五月休みに風は凪。日差しはうららかに目に宿る、五月の休日。 前の日に、お義母さまと新宿のデパアトに出掛けた折に、珍しく鮎が手に入ったので、今日はそれを焼きましょう、と、私は庭に出て、七輪に火を起こしておりました。 野菜の買い出しに行ってゐた夫は、帰ってまいりますと、早速に蚕豆をさやごと焼き網の上にのせ、冷蔵庫からビイルを取り出してコップに移しました。 じゃが芋に、茄子に、しし唐と、夏の始まりを思わせる野菜を少々焼いた後で、私は冷蔵庫から茶色の紙袋を取り出しました。 「あまり沢山なので、半分、お義母さまに持って行って頂いたの」 と云いながら袋を開けると、少し痩せてはいるものの、若い鮎が三匹、薄緑色の腹を滑らかに光らせて居りました。 荒塩を降り、七輪に載せて煙を掃っておりますと、何時もの猫達がやってまいりました。白地に黒と茶色の斑がある三毛猫と、白地に茶色の斑猫は、実は全くの野良猫達であるのですが、私達がここに住み始めて間もない頃に、ふらり、とやってきましたのに、ほんの少し餌を与えてやりましたところ、以来毎日のように餌をねだりにくるやうになったのです。 「ほうれ、みいけ、にいけ」 夫は猫達に簡単な名前をつけて可愛がり、膝に乗せては頭を撫ぜたりいたします。今だとて、私が1匹、夫が2匹、と思っておりましたせっかくの鮎を、猫達にも1匹与えてしまいました。 「あら、いやですわ」 と私が呆れましても、夫は 「かまわぬよ、かまわぬよ」 と笑って、ビイルを一口煽るのでございます。 朝飯とも昼飯ともつかぬのんびりとした一時を過ごした後、夫は居間のソファを陣取ってテレビゲエムを始めました。 なんでも街で流行っているものださうで、小さな男の子が仲間と隊列を組んで冒険をするのださうです。 私は、その背で洗い物をしてゐたのですが、暫らくして、ことり、と何かが床に落ちる音が致しました。 あら、と、振り返りますと、夫は、ゲエムをしている侭の格好で居眠りをしており、床には、コントロオラアが落ちてございました。 「どうかしました?」 私が声をかけますと、夫はすぐに目覚め、一つ大きな欠伸を致しました。 「いかん、眠ってしまったよ」 夫はそのまま布団を敷いてごろりと寝込んでしまいましたが、何時か夫が不帰の旅に出るときにもこのように何気なく、ぱたりとゲエム機を床に取り落としたまま行ってしまうのではと、少しばかり頼りなく、それでも不思議と穏やかな心地が致しました。 庭先では、干したゴザの上で相変わらずに猫が眠っておりました。 それはほんの、昨日のことでございます。 おしまい |