椿正明「データ中心システム」
椿正明
『データ中心システムの概念データモデル』 オーム社
本書の最後に、「データ中心宣言」ともいうべき、言葉がある。
以下に紹介します。
「一人の人間は、その遺伝子のマッピングである。
同様に一つの情報システムは、そのリポジトリのマッピングといえる。
人間とコンピュータのかかわる複雑な情報システムも、リポジトリが定
義できれば、見えたことになる。
遺伝子操作のように、リポジトリ操作によってビジネスルールを変え、
情報システムの挙動を変えることができる。
「リポジトリを制するものが情報システムを制する」であろうから、
今後ますます注目を集めるものとなろう。
「業務がわかっている」というユーザーやシステム屋に説明を求めても、
あいまいな図や自然言語での説明しか得られないことがしばしばである。
これでは「道を知っている」犬とあまり変わりがない。
概念DB構造図の定着した会社では、ユーザーを含めた関係者の間で、
これを用いた平面図を前に打ち合わせる建築屋と施主のレベルになる。
これがどこでも当り前になるべきであろう。
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方法論とはコンセプトができ、マニュアル、教育用テキスト、カリキュラム、
教師用虎の巻ができて初めて実用になる。まだ先が長いが、
データ中心アプローチで開発したものが大いに活用できよう。
方法論の原理は、まず小さな問題に適用され実証される。
しかし、本当に解くべき問題は、大規模な問題がほとんどである。
むずかしさは、大規模すなわち要素の数の多さからくることが多い。
おおまかにいえば、システムの複雑さは、要素の数の2乗に比例するのではないか。
n個のものの2個ずつの組み合わせの数はn(n-1)/2となるからである。
実力を超えた大規模システムに挑戦して失敗するのは、この「2乗の負荷」に、つまずいているのではないか。
CASEツールは、現在これに備えていない。各人がデータモデルや方法論を通じて備えなければならない。
われわれはもはや、情報システムのBattle(局地戦)でなくWar(全面戦争)にまきこまれていると考えるべきかと思う。
ナポレオンもヒットラーもBattleには強かったが、Warでやられた。
モスクワは遠かったからである。奥の深い大規模問題にやられたのである。
データは1担当者、1部門、1企業、1業種の枠を超えてどこまでも流通しようとする。流通させたものが勝つ。
好むと好まざるとにかかわらず、この大規模問題には取り組まざるを得ない。
プロセス中心では解決できない。やはりデータ中心が鍵を握っていると思う。」