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**************** 「おい、なにっ」 「どういうことだ」 バルカとギャティが互いの顔を見やる。 「ひょっとして俺達、罠にかかった?」 「リヒャルティ諸共?」 「兄貴諸共、ってか? それはねえよ」 リヒャルティが難しい顔で、呆然と炎を見やるセシ公を眺める。 「確かに今はちょっとおかしいがな」 いつも小綺麗にしている姿は見る影もない。ジーフォ公の戦死を知ってから、覇気が一気に抜けたようだ。それでも、『四大公セシ公』がこんな程度で我を失うはずはないと信じている。それともやはり身内の欲目でしかなかったのか、とぼつぼつ怪しみ出したところで、相手がのろのろと視線を合わせてきた。 「さて、こっからどうすんだ、兄貴?」 尋ねて挑発するように片眉をあげてみせた。 「何か策があるんだろ?」 周囲の民衆はただただ狼狽え怯えている。座り込むこともできずに、地面に根が生えたように、口を半開きにして焦げる夜空を見上げている者が大半だ。 けれど、セシ公は違うだろ。 いや、違っていてくれ、そうであって欲しいと願っている自分に気付かぬふりで、リヒャルティはおどける。 「今なら何でも暴き放題だぜ? 命令してくれよ、せっかくこんな奥深くまで入り込めたんだし?」 頼むよ、兄貴。こんな世界の崩壊を目の当たりにして、動けねえなんて聞かせねえでくれ。 願った声が聞こえたのかどうか、セシ公は瞬きし……やがて薄く笑った。 「その通りだな、リヒャルティ」 やった、そうだろ、そうこなくちゃ。 踊り上がりたい気持ちを抑えて、わくわくと尋ねる。 「で、何をする?」 「まずは、食事だろう」 「へ?」 「へ、じゃない。この中にどれほどの食糧があるのか、私達は知らないぞ? 炎はこちらには広がってこないが、あれを見れば籠城するしかないとわかる。このまま飢え死にしたいのか?」 「あ、ああ、そう、そうだよな」 当たり前すぎて脳みそが止まってしまっていた。壮絶な光景に呆気にとられていたが、なるほどこれは籠城策、食糧に水、それから生活のあれこれを確保しなければ、せっかく守った命が散ってしまう。 「わかった。手分けして状況を確認して来る………が」 リヒャルティのことばの先を、セシ公は的確に予想した。 「『太皇(スーグ)』にこれからのことを伺ってくる」 「了解! おいバルカ、ギャティ! 聞いてたな!」 「聞いてましたよ、両の耳で!」 「考えましたよ、少ない頭で」 にやりと笑って応じる2人に力を得て、『金羽根』を動かし始めるリヒャルティは気づかなかった、セシ公の震える足に。今にも倒れそうに揺らめいた体に。 「さすが兄貴だぜ!」 振り返って快哉を叫ぶ弟に、セシ公は笑みを広げて、『太皇(スーグ)』の姿を求めて、『氷の双宮』に歩み入った。 ****************
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