カテゴリ:書評・読書メモ
和田秀樹「学者は平気でウソをつく」(新潮新書) 2016年刊 ≪日本人の多くは、学問について大事なことを見落としています。 ひとつは、どんな学説もいずれ更新される、ということです。≫ たとえば、ニュートン力学が200年後、アインシュタインの相対性理論によって修正されたように、 どんな学説も未来永劫通用するわけではない。 ≪あらゆる学問領域におけるあらゆる理論は暫定的なものに過ぎず、 いつかは塗り替えられる運命にあるのです。≫ ≪もうひとつは、多くの学問が、人間には個体差があることを念頭においていない、ということです。 人間は一人ひとり違っているというのは当然のことですが、その常識が学問の世界では通用しません。 ほとんどの学問が、人間はみな同じで個体差はない、という不可思議な前提の上に成り立ってきたからです。≫ 自然現象を扱う物理学や科学ならば、個体差を意識する必要なないでしょうが、 医学のような人間を対象にした学問でも、経済学においても、ありえない前提がまかり通っている。 ≪・・実のところ、あらゆる学問において大切なのは、新しい仮説を生み出すことです。 それこそが学問の本来の姿です。 つまり学問だから真実だ、学者の言うことは正しい、と無条件に信じるのであれば、 それは宗教と変わりません。 学者の仕事とは、本来、既存の理論を覆す、あるいは発展させるために研究するものだと思います。≫ 米国においては、教授というポストは、これから本格的に研究に取り組もうという若い人に与えられるポスト であり、スタートラインです。 これに対して、日本では、「あがり」のポストだから、そこから新しい理論を発展させるような人が少なく、 絶対的な発言権を持つ「教祖様」になってしまう。そのため、日本では学問が宗教化しやすい。 最近の若い人のように、 「専門家や学者は信用できない。新聞もテレビもウソばかり。ネットにこそ真実がある」 というのも間違い。単に「学問教」が「ネット教」に宗旨替えしたに過ぎない。 かといって、「結局は自分の体験と、信用できる人の話が一番だ」というのも、体験至上主義とも いえる別種の教義にすぎない。己の限られた体験を過大に評価してもろくなことはない。 様々な意見や、色んな人の話、自分自身の多様な経験など、あらゆる情報を総合して戦略を立てること。 旺盛な好奇心と健全な猜疑心を持つことが、賢く生きていくための思考法ではないか。 <目次> はじめに 改竄の心理学/学問と宗教/学問という幻想/森鴎外の失敗/あらゆる学説は仮説である/変節漢でいい/教授は“あがり”のポストではない 一章 医者を信じると損をする――医学のウソ カッコーの巣の上で/一〇年で飛躍的に進歩した乳がん治療/切らなくていいがんもある/根拠に基づく医療/長寿でも老人医療費が低い長野県/新薬よりも旧薬のほうが安全/進化するジェネリック/コレステロール値は高くてもいい/欧米の健康常識は日本人に通用しない/疫学調査とフレンチ・パラドックス/降圧剤を飲んでも一〇〇人に六人は脳卒中に/検査値に一喜一憂するな/小太りのほうが長生きする/誰にでも同じ治療でいいのか?/漢方薬を西洋医学的に処方してしまう日本の病院/ゲノム医療と東洋医学/たくさんの薬を飲むと副作用が出やすくなる/専門医の時代から総合診療医の時代へ/再生医療が医療を変える/苦痛を与える予防医療/なんのための我慢か/自分の人生は自分でコントロールしたい 二章 人の心なんかわからない――精神分析のウソ 母親は悪者か/洗脳を解いてくれたアメリカ留学/治療者が患者を「操作」する/積極的にモデルチェンジをはかったフロイト/「共感」を用いて成果を上げたコフート/患者が変われば理論も変わる/成功者のための精神分析/時代を先取りした森田療法/トラウマは思い出させるな/過去は肯定的にとらえたほうがいい/認知行動療法の時代/雅子さまの治療/治療者はそんなにえらいのか/信じる者は救われる?/人の心はそれぞれ違う 三章 「心の病」はころころ変わる――精神医学のウソ マニュアルで診断できるようになった「心の病」/精神医学の業界標準/診断名を変えても差別はなくならない/患者の話を聞かない精神科医/五分間診療がなくならない理由/心の病は画像でわかるのか/効く薬、効く理由/うつに薬が使えなくなった?/成果の出ない試行錯誤/一九九五年は“トラウマ元年”/「新型うつ」という病気はあるか/テレビドクターの罪/心理占いの域を出ない「病気」/脳科学は基本的に仮説 四章 経済学者にカネを扱う資格はあるのか――文系学問メッタ切り 経済学はどこまで信じられるか/人が持っている情報はそれぞれ異なる/人は合理的には行動しない/LTCM事件で露呈した経済学者の甘さ/経済政策を学者に頼る愚/減税すれば景気は上昇するのか?/日本の経済学者は金持ちの味方/規制緩和という聖域/名経営者をぞんざいに扱う日本の大学/社会問題になったアメリカのゆとり教育/教育現場を知らない教育学者たち/数学者の罪とノーベル賞信仰/ゆとり教育の信者による大学入試改革/統計だけで社会は語れない/何でも自明の理のごとく語る社会学者/成果なくして格式の高い法学者/「審議会」の正体/学問を疑え おわりに お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2017.01.14 18:35:04
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