2007/06/14(木)14:47
セイント・ビースト~光陰叙事詩天使譚~ 第十一章「粛清」
セイント・ビースト~光陰叙事詩天使譚~の第11話を見ました。
第十一章 粛清
「どうなさいました?早速、訪ねてきて下さるとは嬉しいですね」
「べ、別にお前に会いに来たわけじゃないよ」
「おや、では何をしに来たというのですか?」
「それは…」
「本当に可愛らしいお方ですね」
「馬鹿にしてるのか?」
「いいえ、とんでもない。この間も言ったでしょ?私はあなたを気に入っているのですから」
「それ、ホント?」
「えぇ、勿論」
パンドラの肩の上に肩のものパールが現れ、驚くシヴァ。
「そうか、初めてだよね。私はパール。神官パンドラの分身です」
「薄気味悪いな」
「ハハ…神官の肩の上には皆、私と同じ生き物がいるのですよ」
「神官になるとあまり神殿の外へは出ないようになるので知らない方が多いようです。神官になる最後の儀式でゼウス様によって生み出されるのです」
「そんな話、知らないけどな」
「まぁ、込み入った話は後にしてさ。ね、シヴァ、君の家に行きたいな」
「そうですね。神殿は今、少々取り込んでおりますので。いいでしょ?シヴァ」
シヴァの家にやって来たパンドラとパール。
パンドラが布を取ろうのを止めようとするシヴァですが、お茶を淹れていたティーカップを落とすだけで間に合わなかった。
布の下にはユダの横顔が描かれていたキャンバスがあった。
「あなたは数ある天使の中でも本当に素直で純粋なお人です」
「見るな!!天使達の中で一番最初に神官になったお前に言われても嫌味にしか聞こえないよ」
「そんな言い方しないで下さい。私はあなたの味方なのに。あなたに相応しい地位について頂きたいと思っているのですよ」
「それって七聖獣のこと?」
「残念ながら、それは…。シヴァ、六聖獣の仲間に入ることだけがユダ殿に近づく道ではありませんよ。あなたも私と同じ神官になりませんか?ユダ殿と同じ高みに辿り着きたいと思うなら、ゼウス様に七聖獣の提案をするよりも私の推薦で神官になった方がいい」
「神官…?この僕が?」
「気持ちが届かないと嘆くより、届く所まであなたが近づいていけばいいのです」
「そんな風に考えたことはなかったよ」
「神殿に移り住み、ゼウス様のお世話をすれば寵愛を受けられる。そうなれば、ユダ殿だってあなたに対する見方が一変するに違いありません」
「でも、僕はゼウス様に嫌われてるみたいだし…仮にお前が推薦してくれたとしても神官になんてなれるはずがない」
「大丈夫ですよ、心配なさらずとも」
「でも、どうしてそんな話を持ちかけるんだよ?僕を神官にしたって何の得もないじゃないか」
「私はあなたとお友達になりたいんです。これからも仲良くやっていきたい…これでは答えになってませんか?」
「そんなことはないけど…」
「だったら私に任せてくれますね?絶対悪いようにはしませんから」
大きな図書館で読書しているユダ。
「ここにいたのか?捜したぞ。久しぶりに鍛錬の相手をしてもらおうと思ったのだが、珍しいな。そんなに熱心に読書に耽るなんて」
「シンに勧められてね。古の書物に救いを求めてしまった。だが、現在の天界を読み解く鍵は見つからなかった。こうした物に頼るなんて俺らしくなかったかな?」
「確かにお前らしくない。不安を消すのなら体を動かすのが一番だ」
同じ頃、このままでいいのかと考えているゴウの元にサキが現れ、力を見せ付けようと強大な力を溜めるものの、自爆してしまうサキをゴウが助ける。
「怪我はないか?サキ。覚えているか?俺達が少年天使だった頃、長老天使に命じられて薬草を一緒に摘みに行ったよな。――お前は昔から無茶をする奴だったな。お前とは少年天使の頃からの付き合いだ。俺はあの頃と変わっていないぞ。聖霊祭では昔のように仲良くやろうじゃないか。俺は天使同士で諍いを起こしても何もならないと思う。天界が不穏な今だからこそ結束して…」
