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**************** 「ふ…うっ…ううっ…」 「アシャ?」 レアナは不意に呻いたアシャを訝しく覗き込んだ。眠っているアシャの額には玉のような汗、濡れた髪が絡んで張り付き、厳しく結ばれた口元には薄く血が滲んでいる。 「血…?」 悪夢にうなされて唇でも噛んだのか。案じてレアナは水に湿した布で汗を拭き、口元を拭おうとしたが、 「ひっ」 小さく声を上げ、体を強張らせた。今の今まで目を閉じていたアシャが、カッと目を見開いている。瞳は紫紺、深く遠く、人間の体の一部とは思えぬほど硬質な輝きを宿して虚空を見つめている。 「アシャ…?」 レアナは恐る恐る声をかけた。だが、次に起こった出来事に、今度は声もなく立ち竦んだ。淡い金色の靄のようなものがアシャの体から湧き上がり、ゆっくりと中空に凝縮していくのだ。 「レアナ姫、アシャの容態は…」 「っ!」 無作法に合図もなく開けられた扉が、レアナの呪縛を解いた。身を翻し、入ってきたイルファの体にしがみつく。驚いたのはイルファの方で、思わずうろたえて剣に手をかけ、 「な、何です! 何があったんです!」 「イルファ、待って!」 叫んだイルファをレスファートが制した。指差す先に空中に凝った金の靄、見つけたイルファは剣を引き抜き、レアナを背後にかばいながら 「何者だ!」 「…」 金色の靄はイルファの声に一瞬たじろぐように揺れた。だが、再び凝縮を始め、次第に形を成していく。凝視していたレスファートがはっとしたように声を上げた。 「アシャ?!」 「何ィ?!」 「アシャ…?」 目を見張るイルファ、驚きを隠せないレアナ、唯一『こういう類』への理解は早くて的確なレスファートが続ける。 「どうしたの? どうして体を置いていくの?」 「………」 金の靄は揺らぎためらい、けれどやがて振り切るように開いた窓へ滑り寄った。 「アシャ、だめ!」 レスファートが慌てて靄を追う。 「イルファ、止めて!」 「止、止めてっても…」 「アシャ、何かおかしい! …アシャ!」 イルファが困惑しきった声を出すのに、助けにならないと悟ったのだろう、レスファートは金色の靄が出て行った窓を開け放ち叫ぶ。 「アシャ! だめ! 帰ってきてよ! 帰って、アシャ!!」 が、既に金色の靄は一筋の光となって、暮れかけた空を東へと疾って行った。
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Last updated
2020.07.09 00:00:13
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