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源にふれろ

野沢尚

『結婚前夜』

 倉本聰のシナリオを読んでいたせいか、習作では「・・・・」という無言セリフばかり書くようになってしまった。「・・・・」は記号であって、言葉ではないから、シナリオのレベルとしては低い。(倉本聰は別、あくまで私の話)セリフが思い浮かばないとすぐ「・・・・」でごまかしてしまうのは逃げであって、私の悪い癖だ。
 そんな私のシナリオを読んだ師匠が、読みなさいと薦めてくれたのが野沢尚だった。野沢さんはミステリーの名手という評価が高いが、実は恋愛ものも得意としている。その一つ『結婚前夜』を古本屋で見つけたので、買って読んだ。
 
 このシナリオから何を勉強したかと言うと、「かっこト書き」。
同じ「うん」という返事でも、「(ふてぶてしく)うん」と「(からっと明るい声で)うん」はまるで違う。「----」にも色々あるはずだから、野沢さんのシナリオを参考に無言なら無言で、どういう無言なのか「かっこト書き」を使って書くようにしなさい、と師匠に言われたのだ。よく人間の感情を喜怒哀楽という言葉でくくってしまうが、この「かっこト書き」を勉強するにつれ、感情の繊細さは無数にあることを学んだ。この作品を読んで、自分には思いつかない「かっこト書き」を全て書き出してみた。たとえば、以下のようなもの。

「(深刻がらずに聞いてやる)・・・・」
「(どことなく荒んでいる)・・・・」
「(聞いているうちに腹が立ってきて)・・・・」
「(それを言われるのがいちばんつらい)・・・・」
「(その言葉に突き動かされたように)・・・・」

 何の変哲もない日本語だが、書こうと思って書けるものではない。つくづくうまいなあ、と思う。この「かっこト書き」をあんまり使いすぎると、演出家がいい顔をしないが、役者が大根の場合は書いておいた方がいい。そうでないと、とんでもない解釈をする恐れがあるからだ。


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