少年陰陽師 第24話「黄昏の風、暁の瞳」少年陰陽師第24話 黄昏の風、暁の瞳 *リュウサイ、のリュウは山冠に立であり、サイキのキは火編に軍ですが、機種依存文字で使用できないようなので笠斎、彩輝と表示してます。 「どうして私には父様も母様も…」 幼い風音の肩には嵬がいた。 「教えたであろう。そなたの母は安倍晴明によって生きながらにして黄泉へ落とされた。父はその晴明の式神・騰蛇に殺された」 宗主にそのように教えられている風音。 「どうして?」 「そなたは強く成れねばならぬ。望みを叶える為にな」 「強く…」 「強くなれぬのならば、そなたに生きている意味などないぞ」 「怖く、ない…寂しくなんかない…強くならなきゃ。母様を守るために」 筵に横になりながらそのように誓う風音。 それは子どもの頃の夢であり、今の風音の頬には涙が一筋流れていた。 太陰の風で出雲に向う昌浩達。 「出雲までもうすぐだからね。もうちょっと我慢して」 昌浩は歯を食いしばっていた。 大量の紙片に書き物をしている晴明の側に座る青龍。 「一体何をしてる?」 「ただの呪いだ。青龍、本当に紅蓮に手をかけるつもりなのか?」 「奴は三度、理を犯した。このまま捨て置く事など出来るはずもない」 筆を置き紙片を廊下から晴明が投げると、紙は白い獣の姿の式に変じ、都中に飛び散った。 「今のは式か。あんなに沢山の式で何をしようというんだ?」 「これで役目は済んだ。我々もそろそろ行くとしようか」 出雲の高野山に降り立った昌浩達。 「痛っ」 よろめいて尻餅をつく玄武。 「大丈夫か?昌浩」 同じく昌浩もよろめくが、後ろから勾陣が支えるのだった。 「この山の近くに黄泉へと繋がる道反の洞穴があるはずなんだけど…」 「かつて通ったはずの道が見えない。道反の気配も感じられない。何者かの術によってかき消されている」 「智鋪の宮司か…。五十年ほど前、道反の聖域を襲った後、智鋪の宮司は洞穴を術で封じたのだろう」 「私達は道反の巫女が聖域に戻り、封印が守られたとばかり思ってた。けど、それは智鋪の宮司のまやかしだったのね」 「兎に角、隠された洞穴の場所を突き止めないと」 「太陰、風読みを頼む」 「えぇ!?」 「風は全てと繋がっている。洞穴のどこかに風音が戻っているならば、その息吹が風に感じられるはずだ」 「わ、解ったわ。やってみる」 宙に浮かび、両手を広げ、風読みを始める太陰。 目を覚ます風音の傍には姫と呼びかける嵬。 「あなた、言葉を…!?」 「話せる。今までは封じられていただけ。邪魔な首がなくなった。だからもう…」 「無事でよかった、嵬。あなたが死んでしまったら、私…ホントに…」 「時が近い。姫、急げ。本当のことを知る時。本当のことを見せる。急げ、姫」 風音を奥へと導く嵬。 そこは宗主から入ることを禁じられた場であった。 だが、そこには氷のような岩の中に横たえられていた。 「あ!?母様…母様!!どうして!?黄泉に落とされたのではなかったの!?」 「智鋪の宮司が巫女を封じた。封印は智鋪の宮司にしか封印は解けない」 「どちらが本当なの!?母様、私は何を信じれば…!?」 困惑する風音の前に現れる宗主。 「いけない子だな、風音。ここに入ってはならぬと言ったろう」 風音を庇う嵬。 嵬を左手で薙ぎ払う智識の宮司。 「巫女…道反の巫女を、巫女を我が手に。俺は力を得た。巫女、巫女よ、巫女、巫女ぉぉぉ!!」 「そう焦るな、笠斎。間もなく我が悲願は成就する。さすればそなたにこの女をくれてやろう。長らく身体を貸し与えてくれた礼にな」 「宗主様…!?」 「そなたにはなすべき役目が残っている」 風読みをしていた太陰が風音の気配を探り洞穴に向っていた。 「風音が智鋪の宮司の手に落ちたわ。このままじゃ殺される!!」 「道はこちらで正しいのだろうな?」 「たぶん。風が弱められていて…きっと智鋪の宮司が邪魔を」 「風の流れを辿れ!!全てをかき消される前に!!」 干引磐の前に風音を連れてきて、封印を解かせようとするのだと智鋪の宮司。 「あなた、一体!?」 「智鋪の宮司、智鋪の地の神を崇め、この世を黄泉の力で滅ぼすことを望む者。この身体は借り物だよ。我の身体は安倍晴明により、一旦は滅ぼされた。