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窓辺でお茶を

窓辺でお茶を

本箱(今の日本についての棚)

・「憲法『押し付け論』の幻」
・後藤田正晴「語り遺したいこと」
・「人間を幸福にしない日本というシステム」
・「粉飾国家」
・「なぜ、いま代用監獄か ―えん罪から裁判員精度まで―」


『憲法「押し付け」論の幻』小西豊治著 講談社現代新書1850

 日本国憲法は、実は、明治時代からのデモクラシーを主張する人たちあってこそ成立したものなのですね。罰金、投獄、職を追放されるなど迫害にあいながらも、民主主義を追求した人たちの努力が実を結んだといえるでしょう。最初マッカーサー案には、「主権在民」と「象徴天皇」はありませんでした。天皇制を存続させる必要があるとは思われていましたが、「国体」をどうしたものか、考えあぐねていました。そこに提出されたのが、日本人の「憲法研究会」による草案でした。

 「憲法研究会」のメンバーは高野岩三郎、杉森孝次郎、森戸辰男、室伏高信、岩淵辰雄、鈴木安蔵、のちに馬場恒吾が加わった7名でしたが、中心になったのは、鈴木安蔵でした。

 鈴木は戦前から、吉野作造の憲法成立史研究の後を継ぎ、明治憲法制定過程やフランス憲法、プロシア憲法の研究を進めていました。そして、起草者不明の「日本国国憲案」を紹介しましたが、研究の結果それが植木枝盛によるものだと断定するに至りました。植木案は、「日本国の最上権ハ日本全民ニ直属ス…」と国民主権の考えが明確でした。個人の人権を保障し、抵抗権・革命権も認めています。

 けれども、1936年に2・26事件、1937年には盧溝橋事件が起き、日本はファシズム化が進み、鈴木は出版法違反で罰金を言い渡されてしまいます。

 終戦の年10月から、鈴木は憲法改正案の執筆を始め、高野に声を掛けられて憲法研究会のメンバーになりました。研究会で検討してまとめた案はアメリカ総司令部に渡され、日本国憲法成立に大きな影響を与えました。

 鈴木は、『戦前、行政権も司法権もはなはだしく国民から超越し、三権分立は空洞化し、「専制的一元的統治」となっていたから、議会の権限をいかに拡大しても民主化には不十分』と指摘し、国民投票により、内閣の不信任を決しうること、司法ならびに検察の官を公選すべきことを規定し、マッカーサー草案に補正要求を突きつけましたが、受け入れられませんでした。

 この本とは関係ありませんが、憲法9条は敗戦国である日本に再び武力を持たせないためのものでしたが、わずか数年後、朝鮮戦争が起きると、アメリカはこれを改変させて日本人を戦争に使おうとしました。日本がそれを拒んだ時点で、9条は押し付けられたものではなく、自分たちのものになったと私は考えます。


後藤田正晴「語り遺したいこと」 岩波ブックレットNo.667

目次は
「歴史に正対しなければ未来はない」 対談 加藤周一
「日米安保を見直す時期だ」     インタビュー 国正武重
[解説]後藤田正晴さんの「遺言」   国正武重

 後藤田さんは憲法を変えてはいけないという考えではないけれども、軽率に考えてはいけない、と語っています。自衛隊をいつまでも日陰者にしておくのはよくない、しかし、憲法上存在を認めるならば強い条件があり、第3項に「地域以外における武力行使はこれを行わず」と明記すべきである、と。

 まず、憲法とは何なのかを考えるべきで、そもそも憲法とは国民が政府権力を縛るものなので、国民の権利が制限を受ける恐れのある「公共の福祉に反しない限り」ということばは消した方がよい、自民党の若手政治家はわかっていない、又、総理主導の政治は総理専制に通じるおそれがあり、「総理公選制」は危険だと危惧しています。
(自民憲法案は後藤田さんの考えとは逆に国民の権利をより制限する方向の「公益および公の秩序」にことばを替え、義務を強調しています)

