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「今年のプレゼント、何か欲しいものある?一応聞いてあげる」 息子の欲しがるものは決まっていた。 どうせDSのゲームか何か。 私が聞いても分からないから、 会社の子にでも買いに行ってもらおうと思っていた。 もし、この子に父親がいれば、父親に何かをせがむのだろうけど、 居ないのが現実。 でも、そのことでこの子に寂しい思いをさせたくはなかった。 「新しいゲーム欲しいけど、大丈夫」 「大丈夫?何が大丈夫なの」 洗い物の手を止めて息子を見ると、 遊んでいたゲームから目を離して私を見ている。 「大丈夫、サンタがもって来てくれるから お母さんは心配しないで」 「心配? 心配なんかしてないわよ」 普段から言い聞かせていること。 でも、息子に真っ直ぐな目で「サンタが持って来る」と言われると なぜか躊躇してしまった。 自分が買いに行かないのが分かると困るからか。 なぜか自分が準備しないのが後ろめたい気持ちになった。 何より、サンタだって居ない。 この子の気持ちを察して、さりげなく用意してあげれば良かったのに。 10歳にもなったから。 そう思って期を抜いた自分が少し恥ずかしくなった。 「靴下だけ下げておけばね、 ちゃんと持って来てくれる。 もしもなかったらね、 もしもなかったら、何か事情があるってことかも知れないよ」 またドキっとする。 「な、なにそれ?事情って」 「よく分かんないけど、サンタにも言えない事情があるんだろ」 子供を甘く見てると、トンでもないことになる。 私はそれとなくそれ以上の話を避けざるを得なかった。 24日、夕方。 「ゴメンね。私じゃ分からなかったから」 結局会社の後輩の子に、おもちゃ屋に行ってもらった。 「いいんですよ。僕があげたゲームも気に入ってもらったみたいですから、 大体の好みは分かりますよ」 「ありがとうね」 「息子さん、きっと喜びますよ。 サンタが持って来たって言って」 買って来てもらったゲームを持ち帰って、 それをカバンに忍ばせたまま、夜になった。 「もう寝なさい」 放っておいたらいつまでもゲームをしてる。 適当に促して、私は息子が寝るのを待つことにした。 「お母さんは?寝ないの?」 「寝るよ。仕事持って帰って来ちゃったから、少しやろうと思って」 「クリスマスくらい、いいんじゃない?」 「いいの。仕方ないのよ。年末だから」 「そう、じゃあ寝る。おやすみ。メリークリスマス」 「メリークリスマス」 そう言うなり、自分の部屋に行って、そのままあっさりと眠りについた。 私は息子が完全に寝ているのを確かめて、 息子の部屋のベッドに掛かった靴下にプレゼントを入れに行った。 ベッドには、見慣れない靴下が掛かっていた。 きっとお小遣いで買ったのだろう。 赤と緑のストライプ。 きっと自分じゃ履かない。派手な色使いは好まないから。 もう一度寝ていることを確かめて、ゲームの箱を突っ込んだ。 ヨシ、これで大丈夫。 息子の夢の中のサンタは健在になった。 何だかすごく疲れた。 ひょっとしたら仕事よりも疲れたかも。 リビングに戻って、コタツでちょっと横になろうかしら。 いや、もう布団を敷いて横になった方がいい。 とりあえずコーヒーでも入れて。 案の定、コタツに足を突っ込んだら抜けられなくなって、 そのまま柔らかい眠りに落ちた。 頭の片隅がまろやかになったと思ったら、 そこから覚えがなくなった。 「おはよう、起きて。もう朝だよ」 頭の片隅の柔らかい所から、声が滑り込んで、 目を開けたら息子が居た。 「お母さん、起きた?」 「多分、起きた。寝てたね」 「寝てたから起きたんでしょ??」 「そうね」 「サンタ来たよ」 「ほんと、良かった」 私は笑みを見せた。 笑ったのは、サンタが来たというニュースよりも、 この子が「サンタが来た」と言ってくれたから。 「このゲーム欲しかったんだ。 サンタって気が利くね」 「本当。よかったね、気の利くサンタで」 私は後輩に心の中で感謝した。 そんなに息子の好みにマッチしたのかと、ホッと胸を撫で下ろした。 「手紙まで書いてくれて」 「!?」 息子は一通の封筒を取り出した。 そして、その封を切って、一枚のクリスマスカードを取り出した。 『メリークリスマス! いつもいい子にしてる君に、 プレゼントを持って来たよ。 君には新しいゲームを。 長く大事に遊んでね。約束だよ。 それから、お母さんと一緒に行くといい。 お母さんには君と一緒に遊べる 大切な想い出をプレゼント』 中にはディズニーランドのチケットが。 『サンタはいつも君を見てる。 サンタいつも傍に居るよ。 だから、お母さんとずっとずっと仲良く 楽しい時間をたくさんつくってね。 約束だ。 君ならきっと守れるね。 いつもサンタクロースは君のそばに。 メリークリスマス』 私は息子を強く抱きしめた。 大人の事情で、この子に寂しい想いをさせているのではと そんなことばかり考えていた。 でも、この子の祝福は、 もっと大きなものに包まれている。 「気が利くよね、サンタ。 お母さんの分まで用意してくれて」 涙で滲んで、私は頷くだけ。 「お母さん、メリークリスマス。 ディズニー行こう」 「メリークリスマス」 *** お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
Dec 22, 2007 11:42:11 PM
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