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草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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草加の爺(じじ)

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2025年04月28日
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徳兵衛は気がつかづに豊島屋の潜りをそっと開けて、七左衛門殿お仕廻かと、つっと入れば、これはこれ

は徳兵衛様、こちのはまだ仕廻わずに天満の果てまで行っています。私は取り紛れ節句の前夜のご挨拶も

申さずにいましたが、ようこそ、ようこそ、この節句前には與兵衛様のことにつきいかい御心労でござい

ましょう。そう言いながら蚊帳から出れば、さればされば、此方(こなた)は幼い娘御達の御世話、我ら

は成人の與兵衛に世話を焼く。

 何れの道にも子に世話病むのは親の役、苦労とも存ぜねども、引きつけて一緒にある間は気も落ち着

く。あのような無法者を勘当すれば、自棄を起こして明日火に入っても構わない。謀判(ぼうはん、公私

の印判を偽造すること)似せ判、一貫匁の銀に千貫匁の手形をして、一生の首に綱がかかる例もある。そ

う思いながらも産みの母が追い出すのを継父(ままてて)の我ら軽薄らしく止められもせずに、聞けば順

慶町の兄の所にいるとやら、もしこのあたりに狼狽えて見えましたならば、七左衛門御夫婦言い合わせ

て、父親の自分は万事を飲み込んでいますので、出来るだけ気を入れて母親に詫びごとを致し、土性骨を

入れ替えて再び内に戻るようにひとえに頼みいりまする。

 こちの女房のお澤の一家一門は皆侍で、その習わしなのか一度思い込んだら後には引かない。義理堅い

生まれつき、それに似ぬ道楽者、與兵衛の実父である旧主人も行いが正しく、義理も情けも知っている

人。二人の子供に心を尽くすのも皆古旦那への御奉公、

 今、與兵衛めを追い出し、一生手酷い言葉を掛けられたことのない親方から、草葉の陰から恨みを受け

るだろう。無果報はこの徳兵衛一人です。推量なされて下されいお吉様と、煙草に涙を紛らして、咽せ返

る。それも道理だ。

 むうう、思いやりました、此方の人も追っ付け帰りましょう。会ってお話をなされまし。

 いやいや、いづかたも今宵の事、節句前の宵のことですから、万事にお邪魔でしょう。これこの銭三

百、女房めが目顔を忍びつつ懐に入れて出ました。あの與兵衛めが失せたならば、追っ付け暑気に赴く。

肌に付ける物でも買ってさっぱりせよと、決して我らの名前を出さずに七左殿の心付か、どうなりとも御

機転で頼み入りますと差し出した。

 後ろの門口には、お吉殿、お仕舞なされましたかと、訪れたのは女房のお澤の声。徳兵衛はびっくりし

て逢っては気の毒、当惑するだろう。隠れたい、と不躾ながら御免なされと隠れた蚊帳の中へ、その後

影。

 これこれ徳兵衛殿、自分の女房に隠れるとは何事です。と、声を掛けられて夫も敗亡(はいもう、狼狽

える)し。お吉もどぎまぎする。挨拶も出来ずにいる。

 外では與兵衛が、さあ、母の喧し屋がおいでなさったぞ。何を言うだろうかと枢(くるる)の穴に耳を

付けて聞いている。

 女房のお澤は腰を打ちかけて、のう、徳兵衛殿、七左衛門様もお留守であり、内の用事もそこそこにし

て何時でも自由に会える向かい同士です、互いに忙しい際(きわ)の夜さ、此処へは何の用があるので

す。女狂いをする年でもない。むう、また與兵衛めのことを零しに来られたのか。如何に継しい子である

