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2024.12.30
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『氷の双宮』に入った『金羽根』は、周囲を囲む壁の向こうで上がった火の手に息を呑んだ。

「おい、なにっ」

「どういうことだ」

 バルカとギャティが互いの顔を見やる。

「ひょっとして俺達、罠にかかった?」

「リヒャルティ諸共?」

「兄貴諸共、ってか? それはねえよ」

 リヒャルティが難しい顔で、呆然と炎を見やるセシ公を眺める。

「確かに今はちょっとおかしいがな」

 いつも小綺麗にしている姿は見る影もない。ジーフォ公の戦死を知ってから、覇気が一気に抜けたようだ。それでも、『四大公セシ公』がこんな程度で我を失うはずはないと信じている。それともやはり身内の欲目でしかなかったのか、とぼつぼつ怪しみ出したところで、相手がのろのろと視線を合わせてきた。

「さて、こっからどうすんだ、兄貴?」

 尋ねて挑発するように片眉をあげてみせた。

「何か策があるんだろ?」

 周囲の民衆はただただ狼狽え怯えている。座り込むこともできずに、地面に根が生えたように、口を半開きにして焦げる夜空を見上げている者が大半だ。

 けれど、セシ公は違うだろ。

 いや、違っていてくれ、そうであって欲しいと願っている自分に気付かぬふりで、リヒャルティはおどける。

「今なら何でも暴き放題だぜ? 命令してくれよ、せっかくこんな奥深くまで入り込めたんだし?」

 頼むよ、兄貴。こんな世界の崩壊を目の当たりにして、動けねえなんて聞かせねえでくれ。

 願った声が聞こえたのかどうか、セシ公は瞬きし……やがて薄く笑った。

「その通りだな、リヒャルティ」

 やった、そうだろ、そうこなくちゃ。

 踊り上がりたい気持ちを抑えて、わくわくと尋ねる。

「で、何をする?」

「まずは、食事だろう」

「へ?」

「へ、じゃない。この中にどれほどの食糧があるのか、私達は知らないぞ? 炎はこちらには広がってこないが、あれを見れば籠城するしかないとわかる。このまま飢え死にしたいのか?」

「あ、ああ、そう、そうだよな」

 当たり前すぎて脳みそが止まってしまっていた。壮絶な光景に呆気にとられていたが、なるほどこれは籠城策、食糧に水、それから生活のあれこれを確保しなければ、せっかく守った命が散ってしまう。

「わかった。手分けして状況を確認して来る………が」

 リヒャルティのことばの先を、セシ公は的確に予想した。

「『太皇(スーグ)』にこれからのことを伺ってくる」

「了解! おいバルカ、ギャティ! 聞いてたな!」

「聞いてましたよ、両の耳で!」

「考えましたよ、少ない頭で」

 にやりと笑って応じる2人に力を得て、『金羽根』を動かし始めるリヒャルティは気づかなかった、セシ公の震える足に。今にも倒れそうに揺らめいた体に。

「さすが兄貴だぜ!」

 振り返って快哉を叫ぶ弟に、セシ公は笑みを広げて、『太皇(スーグ)』の姿を求めて、『氷の双宮』に歩み入った。

***************


 今までの話は
こちら

 今年1年、ほとんど連載もできていないサイトへのご訪問、誠にありがとうございました。
 正直なところを申しますと、この数年は心身ともに、また職場で非常に厳しい状況にあり、よく凌いだ、というのが印象です。まあそれなりに、面白かったり楽しかったり充実したりしていたのですが、人から言わせると「マゾなの?」というレベルのようです(笑)。
 けれど幸いにして、現在は心身ともに落ち着き、仕事の方も安定しまして、ようやく作家の方に向き合えるようになってきました。またすぐにへたれてしまうかもしれないのですが、お礼と感謝を込めて、12/30、31と『ラズーン』を連載させて頂きます。
 また長い間取り組んできました『猫たちの時間』のメルマガ化、電子化もようやく終了しまして、来年以降は『闇を闇から』と『これはハッピーエンドにしかならない王道ラブストーリー3』の続きに取り掛かる予定です。半年から1年ほど遅れるかもしれませんが、またこちらでも掲載させて頂ければと思います。

 『ラズーン』はついにセシ公が本丸突入となりました。
 限られた人間しか関わっていなかった『ラズーン』の仕組みが、一般の人間にどう見えるか。 
 随分と酷薄な世界のようです。
 ごゆっくりお楽しみくださいませ。






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Last updated  2024.12.30 18:38:47
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