2055391 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

エタ-ナル・アイズ

エタ-ナル・アイズ

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2019.02.07
XML
カテゴリ:カテゴリ未分類

****************

(これ…は)

 霞んだ視界は数回の瞬きですぐに明らかになった、だが、視野を埋めた光景に、今度は見開いた目をもっと剥くしかなかった。

 三つの塊がある。

 一つの塊は黄金の炎だ。燃え上がっている。岩屋の天井を舐め焼き尽くすほどの業火、しかも鮮やかな金色の光を放っている中央に人がいる。わらわらと巻き上がる白金に輝く髪、聡明そうな額に滑らかな頬の青年は薄笑みを浮かべている。艶やかな微笑だ、まるで恋人を前にしているような、至上の愛撫を受けているような蕩けるような笑みに細められた瞳は、炎を受けてきらきらと光っている。だが、その姿には一切の隙がなかった。『人』が持つどんな緩みもためらいも、迷い一つない。全てが炎の中で満たされ完結していて、それがたとえようもなく恐ろしい。彼は彼以外何も必要としないとわかる。彼が全て、彼が始まりであり終わりであり、彼以外の何者も存在を許されない。

 もう一つは、その黄金の光に追い立てられ押し付けられるように後じさりしていく赤黒い塊。絡み合い縛り合うような肉がところどころでぶよぶよと膨らみ息づいている。薄黒く濁った色合いの木の根のようなものが、その肉の中に埋まりくねり、時に中から外へ、外から中へ粘りのある汁を滴らせながら貫き刺し通り、けれどそれで傷ついている様子ではなく、むしろ樹根に絡みつき締め上げて自らを作り上げているような姿だ。塊は黄金の炎に身を削られている。撤退が遅く、身を引き損ねた部分が炎に炙られ焦がされ、一瞬にして炭化する際に呻くように身悶えしつつ、それでも一気に逃げ去らず、隙があれば痛みに耐えて炎を呑み込み、我が身に同化させる機会を狙っているようだ。

 三つ目の塊は黄金の炎の青年を軸に、肉塊と対照的な位置で岩場に身を縮こめる少年。振り乱した髪、泣きじゃくりながら少しでも小さく小さく、岩の隙間に自分を埋めて消してしまいたいと願っているかのように、四肢を引き寄せがたがたと震えている。掠れた細い悲鳴のような泣き声が、黄金の炎の光が発する非常な高音と肉塊が発する重低音の間を、今にも消えそうなほど哀れな気配で響いては消え消えては響き、必死に助けを求めている。誰か助けて、誰かここから離して、誰か僕をここから救い出して。

(あれ…は……)

 イリオール。

「っ…」

 名前が浮かんだとたんに、ユーノは強く息を吸った。

 目の前に繰り広げられている神話時代のような光景が、一瞬にして現実の、よく見知った世界に戻る。

 ここは『穴の老人』(ディスティヤト)の洞窟だ。ユーノ達は入り込み、追い立てられて窮地に飛び込み、逃げ惑う少年を庇おうとして策に嵌まった。少年の身代わりに掴まって、自分の剣で肩を裂き、しかもその肩を捻り上げられ気を失った。おそらくはそれを見たアシャが敵を責め立て、放り出されたユーノやイリオールにも構わず、今まさに最後の一撃にかかろうとしているのだろう。

(く、そ…)

 必死にそこまで考えたユーノだったが、体が予想以上に疲れ切っている。ぶり返してきた痛みに再び頭に靄が掛かり始めてくる。

(だめだ……アシャ…)

 アシャは今まで見たことがないほどの怒りに囚われている。『穴の老人』(ディスティヤト)を追い詰める、いや屠ることしか考えていないように見える。自分の状態はもちろん、周囲のことも眼に入っていない。転がっているイリオールのことも、ひょっとするとユーノのことも。

 今も、遠く彼方の壁伝いにイリオールに伸ばされた樹根を、振り返りもしないアシャの黄金のオーラの一端が巨大な蛇のように空中を走って飛びかかり、一気に焼き尽くして灰にした。だが、炭化させたのは樹根だけではない。あまりの強く激しい光のためだろう、イリオールのすぐ側の岩まで焦がして黒く煤けさせたばかりか、その一部を崩しさえした。

 そればかりではない、『穴の老人』(ディスティヤト)の迎撃に解放された光の舌は、アシャの制御を離れたことを喜び躍るように、アシャに戻ることなく周囲の壁を駆け上がり、壁の隙間や天井の岩盤の割れ目に飛び込んで、洞窟そのものを大きく高く広げようとするかのようにぎしぎしときしませる。確かに洞窟は古くからのものであり、頑丈で年月を耐え抜いてきた安定したものであっただろうが、今アシャの光に押しのけられ撥ねつけられて、体を震わせながら揺れ動き始めており、天井や壁からばらばらと細かな岩の欠片が零れ落ち始めている。

 だが、それらにアシャは全く気づいていない。


****************

 今までの話はこちら






お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2019.02.07 09:08:10
コメント(0) | コメントを書く



© Rakuten Group, Inc.