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わが隠せる 楫棹(かぢさを)無くて 渡守 舟貸さめやも 須臾(しまし)はあり待て(―
あなたを帰すまいと私が隠した楫や棹がなくて、渡守が舟を貸すでしょうか。彦星よ、しばらく そのままでお待ちください) 天地(あめつち)の 初めの時ゆ 天の河 い向ひ居りて 一年(ひととせ)に 二度(ふたたび び)逢はぬ 妻戀(つまごひ)に もの思ふ人 天の河 安の河原の あり通(がよ)ふ 出出の渡 (わたり)に そほ船の 艫(とも)にも舳(へ)にも 船艤(ふなよそ)ひ 眞楫(まかぢ)繁貫( (しじぬ)き旗薄(はたすすき) 本葉(もとは)もそよに 秋風の 吹き來る夕(よひ)に 天の河 白波しのぎ 落ち激(たぎ)つ 早瀬渡りて 若草の 妻が手枕(ま)くと 大船(おほふね)の 思ひ憑(たの)みて 漕ぐぎ來(く)らむ その夫(つま)の子が あらたまの 年の緒長く 思ひ 來(こ)し 戀を盡(つく)さむ 七月(ふみつき)の 七日の夕(よひ)は われも悲しも(― 天 地の初めの時から天の河に向かっていて、一年にただ一度しか逢えない妻を恋して物思う彦星 が、天の河の安の河原のいつも通う瀬々の渡で、そほ船・赤土で塗った舟 のトモにもヘサキに も船装いして櫓を備え、旗すすきの本葉をそよがせて秋風の吹いてくる七月七日の夜、天の河 の白波を乗り越えて激流の逆巻く早瀬を渡り、妻の手を枕にしようと心に憑んで舟を漕いでくる という、その彦星が一年の長い間思いつめてきた恋の思いをすっかり晴らすであろう七月七日の 夕は、自分まで深い感動を覚えることである) 高麗錦(こまにしき) 紐解き交(かは)し 天人(あめひと)の 妻問(つまど)ふ夕(よひ)ぞ われ も偲(しの)はむ(― 朝鮮半島の北部の高句麗から輸入された高級品の錦の紐を互いに解きあっ て、天上の人が妻問いをする夜である。私もその喜びを遥かに思いやろう) 彦星(ひこほし)の 川瀬を渡る さ小舟(をぶね)の い行きて泊(は)てむ 川津(かはつ)し思ほ ゆ(― 彦星の川瀬を渡る小舟が、漕ぎ進んで舟泊てする川門が思われる) 天地と 別れし時ゆ ひさかたの 天(あま)つしるしと 定めてし 天(あま)の河原(かはら)に あらたまの 月を累(かさ)ねて 妹(いも)に逢ふ 時候(さもら)ふと 立ち待つに わが衣手(こ ろもで)に秋風の 吹き反(かへ)らへば 立ちて坐(ゐ)て たどきを知らに 村肝(むらきも)の 心いさよひ 解衣(とききぬ)の 思ひ亂れて 何時(いつ)しかと わが待つ今夜(こよひ) この川 の 流れの長く ありこせぬかも(― 天と地と分かれた遠い昔から、天上の境界として、彦星と 織女とが川の東西にいるように定めた、その天の河の河原で、月をかさね、妹に逢う時を伺うと て立って待っていると、わが袖に秋風がしきりと吹くので、立ったり座ったり物に手もつかず に、心も落着かずに思い乱れて、何時妹に逢えるかと私の待つ今夜は、この川の流れのように長 くあって欲しいものである) 妹に逢ふ時 片待つと ひさかたの 天の河原に 月ぞ經にける(― 妹に逢う時をひたすら 待つとて、天の河の河原で幾月も経たことである) さを鹿の 心相(あひ)思ふ 秋萩の 時雨(しぐれ)の降るに 散らくし惜しも(― 男鹿 の思い合っている秋萩が、時雨のために散るのは惜しいことである) 夕されば 野邊の秋萩 末(うれ)若み 露にそ枯るる 秋待ちがてに(― 野辺の秋萩はま だ枝先が若くて、夕方になると露に当たって枯れてしまう。秋になるのを待ち受けることが出来 なくて) 眞葛原 (まくずはら) なびく秋風 吹くごとに 阿太(あた)の大野の 萩の花散る(― くずの生えている原では草木を靡かせて吹く秋風で、阿太の広い野原の萩の花を散らせている よ) 雁がねの 來鳴(きな)かむ日まで 見つつあらむ 此の萩原に 雨な降りそね(― 雁が来 て鳴く日まで見ていたいと思うこの萩原に、雨よ降らないでおくれ) 奥山に 住むとふ鹿の 初夜(よひ)さらず 妻問(つまど)ふ萩の 散らまく惜しも(― 奥山に住むと言う鹿が、宵ごとに妻問いに来る、秋萩の散るのが惜しい) 白露の 置かまく惜しみ 秋萩を 折りのみ折りて 置きや枯らさむ(― 白露の置くのを惜 しんで秋萩を露で痛めまいと、手折るだけは手折って、そのままにして枯らしてしまうのであろ うか) 秋田刈る 假廬(かりほ)の宿(やど)の にほふまで 咲ける秋萩 見れど飽かぬかも(― 秋の田を刈る仮小屋が美しく映えるほどに咲いている秋萩は、いくら見てもい見飽きない) わが衣(ころも) 摺(す)れるにはあらず 高松の 野邊行きしかば 萩の摺れるそ(― 私の衣はわざわざ摺り染めにしたのではありません。高松の野辺を歩いて行ったところ、萩が摺 り染にしたのです) この夕(ゆふべ) 秋風吹きぬ 白露に あらそふ萩の 明日(あす)咲かむ見む(― この 夕暮、秋風が吹いている。花を咲かせようと置く白露に抵抗している萩が、明日は咲くのを見よ う) 秋風は 涼(すず)しくなりぬ 馬並(な)めて いざ野に行かな 萩の花見に(― 秋風は 涼しくなりました。さあ、馬を並べて、野辺に行きましょう、萩の花を見に) 朝顔は 朝露負(お)ひて 咲くといへど 夕影(ゆふかげ)にこそ 咲きまさりけれ(― 朝顔は朝露を受けて咲くと言うけれど、夕方の光の中でこそ、いよいよ盛んに咲いているのだな あ。その様に私はあなたをお待ちして、咲き勝っておりますのですよ) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024年01月17日 09時56分04秒
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