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**************** 「ふ…ぅ」 「分かりましたか?」 「分かった…分かったけれど」 呆れ返りながらユーノは首を振る。 「あなた達って」 「大詐欺師と言って頂きましょうか」 セシ公はくすりと妖しい笑みを零した。ここ数日間の作戦会議で疲れ切っているはずだが、そんな様子は一瞬も見せない。グラスから酒を含み、濡れた唇をちろりと舌先で舐める。 「だから、あなたが東へ行く必要はない、無論『アシャ殿』も」 「うん…」 ユーノの頭は今聞いたばかりの作戦にまだぼうっとしている。概要と自分の役割は呑み込んだものの、どこへ戦が流れていこうとしているのかは、まだ見えてこない。 「けれど…」 「けれど、何です?」 「一体どこまでが表の作戦なんだか……どこからが引っ掛けなんだか…」 「一流の軍師です、アシャ殿は」 セシ公は淡々と評した。 「これだけの手駒、確かに動かし方に荒さはあるが、一晩で組まれましたよ」 「一晩?!」 「はい。後の数日は私どもの理解のために時間が必要だったためで……アシャ殿は『先』だけを見つめておいでです」 「…化け物だな」 「誰が化け物だ?」 「わ!」 不意に後ろから声を掛けられ、ユーノは飛び上がった。 「人のことを言えた義理か?」 振り返ると、アシャがレスファートを連れて戻ってきている。 「ユーノ!」 そのレスファートがユーノを見るや否や飛びついてきて、薄紅の裳裾にしがみついた。 「何? どうしたの?」 「っ…っ」 問いにも激しく首を振って答えない。抱きとめた体が震えているのに気づいて、ユーノは眉を潜めた。 (怯えている?) 思わずしゃがみ込んで覗き込む。アクアマリンの瞳は見開かれていよいよ薄い。アシャを振り仰いだが、よくわからない、と首を振るだけだ。 「どうしたの、レス」 「こわい…」 「怖い? 何が?」 「つかまっちゃう…」 「レス?」 か細い声で答えたレスファートは、見る見る涙を溜めた。両手を抜き出して差し上げ、ユーノの首にすがりつく。 「黒い波につかまっちゃう」 「…どうしたんだ?」 ただならないと思ったのだろう、手元のグラスを飲み干して何処かへ置こうとしていたらしいアシャが、グラスをそのままに体を屈めた。 「わからない。怯えてるんだ。レス? 何に? 誰が捕まるって?」 「黒い波…」 「波?」 「リディが…」 「リディ?」 ユーノは広間を振り返った。 **************** 今までの話はこちら。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2020.05.27 00:00:08
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