とは言え、余りに義理が過ぎていますよ。真実の母が追い出したのですから、此方の名が立つことはあり

ませんよ。この三百の銭を野良めに遣るのか。常々に無理に自分の身を苦しめて始末してあいつにやると

は淵へ捨てるの同然です。その甘やかしが皆毒となってしまうのだ。この母親はそれとは違うやり方をし

ます。さあ、勘当と言う一言口を出たならそれ限り、紙子着て川に嵌ろうが(無謀なことをする喩え)、

油を塗って火に飛び込もうが彼奴の勝手、悪人めに気を奪われて、女房や娘はどうするのですか。どうな

っても構わないのですか。さあさあ先に行きなされ。引き立てる袖を振り放し、え、嬶酷いぞや。そうい

うものではない。いきなり親の身分でこの世に生まれてくる者はない。子が年寄ってから親になるのだ。

親の始めは皆人の子、子は親の慈悲で立ち行くものの、親は我が子の孝で立つ。

 この徳兵衛は果報少なくて今生で人は使わなくとも、何時でも相果てし時の葬礼には、他人の野送り百

人より、兄弟の男子に先輿跡輿を舁かれて天晴れ死後の光を添えようと思ったのに、子は有りながらもそ

の甲斐もなく、無縁の縁もない人の手にかかるくらいなら、いっそ行き倒れの釈迦担い(行き倒れは検死

の後で非人がその柩を後ろ向きに負って葬るのが例。仏像を担う形なので言う)の方がましであるぞと言

っては又、噎せ返るのだ。実に哀れを誘う情景だ。

 あ、與兵衛ばかりが子ではありませんよ。兄の太兵衛は娘だけだが、おかちは其方の子ではないか。さ

あさあ、早く先へと押し出した。

 はて、往ぬるのなら一緒に連立とう、そなたもおじゃと引き立てる。母の袷の懐から板間にくゎらりと

落ちたのは何であろうか。粽(ちまき)一把に銭が五百、のう、情けなや、恥ずかしいと思わず粽と銭の

上に身体を伏せて隠し、声を上げて泣きながら、徳兵衛殿、真っ平許して下されい。これは内の売掛金の

取立ての中から持ち出したもの。與兵衛めに遣りたいばっかりに、わしが五百を盗みました。二十年連れ

添った仲なのに心の隔てが有ったように取られそうで情けない。

 たとえあの悪人めがお談義に聞くような周利槃特(しゅりはんどく、仏弟子のうち第一の愚鈍者であっ

たと言う)の阿呆でも、阿闍世太子(あじゃせたいし)の鬼子でも、母の身で何の憎かろうか。如何なる

悪業悪縁が体内に宿ってあんな子だ宿ったかと思えば、不憫さ可愛さは父(てて)親の一倍ではあるけれ

ども母親が可愛い顔をしては義理の間柄としては、あんまり母が物がわからず無分別だ。

 母親の庇い立てが過ぎて、益々心が治らないと義理の父親としては憎しみが加わるに決まっている。そ

れでわざと憎い顔をして、打ったり叩いたりして、追い出すの、勘当のと酷く、辛く当たったりしたのは

継父(ままてて)のそなたに可愛がって貰いたさ。これも女の浅はかな考えから小細工を弄したのです。

許して下さいませ、徳兵衛殿。

 わしに隠してあの銭を遣って下さる志、詞ではけんけんと突っ慳貪に言いましたが、心では三度頂戴し

ました。何を隠しましょう、あいつは派手好みのめかし屋、取り分け祝い月(正・五・九月を言う。此処

は五月)鬢附け元結を調えて人中へも出たかろう。生まれてこの方節句、節句には祝儀を欠かさなかった

のに、この月だけでも身祝いをしてやりたい。

 見苦しいこの恥辱を晒すのも、お吉様を頼んで届けようため、まだこの上に根性が直る薬としては、母

親の生き肝を煎じて飲ませよと言う医者がいれば、身を八つ裂きにしても厭わないけれども、一生夫の銭

をびた銭半銭も誤魔化したことのない身が、我が子ゆえの闇に迷わされ、盗みをして露見してしまいまし

た。恥ずかしゅう御座ると、わっと叫び入りければ、道理、道理、と夫の歎き。

 子を持つ者は身にこたえ、我が身の行く末を思うお吉の涙。折柄に鳴く蚊の声もひとしお涙を添えるの

だった。

