔承喜は芳紀25歳。
新進舞踊家として絶賛され、家庭も円満で公私ともに順調。
彼女の劇的にして数奇な波乱万丈の人生で
最も安定して幸せだったのがこの東京時代でしょうか。
とても切なくなります。

よりくわしく知りたい方に、西木正明氏の『さすらいの舞姫 北の闇に消えた伝説のバレリーナ
小説ですが、秀れた評伝になっています。




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Last updated  2015.10.19 11:22:48
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