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トールも製作に関わったオラクルカードです♪

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2009年05月12日
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彼女が飲み込まれた次元の穴は閉じてしまった。
彼はどこから出てくるだろうか、とミカエルは思った。
通常ならむこうから穴を開けてくるはずだが、今の彼にそれだけの力が残っているだろうか。飛び込んだときすでに重傷を負っていたのだ。

戦いが膠着状態に陥り、一度互いに兵をひいた状態にあるのが幸いといえば幸いだった。
そのうち、なにかの予感を得たものか、天使たちが幕営の背後にある広場のような場所に集まりだした。
自然と大きな環を描いてゆく。ミカエルもそれに続き、そして彼が人垣の最前列に出たときだった。

環の中心に小さな虹色の光点が現れ、それが広がった。
大きな黒い翼を持つ男が、血まみれの華奢な身体をしっかりと抱いている。月光を映していたはずのその髪は、暗い闇色に変わっていた。
光が消えると、男はぐらりとその場に膝をついた。ラファエルが駆け寄る。

男はラファエルの手を借りて、腕の中の身体をそっと地面に横たえた。
彼女の身体を離したとたん、力尽きたように両手をついて荒い息をする。その額には脂汗がうかんでいた。

ラファエルは横たえられた彼女の身体を丁寧に検分し、辛そうに目を閉じて首を横にふった。

「もう・・・・・・」

存在の薄くなった彼女の身体を見れば、誰にもその予測はついていた。けれども癒しの天使の奇跡を、同じく誰もが切望していたに違いない。
きつく手を握りしめたラファエルが否定を示したことで、その場の天使たちに呆然とした気配がひろがった。

(助け・・・・・・られなかった?)

ミカエルはよろめくように輪の中心にむかった。
そこに横たわる愛する子。

ラファエルはしばし無言で唇を噛み締めたあと、トールをふりむいた。

「この種は・・・・・・あなたのものですね?」

かすかなうなずきが返る。今彼女の存在そのものをささえている、唯一の核といっていい種。
生命エネルギーの根源ともいえる種を渡してしまえば、今度は彼自身の存在すら危うくなるはずだった。

(ありがとう)

万感の想いをこめたひと言を、ラファエルは伝えた。彼女の上半身をそっと膝にのせ、優しく金髪をなでる。ぽろぽろと涙が頬を落ちた。
いいや、とトールは首を振った。礼を言われるようなことは、何もしてはいない・・・・・・彼女は死んでしまったのだから。
いつかそこにはミカエルもきて膝をつき、碧空の瞳に大きな痛みと哀しみを宿して動かぬ手を握っていた。

亡骸を護る三人の天使を中心に、哀哭が波のようにひろがってゆく。

助けられなかった。

大事な大事な、私たちの愛する天使の子。
この魂を分けし愛(めぐ)し子。

ただでさえ共鳴し響き合う天使の中にあって、自らの特質をより強く受け継ぐよう、またその生の責任をとるために魂を分けた。

必要だから・・・・・・必要だからと、道具のように扱われたと、彼女は思ってしまっているだろうか。
けしてそうではなかった。

その魂が生まれた瞬間から、計算された特質を発揮する前、まっさらな魂であるそのときから、たくさんの天使が彼女の輝きを愛してやまなかった。
やがて失われることを知りながら。

日がかげる。
落日の赤い残光が、広場をつかのま染めて消え去ってゆく。

誰が歌い始めたのか・・・・・・いつしか、天使の環に嘆きのレクイエムが流れた。


  Huic ergo parce Deus, (神よ 彼らを惜しみたまえ)
  Pie Jesu Domine, Dona eis requiem. (慈悲ぶかき主よ 彼らに安息を与えたまえ)
 
  ne absorbeat eas tartarus, ne cadant in obscurum;
  (彼らが冥府にのまれることなく 闇に落ちることのなきように・・・・・・)


「・・・・・・彼女は俺が預かろう」

やがてミカエルが言った。宵闇の中三人は立ち上がる。ルシオラの身体を抱き上げる権利はトールに与えられた。
トールはすっかり軽くなってしまった彼女の身体を抱いて立ち上がり、それだけが前の彼と変わらない、青灰色の瞳でその動かぬ顔を見つめた。

このままでは転生できぬほど、彼女の魂は失われてしまっていた。
それはすでにあまりに儚く、世界樹に預けても逆に吸収されてしまうかもしれない。

三人の天使たちのさらに中心で、さしだしたトールの腕から華奢な身体が浮かび上がる。
うっすらとした燐光を放つそれは収縮し、やがて小さな光の玉になった。
その芯の部分でかすかに脈動しているのが、トールが渡した命の種だ。

ミカエルはその光の玉をそっと手に受けると、残りの二人をかえりみた。

「元々俺の魂を多く分け持った子だ。世界樹に預けられるようになるまで、俺の中で育てようと思う。・・・・・・お前とともに。かまわないか?」

最後はトールへの言葉だった。白と黒の天使がそれぞれにうなずく。
命の種が彼女の中にあるかぎり、いつどこにいようと、文字通りトールからは命のエネルギーがつねに供給されることになる。
彼自身はすでに消耗しきっていて彼女を中で育てることはできないが、つながりがなくなってしまうわけではないのだ。

手を、離すわけではない。
自らに言い聞かせるように、彼は胸中に呟いた。






痛いほど空気の澄んだ夜だった。
白銀の月が空にある。

トールは戦場の端で、たった一人その月を見上げていた。
彼の髪はもはや月光を反射することはなく、その翼も、ぼろぼろになった瑠璃のマントさえ血と闇とを吸って黒い。
その姿は、半分闇にとけた哀しみそのもののように見えた。

冷たい光を受けて、彼は目を閉じる。
まぶたの裏に時の環がめぐるのを感じながら。



























*************

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最終更新日  2009年05月12日 08時22分46秒
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