個別指導専用教材(6)
1ヶ月ぶりに・・・。ところで、「基礎」とは何か?この「基礎」という言葉が非常にあいまいで、その範囲やレベルは、使っている先生ごと全く異なっている。教材においても同様である。個別指導専用教材の考えている「基礎」というのは、あくまでも「中学校で学習する、ある単元における、標準~応用問題を解くための、前段階の基礎知識」という風に思える。具体的に言えば、高校入試の相似問題を解くために最低限必要な知識部分ということであり、もっと端的に言ってしまえば、「基礎」というよりは「各単元の前半部分」である。「基礎」と「前半部分」は全く異なる。個別指導専用教材が扱っているのは、基礎ではなくて「前半部分」である。学ぶべき「続き」がまだある。しかし、教材の中に「続き」はない。先々を見ているわけではなく、今(やっている単元)しか見ていないのだ。「基礎」というものは、目標とするレベルにより異なる。目指すレベルが高くなればなるほど、基礎の範囲も膨らんでくる。中学校の中間テストで80点を目指すための基礎部分であれば、それは連立方程式の計算であったり、一次関数の直線式の出し方だったりする。しかし、目標がハイレベルな私立高校受験になれば、その「基礎」にあたる部分は、標準的な塾用教材の隅々まで全てが「基礎」となる。高校数学を理解するためには、中学教科書の章末問題まで含めて、それ全体が「基礎」になり、大学受験で3Cの勉強をするのであれば、1Aはもちろん、小中内容の全てが基礎にあたり、「捨ててもいい」「理解してなくてもいい」部分はほとんどないはずだ。個別指導専用教材が扱っている部分は、確かに基礎的部分で大切であるのだけれども、それは中学内容で8割を目指すための基礎部分。たとえば、高校入学後、理系にいく可能性や高校入試で高得点を上げる可能性を最初から捨ててしまっているように思えるのだ。もちろん、それも1つの方法であり、現場にいれば分かるが、中学生段階で、完全に勉強面で後れを取ってしまっている子は多い。私も、評定「1」や「2」の子を数多く指導してきた。そうした子にとっては、個別指導専用教材のようなテキストは大変すばらしい。彼らには易しい問題を丁寧に指導し、反復させることが不可欠であるからである。しかし、そうであれば、教材名は「基礎特化テキスト」という名称になるはずである。だが、実際には「個別指導専用教材」という名称で販売され、それが多くの塾で採用されている。個別指導専用教材は、いわば「リハビリ教材」。この教材を、塾全体で全ての生徒に採用すると、伸びる芽を摘んでしまうケースもある。勉強には負荷が必要で、次のレベルに行くには、やはり「苦しい」段階が何ステップか存在する。高い段階に上がるには、やはり苦しさも必要であると思う。しかし、最初から基本に特化しすぎるということは、「どうにか最低限の勉強と努力で、中学数学を切り抜けよう」という意図が見えてしまう。いや、問題なのは、個別指導専用教材それ自体ではない。フォレスタもパーソナルもスパイラルも、教材会社の苦心が伝わってくる名作テキストである。問題なのは、そうしたテキストが生まれた経緯が、「力の弱い生徒のために」ではなく、「学科指導力のない講師のために」、もうちょっと言ってしまえば、「拡大路線を敷く個別指導塾のために」に生まれたということである。ゆとり教育に手を貸しているのは、実は塾なのかもしれない。そして、そこに大きなビジネスの可能性を感じ、多くの塾と教材会社が、投資を始めているのである。