 加藤さんの考えでは現在の日本では9条には手をつけないほうがよい、日本人は60年間参戦しなかったし、死ななかったし、殺さなかった、9条はもともと日本の安全のためではなく隣人をもう1度脅さないために作られたもの、それをなくしたら、隣人は大きく反応するだろう。

 後藤田さんは日米安保についても、ソ連が崩壊したとき考え直すべきだったのに、周辺事態法により、安保条約の地域の観念が「事態の性質」に変えられ、地域拡大に繋がってしまった、とアメリカの世界戦略にずるずる引きずりこまれることを心配しています。すぐには無理でも、いずれ安保は軍事同盟ではなく、平和友好条約に切り替えるべき。

 仮想敵国だったソ連が崩壊したら、次は北朝鮮、その次は中国というが、本当に危険なら黙って考えればよいのに、煽っている。危機を煽って本当の危機にしてはいけない、という意見です。

 ぜひこれだけは伝えておきたいメッセージは?という問いに対する答えは 「もう少し自主自立のものの考え方でアジアに目を向けないと、アメリカ一辺倒ではこの国は危なくなる」でした。

 ここにまとめたことがすべてではありませんのでお読みになってみてくださいね。本当にリベラルの立場で考えていらしたかただったと惜しまれます。
後藤田さんが語り遺されたことを受け継いでゆきたいものです。


「人間を幸福にしない日本というシステム」 カレル・ヴァン・ウォルフレン著 新潮OH!文庫

もうだいぶ前に書かれたものなので、少し時代が変ったところや省庁の編成と名が多少変っていますが、まだまだ肝心のところは今も何も変っていない、それどころかますますひどくなっているので、、とても参考になる本です。

 まず、日本では表面は民主主義だが、実は官僚独裁主義だという指摘。 官僚に説明責任(アカウンタビリティー)がなく、国会で説明する必要がない。自分の所属する省庁以外の人に説明することを要求されないので、省庁の利益を超えた広い見地からものごとを考えられない。

 説明責任のあるシステムの重要な点は、恣意的かつ非公式な権力を排し、古い政策が人々の利益に合わなくなったら新しい政策を採用しやすくすることにある。(日本では官僚が法の規制を受けない非公式な権力になっている)

 日本では官僚が自分たちの決定に説明責任がないため、それぞれの省庁が法を草案し、思い通りに解釈し、許認可を与えたり与えなかったり、それとなく脅したりすることで、法を執行する権限を持っている。(財界との癒着にも繋がる)

 政治家の役割は「公僕」であるはずの官僚と国民との間を仲介することだが、その役割りを果たしていない。

 官僚は説明責任がないので、自らの間違いを認めることがなく、例えば長良川の堰の工事を進めようとしたり、バブルのつけを消費税という形で国民にまわしたりする。

 司法も独立していない。
裁判官は法務官僚から独立していないといけないのに、出世の妨げになるのを恐れて官僚の意向に逆らえない人が多い。最高裁は事務総局に支配されており、事務総局は法務省の保守的な官僚に支配されている。

 民主主義を実現するためには、一般の人々に情報が公開されなければならないが、政治に関する情報の多くが偽りの現実を維持するのに寄与している。

 知識人も国民を裏切っており、マスコミは世論を捏造している。 管理者(アドミニストレーター)たちが同じことを何度も繰り返すうち、他の人も同じ事を言うようになれば、ますます世論を呼びやすくなる。

 「総意」の本来の意味は決定されたことに当事者が賛成していることだが、日本では、一般に強い立場にあるものが他者に決定を押し付け、押し付けられた方はその決定から逃れられないとあきらめるところから生まれる。