「個人的な感情で動いてる俺は器が小さい奴だとでも言いたいのか?」
「そんなことを言ってるんじゃない!!ただ俺は…」
「そりゃお前は六聖獣だもんな。でも、俺には関係ない」
聖霊祭を前に元気の無いガイに声をかけるゴウ。
「毎日が賑やかだなと思ってさ」
「聖霊祭が終わるまではずっとこうだろう」
「でもさ、賑やかなだけに」
「どうした?」
「何でもない」
「誤魔化すな。何でもないって顔じゃないぞ」
「いつも元気な害らしくもない。思っていることを言葉にしてごらんなさい」
「それで、お前が元気をなくしているのは何故なんだ?」
「それは…今でもマヤのことが引っかかってんだ。キラと一緒だし、上手くやってるとは思うんだけどね」
「ガイはマヤとは特に仲が良かったですから、気になるのも分かります。でも、マヤのことばかりに心を取られていてはガイ自身にとっても良くないのでは?」
「だが、無理に忘れる必要もないだろ。あれからそろそろ一年だ。おそらくマヤも下界からガイのことを思っているに違いない」
「以前、ルカも言っていました。巡り会える時はきっと来るって。その日を信じましょう」
「俺、いつもの聖霊祭を思い出しちゃってさ、同じ祭なのにマヤとキラだけいないんだなって思ったら悲しくなっちまって…でも、もう大丈夫だ。へへへ…」
通り縋りの下位天使達はゼウスに聖霊祭を前に神殿に呼ばれる理由を知らずに喜んでいるから浮かれる姿を見てバカにするシヴァ。
呼ばれる理由は「粛清」される為だからだ。
軽率にその言葉を口にしようとするシヴァに場所を弁えろとゴウが声を荒げる。
「いいよ、もう」
「聖霊祭まであと一日…。どうしても気が晴れない」
夜の湖で水浴びをしているユダの所に寝付かれなくて散歩していたシンがやって来ます。
「お前も一緒にどうだ?さっぱりするぞ」
「いえ、私は…。ゼウス殿の神殿がここ数日ずっと黒雲に包まれていますね」
「あぁ、聖霊祭に向けての浄化が行われているからな」
「今年はいつになく長いですね」
「それだけ多くの者がこの聖地からいなくなるのだろう。心の歪んだ天使達が天使ならざる者にされる。暗黒の森へと送られる」
「下位天使が一度たりとも足を踏み入れるのを許されないゼウス殿の神殿に招かれた日こそが全ての終わりだなんて悲しすぎる」
「どうした?シン」
「胸騒ぎが止まないのです。聖霊祭に良からぬことが起こる気がして」
「俺もだ。俺は六聖獣の長として不穏なものを感じている。地上の動物はカムイの一件以来、天を恐れて大人しくなった。それを平和と言うなら、確かに平和なのかもしれない。だが、真の平和ではない」
「そうですね。本当の平安には恐れなんてあってはならないはず」
「天界も同じだ。意にそぐわぬ天使達を葬れば全ては解決するのか…。暗黒の地に送られた者共の怒りや悲しみはどこに行くのだろうか、俺には分からないことが多すぎる…」
「だから聖霊祭が災いに見舞われると?」
「杞憂ならいいのだが」
「祈りましょう、ユダ」
「そうだな。何事も起こらぬように…」
ルカの元を訪れるレイ。
「いつもは満天の星空なのに、今夜はどうしたのでしょう?」
「空までもが嘆いているからじゃないのかな?見ろ、神殿を」
「神殿が黒い雲に覆われて…」
「さっきからずっとだ」
「あれはやはり…」
「そう、聖霊祭の前の恒例だ。ゼウスの神殿で今まさに行われているのだろう」
「意にそまぬ者の浄化ですね」
「声が大きいぞ、レイ。この事実を知っているのは上位天使の中でもごく一部の者だけだ。直接的な言い回しはしない方がいい」
「そうでした、ついうっかり…くしゅん」
「寒いか?今夜は風が冷たいからな。一緒に私の部屋に行こう。edenに行った時にもいだ果実から作った酒がある。これを一口飲めば芯から温まるぞ」
「ありがとう、ルカ。いつも僕に気を遣ってくれて」
「そうでもないさ」
「いいえ、ルカ、僕には分かるんです」
「何が?」
「それは…よんで下さい、あなたの指で」
次回、「暗黒の聖霊祭」