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四十路の旅路

Dec 23, 2004
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テーマ:詩(589)
カテゴリ:私的創作文

***

行き着けと言う訳ではないが、
行き慣れたいつものバーで飲んでいた。
私の住んで居る界隈は、極端に飲み屋が少ない。
行き着けている訳ではなかったが、
帰りには丁度良く、このカウンターバーにいた。
ここで今飲んでいる奴は、私同様に終電を気にしない。
従って深酒になる。
隣で飲んでいる40代くらいの男も、夢見心地だ。
この男は、私が入って来た時から笑顔だった。
然も私を知っているかのような笑顔だった。
ここでは良く見かけるが、私はこの男を知らない。

2杯目のジントニックを飲み干して、
ラムコークを頼んだ時に、この男が話し掛けて来た。

「あんた、神様って信じる?」
グラスで私を差しながら、カウンターに立て肘を突いて、
私に突飛な質問を投げかけて来た。
「今のあんた程じゃないけどね。」
「ハハッ、こいつは良いや。」
男は愉快そうに笑った。
「じゃあさ、サンタ信じる?」
「そうね。うちのサンタは、いつも酔っぱらって帰って来てたよ。」
仰け反って笑って、そうかいそうかいと繰り返す。
「ちょっと聞いて欲しい話があるんだけど、いいかい?」
「どうぞ。」
私は出て来たラムコークの肴に、男の話を聞いた。

カトリック系の保育園に入園し、
小学校まで進んだ彼は、神様の存在を信じていた。
幼少からシスターに教育を受け、週末ごとにミサを受けていた彼に、
無神論者の生活の方が不自然であった。
彼の家族も敬虔と言わないまでも、
信仰心にあつかった。

中学校に入る時に、いわゆる普通の家庭で育った友達と出会った。
彼の仲間内の多くは無神論者達だった。
最初にそうと切り出せなかったから、彼は神様の話をしなかった。
子供心に、何か言ってはいけない事に思えて、
在学中は一言もその事を口にはしなかった。
この後、高校でも大学でも、神様について
誰かに語る事はなかった。
言わない代わりに、彼は神学について良く学び、
自分のためだけと思い、教会には熱心に通っていた。
彼は静かに暮らしていたのだ。

そんな静かな生活の内に、新たな変化が生まれた。
彼に恋人が出来たのだ。
二人は深い中になり、家族ぐるみの付き合いとなり、
結婚も自然の成り行きだった。
しかし、彼は神様の存在の話に触れぬまま、婚約を迎えた。
家族にまで、その事には触れないように頼んで。
二人の馴初めの当初から、苦悶に悩まされていたが、
とうとう居堪まれなくなり、
その年のクリスマスの日に、打ち明ける事にした。

夕方から会うと言った約束を、2時間も残業と偽って、
彼は宛もなく街を彷徨っていた。
彼女にどう伝えたものか。
もしも受け入れられなくて、婚約が破談になったなら。
不安が絶え間なく頭を巡った。
いっそ打ち明けずに終生を遂げようか。
婚約自体も自ら辞退しようか。
彼の頭の中を、決して良い考えが巡らなかった。

そんな時、後ろからドンとぶつかる者がいた。
一人の浮浪者だ。
前のめりになって、彼は転びそうになった。
「ごめんなすって。」
浮浪者は転び掛ける彼の肩を掴んだ。
「お詫びの印、良い事あるといいね。」
と言って、彼の右手を両手で掴んで何かを渡した。
そして、浮浪者はそそくさとその場を立ち去った。

私はラムコークを飲み干そうとしている。
「あんた、何を渡されたと思う?」
「さあ、何だった?」
にやって笑って、男はグラスの水滴を啜る。
「それは、『yes』って書いてある缶バッチだったんだよ。」
「へえ。」
「それを見て、これは言うべきだって思ったんだ。」
傾けたグラスを置いて、男は私の方を見た。
「あれは俺にとってのサンタで、神様が遣わしたんだと思った。」
「そうかもね。じゃあその彼女とうまく行ったんだ。」
「へへ、想像に任せるよ。」
そう言って、男は自分のおかわりと、話を聞いてくれたお礼だと言って、
私のラムコークを頼んでくれた。
そして改めて、
「俺の神様と、あんたの酔っぱらいのサンタに乾杯。」
「メリークリスマス。」
「メリークリスマス。」
その店で初めての乾杯をした。

後に、男は先に席を立った。
おごってくれたお礼を言うと、男は後ろ手を掲げて返事をした。
彼の薬指には、光る物があった。

***






Last updated  Dec 23, 2004 01:54:38 PM
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さとう4632

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