シネマ歌舞伎~坂東玉三郎
午前中から外出。先日、仕事をする決心をしたので、ヒマでないと行けないところへは今のうちに行っておく。横浜東口から、市営バスで本牧へ。バスから見て初めて気がついたが、旧東横線ガード下のグラフィティは、きれいさっぱり消されてしまったのだな。ニュースなどで取り上げられて名所のようになったのは、もう15年ほど前になるか。非合法な行為であることは別としても、ここ数年はやはり活気がなくなっていたのか、最後にここを通ったのはいつだったか忘れてしまったが、いつまでも上描きされずに、薄汚れていくものが増えているなぁとは思っていた。それにしても、ただ消してしまうのはちょっともったいない気もする。和田山口、下車。マイカル本牧。MOVIX本牧、シネマ歌舞伎。ここの映画館に来てみようかという気持ちが先にあって、上映スケジュールをチェックしてみたら、こういうものをやっていることがわかった。「シネマ歌舞伎」というものの存在は前から知っていたが、今まで、そんなに積極的に観たいという気にまでは至らず。しかし、ほかに観たい映画もなく、なんとなく、今はこれがベストの選択かなと思ってしまう。そもそも、この劇場は毎週火曜がメンズデーで、そのために検討していたのだけれども、シネマ歌舞伎の料金を確認したら1000円均一。それならばいつでも一緒だってんで、早めに来ちゃおうと思って今日にした。チケット売り場。何故か、店員が「2名様ですか?」と訊くので、えっ? と思ってふり返ったが誰もいない。ちょっと怖いじゃないか。ひとりでシネマ歌舞伎を観るような風体には見えなかったんだろうか。劇場に入ってわかったが、ほかのお客は、少人数だったけれども、もれなくお年寄りだった。まぁ、そんなもんかな。シネコンだけど、珍しく自由席。◆「京鹿子娘二人道成寺」。歌舞伎を生で観たことは1回だけしかなく、そのときは居眠りしてしまったのでほとんどゼロのようなもので、僕の歌舞伎についての知識は落語を通じてのものと、あとはゴシップ的なものでしかない。まったく歌舞伎には疎く、それでも、スクリーンで観る歌舞伎ってどうなんだろう、とは思っていたのだが、いや、これは想像以上に良かった。退屈も覚悟していたが、まったくそんなことはない。テレビの歌舞伎中継と比べてしまうのだけれども、それとは迫力がまるで違う。もちろん、これは生で観る歌舞伎を存分に体験してないものの感想で、生で観る歌舞伎には代えられないものに決まっているのだが、しかし、肉眼で観るよりもクリアに感じる部分もあるし、なにより、歌舞伎初心者にとっては、観るべきところをカメラが追ってくれるのが良い。当然のことながら、そこには、ここを観せたいという作り手側の視点がある。なにしろ、眼に飛び込んでくるものがいちいち新鮮で、ストーリーにはほとんど意識が行かなかったのだが、それはまぁ、あとで勉強しよう。ふたりの女形、坂東玉三郎と尾上菊之助がとにかく舞いっぱなし。その圧倒的な美しさをただ眺めていればそれで充分である。邦楽の心地好さもめいっぱい味わえる。上映時間71分。終盤では、それまでの場面がフラッシュバックする、映画ならではの演出もあった。編集には、坂東玉三郎の名もクレジットされている。安いので、もう1本。チケット売り場でチケットを買い直す。パンフレットも買う。隣りのスクリーンには、泣きながら野球をするらしき映画に列ができている。シネマ歌舞伎のほうがよっぽど面白いのに、ものの価値がわからない連中だ。◆「日高川入相花王」と「鷺娘」の同時上映。それぞれ30分程度の、小品という言いかたが正しいかはわからないが、軽く観ることができるものだった。「日高川入相花王」は、「人形振り」というらしいのだが、これは初めて観るものとしては衝撃的に面白かった。要するに、文楽の人形を生身の人間が演じるというもので、玉三郎が人形を、菊之助が人形遣いを演じる。こうなるとほとんど、技術的にはパントマイムに近いんじゃないか。船頭の人形を坂東薪車という役者が演じているのだが、眉が動く仕掛けになっていたりしてかなり滑稽。WAHAHA本舗あたりが同じことをやっていてもたぶん違和感がないだろう。「鷺娘」は、全編、玉三郎の舞踏。2本通して今日は玉三郎たっぷりだったのだが、玉三郎というひとはどうやら、役者というよりもダンサーと考えたほうが理解できるように思えた。それにしても、マイカル本牧。5番街が廃墟化しているのにはちょっと驚いた。ハトがいっぱい。ブックオフ。買いたい本がたくさんあって困った。本牧というところはひとの流動性がないせいか、良い本はこの土地に溜まっていくのかもしれないと思えるほど。荷物になるので、きりが良いところで10冊に抑える。100円本、10冊。村上春樹、町田康、平山夢明、坪内祐三、阿久悠、矢野誠一、茂山千之丞、井伏鱒二、グルーヴィーブックリビュー、これで9冊。あと1冊がすごい。おとといに続いて、またもやサイン本!佐久間駿・平岡正明「DJ」という本に、平岡正明だけのサインが入っているのだが、「藤井武様」と名前が書いてある。藤井武って、この藤井武かしらん? モスバーガーで休息。次項へ続く。