 審議会は国民の代表と思われているが、本当は官僚に仕える召使によって構成されている。
審議の詳しい内容を一般に公開させるべきである。

 次の文章はアメリカの選挙について述べられたものですが、今回の日本の選挙にあまりにもぴったり当てはまっています。

 「テレビを利用する週間は政治のプロセスを大きくゆがめている。選挙では政治的な施行にかわって「イメージ」が重視されるようになった。(中略)テレビ用に短く帰し詰められたサウンド・バイトとコメントばかりが注目され、政治的思考の障害となる傾向がある。」


「粉飾国家」金子勝著 講談社現代新書

 グラフや表を多用して説明している本ですし、うまくまとめられないので、直接お読みになっていただくのが一番ですが、少し内容をご紹介します。
 年金制度を中心し考察し、最終章でどうするのがよいかという提言が述べられています。

粉飾国家とは(民間企業でも同様なことをしているが)

1.見栄えをよくするために、特殊法人や特別会計に赤字や不良債権を飛ばして隠す。会計や制度を複雑にし、いくつかの会計や制度の間でやりとりして調整することで失敗を隠す。
そして当事者以外わからない情報を作り出し、一部のトップで独占することがパワー(権力)の厳選となる。
野党が年金改革案を出したとき、自公が「具体的な数字が出ていないから無責任」と批判したのがその例である(自公の議員も計算はできず結果を教えてもらっているだけ)。厚生労働省も与党にのみ複雑な計算の結果を教える形でパワーを行使している。

官僚はたてわりで小集団となっているため、身内では互いの失敗をかばいあい、いじめや職を失うことを恐れて大勢と異なる意見や行動をとらない。

規制緩和や民営化では解決できない。 旧国鉄も誰も責任を問われないまま、国鉄清算事業団という特殊法人に不良債権を眠らせ、相変わらず大量の税金が注ぎ込まれ整備新幹線が計画される一方で、清算事業団の借金は26兆円に膨らみ、結局解散して特別会計として一般会計から利子を返済している。
道路公団も同じことをしようとしている。

2、不確実な未来の予測を含む領域を最大限利用し、失敗をかくすための結論がまずあり、つじつまあわせの予測値を選ぶ。
年金で言えば、出生率、経済成長率(賃金上昇率)、運用利率を甘く見積もっているため、何度も修正を繰り返している。

2000年に基礎年金の国庫負担率の引き上げを決めておきながら実行していないのは、財源が不足しているからで、年金の積立金を取り崩すしかないが、その3分の2は郵貯とともに特殊法人に貸し付けられ、特殊法人には多額の不良債権が眠っている。「改革」コストと称して税を投入しない限り返せないものもある。また、年金には「未積立金」という、加入者に対する借金といえる部分が多額にあるのが大問題である。

見えないところに借金を隠すやり方も、景気がよくなったときにこっそり返せた時代は機能したが、停滞が長く続くと持続できなくなる。

正しい財政状態が会計上に明確に開示されて、議会あるいは選挙民に正しく伝えられ、人々がその情報に基づいて直接間接に制度や政策を選択できる(フィードバックが効く状態)にすることが必要である。
責任の所在を明らかにし、国民(委託者)に報告、説明する責任〈受託者責任〉を持たせ、法的制裁もありにするべき。

年金は空洞化を防ぐためにも一元化し、年金制度を政府から切り離すのがよい。(民営化を勧めるわけではない。独立行政法人は議会のコントロールを効かなくし、資金の出し手の言いなりになりがちで官僚統制が強まる)。


「なぜ、いま代用監獄か ―えん罪から裁判員制度まで―」岩波ブックレットNo.669

 たいていの人は「代用監獄」などという言葉を聞いても自分には関係ないとおもいますよね。でも、最近痴漢容疑で裁判を受けていたサラリーマンに冤罪だとして無罪判決が出た事件がありました。(電車の中でその人の後ろにいた男がすきまから手を出したらしい)

