【大阪春の陣!老パーソナリティの決闘】
Hマムラ純がお手洗いで、ゆるゆると小用を足していた時のことである。Hマムラといえば、長年ラジオパーソナリティとして、押しも押されぬ大阪の朝の顔としておなじみである。「ありかとう~」ともう何十年言い続けてきたことだろう。その横にどかっと入ってきた男がいる。フンと鼻息を荒げて、なにやらHマムラに威圧を与えている様子だ。「な、なんや」Hマムラが少々驚き横を見ると、その男はこちらを睨みつけている。老齢に達した痩せ形の体型に、THと書かれた野球帽をかぶっている。なんとその男は、ライバルのDジョウ洋三ではないか!この男も長年にわたりHマムラと同じ時間に大阪でラジオパーソナリティをつとめ、Hマムラと二分する人気者だ。換言すると、この両者は長年の宿敵という関係である。Dジョウは、唾がかかるほどにHマムラに近づき叫んだ。「おいっ、じゃまやっ」「お前が後から入ってきたんやろっ」「ちゃうわ。ラジオ業界から邪魔やっちゅうてんねん!」かなり攻撃的である。何十年にもわたる遺恨がたまっているのだろう。しかし、ここはHマムラも負けられない。反撃せねば「おいDジョウ。先輩として言う。馬鹿の一つ覚えみたいに阪神、阪神て言うな。お前が張り切っても阪神弱いやないか、同業者として恥ずかしい」「馬鹿ってなんやねん。失礼やろ。阪神への冒とくやぞ」「馬鹿は馬鹿やろ。お前日本大学やろ。オレは同志社大学じゃ」反撃に酔うHマムラ。しかし話が少々脱線ぎみではある。Dジョウも少々理解しがたいといった表情だ。「へ?なにわからんことしゃべってんねん。老人はこれやからかなわんわ…」「Dジョウお前も70歳過ぎてるやろ。お前も老人じゃ」そう、血管を浮き出して罵り合うお二人は、とうに前期高齢者と後期高齢者なのである。ゲートボール中に喧嘩する老人たちと何も変わらないわけだ。「Hマムラぁー。お前映画評論とか言って、どうせ映画見てても寝てるんやろ」「あほか、お前も年取ってナイター中継の途中で寝てるんやろが。阪神の結果はニュースで見てるだけやろ」言い合いを続けるのだが、ふたりとも小用便器から立ち去る様子はない。まだまだ言い足りないことがあるのか・・・。「終わったんやったら、はよどけよ」「いや終わってない。お前は終わったんやろ」「いやいや、オレ終わってないよ」「・・・・」とたんに歯切れが悪くなる二人。実はふたりとも、高齢ゆえにおしっこの切れが悪くて、滴がポタポタと垂れ続けているのであった。終わるに終われないわけだ。無言になって自分の男性自身を振る仕草を続ける。HマムラとDジョウ。その後ろには、小用を待つ人たちがずらっと行列を作っていた。