本の足跡

2011/03/30(水)11:42

東野圭吾 『超・殺人事件』

は行 男性(84)

 超・殺人事件評価:★★★☆☆ ミステリー短編集。全八話。--- 梗概 -------------新刊小説の書評に悩む書評家のもとに届けられた、奇妙な機械「ショヒョックス」。どんな小説に対してもたちどころに書評を作成するこの機械が、推理小説界を一変させる-。発表時、現実の出版界を震撼させた「超読書機械殺人事件」をはじめ、推理小説誕生の舞台裏をブラックに描いた危ない小説8連発。意表を衝くトリック、冴え渡るギャグ、そして怖すぎる結末。激辛クール作品集。(「BOOK」データベースより)-----------------------本物の本好きなど殆どいないのだ(中略)本を読んでいないということに罪悪感を覚える者、本好きであったという過去に縛られている者、自分を少々知的に見せたい者などが、書店に足を運ぶにすぎない。彼等が求めているのは、本を読んだ、という実績だけなのだ。(P301より) いやはや、東野圭吾という作家は、型にはめるのが難しい作家です。この人の作品の特徴はこうっていえないんだよな~。同じ人が書いたとは思えぬほど、まったく毛色の違う作品をだしてくるんですもの。すごいです。これも素晴らしいっ!!皮肉がピリリと聞いていて、ブラックユーモアあり、風刺あり。星新一さんの作品のようであり、阿刀田高さんの作品のようであり。出版業界の不条理、問題提起。作家の苦悩。読者への批判。どれも的を射ており、読者への痛烈な批判は耳が痛くもある(笑)彼の出版業界・読者に対する考えが通底する作品が、他にもあったと記憶する。作中、登場人物である黄泉に言わせた以下の一節からも、彼の考えは窺知できる。P301より。奇妙な時代だ、と思う。本をあまり読まないくせに、作家になりたがる者が増えている。さほど売れていないのにベストテンが発表されたりする。一般読者が知らないような文学賞が増えている。本という実体は消えつつあるのに、それを取り巻く幻影だけがやけに賑やかだ。読書って一体何だろうな、と黄泉は思った。本を読ませることよりも、本を買わせることに腐心する出版業界。ミステリ好きと言いながら、自ら謎を解く気概もなく漫然と読む者。本を読まないくせに作家になりたがる者。中古本の普及で新本が売れなくなるなか、発表される売上ランキング・・・etc。本をとりまく環境を様々な角度からみて、その問題点を浮き彫りにし、諧謔を弄しつつもちくりと批判する。巧妙ですねぇ。あんまり批判を前面に出すと評論になりかねずつまらない。かといってユーモアだけじゃ問題提起になりゃしない。その中間点。うまく問題点を読者にうったえながらも、ユーモアがきいてる。批判と諧謔の最適消費点をぴたりと当てるのがさすがですよね。機知にとんだストーリーはさすがと思わず膝をうちます。=== 54冊目 読了 ===

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