筋の収縮様式
筋肉はその長さを短くしよう収縮して力を発揮する.例えば肘を曲げようと(肘の屈曲)すると肘の屈曲筋である上腕二頭筋が収縮し、筋は短くなり肘が曲がる.しかし、そのとき手首が固定されていると筋は収縮しようと力を発揮するが筋は短くはならない.また、上腕二頭筋が発揮する力より強い力で肘を伸ばすように力を加えると、筋は収縮しようとして力を発揮するが筋の長さは長くなっていく.つまり引き延ばされながら力を力を発揮する.
筋がその長さを短くしながら力を発揮する収縮を短縮性収縮(コンセントリック)、引き延ばされながら収縮しようと力を発揮するのを伸張性収縮(エキセントリック)といい、短縮性と伸張性を動的収縮(等張性収縮:アイソトニックス)という.短縮性の中で特に収縮の速度が一定の場合を等速性収縮(アイソキネティクス)という.
また、筋がその長さを変えないで力を発揮する場合を等尺性収縮(アイソメトリックス)といい、動的収縮に対して静的収縮とも言う.
筋力はこれらの収縮の仕方により発揮できる力も異なる.
コンセントリックの筋力は、アイソメトリックスと比べて低く、収縮速度が速いほど筋力は低くなる.反対にエキセントリックではアイソメトリックスと比べて高い筋力を発揮する事ができる.
力を決定するもの
筋肉そのものの発揮できる力は筋の断面積に比例する.しかし、人が筋力を発揮する場合、筋力は断面積だけでは決まらない.つまり、その筋肉を使いこなしているか否かが筋力発揮の要因になってくる.人が力を発揮しようとする場合、神経によって筋に刺激を与えなければならない.頭で筋力を発揮しようと考え、神経が筋に命令を伝える時、その命令の量が多いほど筋は一度にたくさんの筋線維を収縮させる事ができ、大きな力を発揮できる.そして、一般的には自分では最大筋力を発揮しているつもり(最大努力)でも実際は筋に最大の命令が伝わっているわけではなく、全体の何割かの筋線維に命令が言っているにすぎない.そしてその割合は個人差があり、同じ量の筋肉を持っていても筋力差が生じる原因となっている.トレーニングによってこの割合をある程度増やすことができる.しかし、100%に持っていくことは不可能である.筋肉の持つ筋力を100%発揮すると、腱や骨、関節、さらには筋自身に負担がかかりすぎるため、一種の防衛措置として制御、抑制されているともいえるのである.声を出して力を出すとより大きい力でることは経験的にも科学的にもよく知られている(シャウト効果).これは声を出すことにより抑制が切れるためだとも、大脳の興奮水準を高めるためだとも言われている.それは自分が声を出さなくても、大きな音を聞かされても同様の効果がある.しかし、シャウト効果などで筋力が大きくなる場合、抑制がはずれているため動きの制御能力が落ちるとも言われている.つまり、筋力は大きくなるがコントロールが低下すると言うことである.したがって、バレーボールなどでサーブを打つ瞬間に「そーれっ!」と声をかけると、打つ力を強くし、コントロールを失わせることになる可能性がある.
関節角度と筋力
肘を曲げようとする時、肘の角度によって最大筋力は異なる.その変化の原因として、
1.筋自体の長さで最大張力が変化する
2.関節角度の変化によりテコとしての能率が変わり、外部への伝達が変化する
が考えられ、その両方が重なって最大筋力の変化をもたらす.
筋収縮の力と速度
重いものを持ち上げようとすると大きな力を使うが速く持ち上げることはできないし、軽いものを持ち上げる時には速く持ち上げることができる.逆の言い方をすれば、ゆっくり動いているもの(静止も含め)は大きな力で押すことができるが、速く動くものは小さな力でしか押せず、速すぎれば押すことすらできない.この力(負荷)と速度の関係には一定の法則があることが確かめられている.筋は強い力を出す時にはゆっくりとしか収縮できず、軽い負荷ならば速く収縮することができる.
力と速度をかけたものをパワーという.パワーは横軸に力、縦軸にパワーとしたグラフを書くと、山なりの曲線となる.最大パワーは最大筋力の約35%の時に現れる.
筋力とパワー
パワーとは力と速度の積であるから、力が無くても、あるいは速度が無くても高いパワーは得られない.一般的には筋力とパワーは同じと考えられていることが多々あるが、筋力とパワーは異なるものである.たしかに、最大筋力の高い人ほど最大パワーも高い傾向にあり、特に高負荷でのパワーは筋力の高い者の方が高いパワーを発揮する.しかし、低負荷でのパワーにおいてはあまり差が無くなり、筋力の低い方が高いパワーを発揮する場合もあり得る.その理由は、パワーは力×速度であるから、筋力が上がったことでパワーは向上したが、速度が向上した訳では無いからと考えられる.したがって、スピードをつけたいがためにパワーの向上を図ったとしても、筋力をつけただけでは意味がない事を示している.意味が無いだけならまだ良いが、筋力をつけたことで筋肥大により体重が増えると、身体が負荷として増えスピードが落ちてしまう事があるため注意が必要である.
筋線維の性質とその働き
筋線維は大きく2つの性質の異なる線維、速筋線維(FT線維)と遅筋線維(ST線維)に分類できる.速筋線維はその名の通り収縮速度が速く、力も大きいため、素早い動作や力の要る運動に重要な働きをする.しかし、疲労しやすいという特徴を持つ.遅筋線維はあまり大きな力を発揮することや速く収縮することはできないが、持久的な能力に長けている.遅筋線維は酸素を取り込むための毛細血管が発達していて赤く見えるため赤筋、それに対して速筋線維は白く見えるため白筋ともいう.
FTとST線維が混じり合って1つの筋を形成しているが、その割合は個人よって異なり、それが運動能力に影響を与えていると言われている.一流選手の比率を見ると競技種目と密接な関係があることがわかる.例えば、マラソン選手ではSTのしめる割合が非常に高く80%以上である.一方短距離選手ではFTが60%以上を占めている.
この筋線維タイプの比率はトレーニングや食事などの環境条件によるものであろうか? この筋線維タイプの比率は遺伝的影響を強く受けていると言われている.しかし、FT線維はさらにAとBの2つに分類され、Aは遅筋線維と速筋線維の中間の性質を持っていると言われ、この線維はトレーニングによって遅筋線維あるいは速筋線維に近づくと言われている.また、筋によってはトレーニングによって比率が変化したという報告もあるが、変化しないと言う報告もある.それに、線維タイプの特性は変化しない事は明らかになっている.つまり、トレーニングによっては刺激される筋線維タイプが違うためその発達状況によっては比率は変わるが、遅筋線維が速筋線維に変わることは無いという事であろう.したがって、遺伝的な筋線維で運動能力が決まるわけでは無いが、やはり遅筋線維が80%以上の者が、短距離競技を行うのはあまり適さないと言わざるを得ない.すなわち、筋線維タイプの比率が競技特性の合っている選手の方が有利だといえる.
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