大統領暗殺 (2006/イギリス)
2007年10月19日、現アメリカ合衆国大統領ジョージ・W・ブッシュはシカゴに降り立った。演説会場の周辺では、演説に反対する大規模な抗議デモが起こり、治安部隊と衝突していた。演説を終えたブッシュ大統領が支持者と握手を交わす中、銃声が響き渡り、大統領が崩れ落ちた。医師の必死の治療も虚しく大統領は死去。その衝撃的な一報は瞬く間に世界中を駆け巡った・・・。現職の大統領を暗殺してしまうという過激さが話題となったモキュメンタリー作品。なかなよく出来たモキュメンタリー(擬似ドキュメンタリー)だった。インタビューを受ける関係者の素人っぽさ、チープな画質にいかにもの構図などなど、BBCあたりが作るドキュメンタリー番組にそっくりで、作り手のこだわりが感じられる映像だ。実際に起きていないブッシュ大統領暗殺シーンも上手く作ってあり、全く違和感がない。暗殺までの過程を描く前半は申し分ないが、後半は犯人探しに終始してしまったのが残念だった。後半は、ブッシュ大統領が暗殺されたことで世界情勢がどう変化したのかを描いて欲しかった。暗殺後の世界情勢を緻密にシミュレートしてみせて、観客をなるほどと思わせてはじめて、この作品で”ブッシュ大統領暗殺”という事象を提示した意味が出てくるのではないだろうか。仮にも一国の大統領を殺すのだから、悪ふざけで終わらせないためにも、この作品で何を主張したいのかを明確にすべきだと思う。ドキュメンタリーは、事実をただ平坦に並べた公平なものでは決してなく、事実を巧みに利用して作り手の主義主張を観客に訴えかけるものである。映像表現へのこだわりと同様に、ドキュメンタリーの魂へのこだわりも欲しかった。日本での上映に向けて邦題は「ブッシュ暗殺」で進めていたが、映倫の審査にひっかかったため、やむなく「大統領暗殺」に変更したらしい。残虐な表現や性的な表現は全くないが、内容が内容だけにPG-12に指定されている。■大統領暗殺おすすめ度(3点満点):