だが、我は魂魄を移して生き長らえたのだ。死んだばかりの新たな亡骸・榎笠斎の身体に」 「私の父は!?母は!?」 「そう、そなたは道反の大神とその巫女の娘。道反の巫女の力を受け継ぎ、その後継たる者。この身体・榎笠斎はそなたの父でも何でもない。そなたの母に惚れ、安倍晴明を陥れ、十二神将・騰蛇によって殺された愚か者よ。既に命は尽き、好みに残っているのはその妄執のみだがな。父と見えたかったのだろ?この身体・榎笠斎を殺したのは確かに十二神将・騰蛇。そして、そなたが父と信じた笠斎はそなたの母を聖域からさらった張本人だ。その笠斎の仇をとるために晴明を狙い、騰蛇を闇に落とし、全くよく働いてくれたものよ」 最後の力を振り絞って立ち、手をかざす風音だが、智鋪の宮司に頭を押さえつけられ、風音にかけられた封印を解く。 額に書かれた何かが砕け、母や守護妖達と過ごしていた日々を思い出す風音。 黄泉の鬼に追い詰められる風音を嵬が庇ってくれたが、智鋪の宮司に腕を掴まれるのだった。 「私は…私、は…」 「もう遅い、今この時のためだけにそなたを生かしていたのだよ、風音。道反の封印よ、巫女の力の下に砕け散れ」 涙を流しながらも抵抗できない風音。 その瞬間、昌浩達が向かう前方で噴出す黄泉の瘴気。 「第一の封印が破られたか!?」 どこからか飛び出て巫女を求める大百足。 洞穴が開き、風音は横たわっていた。 「フフフハハハ…遂に第一の封印は開いた。後は聖域の奥に控える真の干引磐を砕けばこの世は黄泉と化す。出でませよ、出でませよ。この地に満つる風により」 瘴気の玉から現れる屍鬼・紅蓮。 「窮屈な思いをさせてくれたな」 「瘴気の中におらねば、黄泉の屍鬼の力は保てぬのだ。仕方あるまい」 「良い風だ、死を運ぶ黄泉の風」 「日の入りと同時にその神将の身体を贄に捧げ最後の封印を開くのだ」 「解っている」 奥に進んでいく智鋪の宮司と紅蓮。 目を開ける風音風音に近づく黄泉の鬼ども。 「黄泉の鬼…私が招いた…道反の娘の私が…」 襲い掛かる鬼から風音を守るために羽を広げる嵬。 「姫には触れさせない!!姫、どうか生きて」 嵬の身体が閃光を放ち、風音が消える。 力尽きた嵬をむさぼる鬼。 洞穴の外に移される風音は痛みを堪え、歩き始める。 「知らせなきゃ、誰かに。私のせいで、私が…あの時…ぁ」 足を滑らせ木々の間を抜け草原まですべり落ちていく風音を後ろから追い詰める鬼達の一匹が伸ばした触手が背中から胸を貫く。 槍で鬼を薙ぐ六合、真言を唱える昌浩、風をぶつけ飛ばす太陰、波流壁をぶつけて鬼を砕く玄武。 風音に気付き走り寄る六合。 昌浩も近寄ろうとするが、剣で差し止める勾陣。 六合が抱く風音の怪我に驚く太陰。 「騰蛇…封印の元にもう…」 「ここは六合に任せて、行くぞ、昌浩」 惑いながらも、六合に任せて進む昌浩達。 「私、取り返しのつかないことを…」 「喋るな」 「ごめん、なさい。今更だけど」 「風音、もういい、喋るな」 「これは報い、ね…私が愚かだから…ぁ…」 涙を流す風音の頭を手で支え抱き寄せる六合。 「あなたの手をとれば良かった、六合…」 六合の肩に顔を埋める風音。 「彩輝だ」 「さいき?」 「彩輝。他の誰も知らない俺の唯一の名前だ」 「彩輝…」 「あぁ」 「一人はもう嫌…傍にいて良い?」 六合の手を取る風音。 「傍にいろ」 「彩輝…」 風音の手が離れ勾玉が落ちていくのでハッとする六合。 瘴気が流れてくる洞穴の奥を目指し進む智鋪の宮司と紅蓮。 「構わん、先に行け。奴らの相手は我に任せよ」 洞穴の入り口に風に乗って現れたのは白虎、青龍、晴明達の元へ駆け寄る昌浩達。 「六合はどうした?」 「まだ山の中に。風音が襲われて」 「そうか」 「晴明、騰蛇はもう本当に帰ってこないの?風を通じて智鋪の宮司の声を聞いたわ。このままじゃ騰蛇も風音も救われないじゃない!!」 「…一つだけ言えることは、何があろうとどんな事になろうと私は紅蓮を友だと思う。永遠に」 晴明の答えを聞いて拳を握り締める昌浩。 瘴気を辿り走る昌浩達の前に現れたのは黄泉の鬼共を引き連れた智鋪の宮司。 「久しいな、安倍晴明よ」 それぞれの武器を構える十二神将達と数珠に手をやる昌浩。 |