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昨年来ベストセラーになっている「その日の前に」を読んだ。通勤電車の中でお父さん読者たちが涙を流して読んでいる、とちょっと大げさながら話題になった本である。
7編の短編で構成され、前半はそのつながりがよく分からないが、後半になってこれらが一つにつながる。 登場人物は同氏のほかの作品同様、ごくごく普通の家族である。だからいつも身近に感じられ、無意識のうちに自分自身が登場人物に重なってしまう。そしてどんどん本の中に引き込まれていく。 「その日」は、愛する妻との別れの日のことである。突然のガン発見。その時点で既に余命短い妻。告知。そして1年程度の余命と宣告された妻は、ガンの進行が速く、「その日」は思ったより早くやってくる。 終に「その日」が来て、妻が亡くなってしまう。「その日」までの夫婦互いの愛情、やさしさが深い分だけ、「その日」を迎えた時の悲しさも深い。 しかし一方で、ガンが告知される前の心配で不安な毎日の方が精神的に辛く、逆に告知された後は意外と淡々と日々が過ぎてゆく様子が描かれている。これがまたリアルで、人間の本質が描かれているように思う。 この本は、大切な家族がガンになった時の悲しさや苦悩がひしひしと伝わってくる作品である。ガンを告知された本人の複雑な心境も絶妙に表現されている。また、「告知」についても考えさせられる。 一般的に、家族の誰かがガンを患ったことがあるという人がほとんどではないだろうか。私もその一人である。本を読んでいて、父をガンで亡くした時の記憶が鮮明に蘇ってきた。やはり突然、余命数ヶ月と宣告された時は言葉では表現できないくらい大きなショックを受け、告知すべきかどうかなどいろいろと悩んだものである。 多くの読者が自分の体験を思い出し、そこに登場人物の深い愛、優しさに触れ、思わず涙してしまうのがよく分かる。そのような素晴らしい本である。 本の最後の章は、「その日」の後である。妻が亡くなって数ヶ月が経ったとき、妻が残した手紙を受け取る。そこには妻の愛情と優しさが込められている。 死を迎える前に、もし一通の手紙を書く時間が与えられたら、いったい誰にどのような手紙を書くのだろうか? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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