 衆議院法務委員会で審議されている法案のひとつに「刑事施設・受刑者処遇法一部改正案」があります。 保坂展人のどこどこ日記

 在日米軍の兵士が犯罪を犯した時、日本の取調べが人権を軽視しているのを理由に引渡しを拒否していたというのは、米軍の言い訳だと思っていましたが、「なぜ、いま代用監獄か  ―えん罪から裁判員制度まで―」(岩波ブックレットNo.669)を読んでそうではないとわかりました。

 再審が決まった布川事件も代用監獄でつくられた冤罪と言われています。 「代用監獄とは何ですか?」
 なぜ代用監獄は冤罪の温床と言われるのでしょうか。
厳しい規則はあるが、守られず、実際には長時間の取調べが何日も続いたり、深夜まで、あるいは深夜に引き出されて取り調べられる。拘置所では防声具(猿ぐつわ)は使用されていないが、代用監獄ではいまだに使用され、2004年にも死亡事故が発生している。
罪証隠滅や逃亡を防止するためと説明されているが、拘置場所に拘置所が指定されても検事の準抗告により警察留置所に逆送されたケースもあり、実際には取調べが目的になっている。女性被拘禁者に対するわいせつ行為も続発しています。
代用監獄を経験した安田弁護士によると、(同書 2章 『弁護士が見たアクリル板の「向こう側」』)によると、パソコンや法律書、付箋など持ち込めないのは「防御権」の剥奪である。看守がどなりちらしたり、扉を激しくけったりして収容者の人格をゆがめ、肉体的精神的に破壊している。面会もアクリル板にあけられた小さな穴を通して話すのでとてもじっくり相談できない。
安田弁護士はやってもいないことを認めるようにという友人のアドバイスに従わなかったが、そのため10ヶ月間も拘留され、5000万円もの保釈金を支払わされました。

 国際人権(自由権)規約第9条第3項は、刑事事件において逮捕または拘留されたものは司法官憲の面前に速やかに連れて行かれなければならないことを要求しており、その期間は2,3日を超えてはならないとされています。
イタリア、イギリス、フランス、オーストリアなどヨーロッパ諸国では24~48時間で裁判所に移され、警察留置所に戻されることはありません。 被疑者の勾留を捜査に利用することがあってはならない、というのが近代刑事司法の大原則だからです。

 国際人権(自由権)規約委員会は代用監獄が規約(第9、10,14条)に適合しないと指摘し、日本の警察、検察の説明に対して捜査部門と拘束の部門が分かれているといってもトップは同じと批判しています。 2005年アムネスティ・インターナショナルのアイリーン・カーン事務総長は「代用監獄は日本の人権史に残る汚点であり、ただちに廃止されなければならない」と述べましたが、daiyo kangoku は不名誉な国際語になっているそうです。

 ブックレットでは4章の「刑事司法の今後」にて裁判員制度が導入されれば、調書裁判から、証人尋問による立証など直接主義、口頭主義の公判中心の裁判に移行するのではないか、と期待しています。と同時に、今次のようなことが必要と述べています。

・罰金刑しかない事件での勾留はしない。
 モンゴルでは重罪と最重罪以外は身体拘束されないし、韓国では起訴前でも保釈が認められている。
・取調べの可視化(録画、録音)
 少し前のイギリスの刑事ものドラマを見ていると、カセットのスイッチを押して「○○警部何時何分入室」などと言っています。最新のでそれがないのはビデオ録画になったからのようです。
・代用監獄は廃止すべき

 ローマ市警察の捜査部長は日本の現状を聞いて「それは拷問だ!」と驚いたそうです。
また、ウィニーで流出した愛媛県警の資料の中にこんな「被疑者取調マニュアル」あったそうです。(4月13日朝日新聞)
「否認被疑者は朝から晩まで取調室に出して調べよ。(被疑者を弱らせる意味もある)」「被疑者を弱らせる。そのためには,調べ官は,強靱な気力,体力を平素から養っておく必要がある」「被疑者の言うことが正しいのでないかという疑問を持ったり,調べが行き詰まると逃げたくなるが,その時に取調室から出たら負けである」


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