 や、祝(いわい)日に心もない泣き喚き、不調法(ぶしつけ)、その銭もお吉様頼み、與兵衛に遣って

下さいませとお願いいたしてお暇しよう。と、言うけれども女房は涙にくれて、此方様の遣って下さるそ

の優しく深い心ざしに盗んだ銭がどうしてやれましょうか。

 はて、大事はない、是非にやりなさいな。いや、許して下されと、義理に絡んだ夫婦の心の遣る瀬無

さ。

 お吉も涙を止めかねて、ああ、お澤様の心推量した、やりにくいはずですね。此処に捨ておきゃしゃん

せ。私が誰ぞよさそうな人に拾わせましょう。

 ああ、忝ない。この上のお情けに、この粽も誰ぞよさそうな犬に食らわせてくださんせ。と、そう言っ

てはまた泣き出すのだ。二親の心に隔てなく、また、その言葉は潜り戸に身を寄せて聞く與兵衛には筒抜

けだが、その身じろぎから自然におちた枢(くろろ)を明けて夫婦は共に帰ったのだ。

 父母が帰る姿を見て、心一つに打頷き、脇差を抜いて懐に忍ばせ、鎖した潜りをさらりと明け、つっと

入るより胸も枢も落としつけて、七左衛門殿はいづかたへ、定めし掛けも寄りましょう。余所の方からそ

れとなく探りを入れる。

 誰かとこそ思いましたが與兵衛様ですか。こな様は幸せな、遅れもせずに丁度よい折においでなされ

た。これ、この銭八百とこの粽を此方(こな)様に遣れと天道から降ってきましたよ。戴かしゃんせ、な

んぼ浪人でも際(きわ)の日の寳(いくら勘当の身に成り下がっても、よりによって節句の前夜に、こう

して金にありつくからには、やがて運勢も直るでありましょうよ、の意)と言って差し出せば、與兵衛は

ちっとも驚かずに、これが親たちの合力(ごうりき、施し)か。

 はて、早合点(早飲み込み)な、どうして追い出した親達がどうして此方(こな)様に銭をやらしゃん

しょ。

 いや、隠さしゃんすな。先から門口で蚊に食われながら長々しい親たちの愁嘆を聞いて涙をこぼしまし

た。むむ、そんならみんな聞いてこのように合点参ったのか。他人でさえ涙で目を泣きはらした。この銭

一文も徒(あだ)にはなるまい。肌身につけてひと稼ぎ、お二人の葬礼には立派な乗り物に乗せようと言

う気がなければ、男でも杙でもない(男でも何でもない。義理にも男とは言い兼ねる)。それをお背きな

されたら天道の罰、仏の罰、日本の神々の逆罰が当たって、将来がよくはないでしょうよ。先ずは頂いて

と差し出せば、如何にも、如何にも、よく合点しました。只今から真人間になって孝行を尽くす合点では

あるが、肝心お慈悲の銭が足りない。と言って、親兄には言えない首尾(立場)、

 此処には売り溜め掛けの寄り金(売り上げた金の総額。売溜金)があるはず。新で(新銀、享保銀)で

たった貳百匁ばかり勘当が解けるまで貸して下され。

 それそれそれ、奥を聞こうより口聞け(深く心の奥を問い糺す必要なない。ふとした弾みに喋る詞の端

でその人の本心が知られる。何処に心が直っていますか。嘘でも金を貸せなどとは言われない義理。世間

の義理を欠いても、金を借りて悪性所(遊郭)の払いをして、払いの済んだあとでまたそろそろと出かけ

る積りであろう。

 成る程、金は奥の戸棚に上銀が五百目余り、別に銭もあるのはありますが、夫の留守に一銭でも貸すこ

とはいかな、いかな、出来ませんよ。いつぞやの野崎参りの折に着る物を洗って進ぜたのさえ不義したと

疑われ、言い訳に幾日かかったことか。思っただけでも厭わしいことです。夫が帰らないうちにその銭を

持って早く往って下さい。

 と、お吉が言う程に與兵衛は側ににじり寄って、不義になって貸してくだしゃんせ。

 はて、ならぬと言うのに諄(くど)い諄い、諄くは言うまい貸して下されい。

 いや、女子と思ってなぶらっしゃると、声を立てて喚くぞや。はて、與兵衛も男、2人の親の言葉が心

根に染み込んで悲しいもの、嬲(なぶ)るの侮るのと言う段ではない(それほどには余裕はない」。何を

隠しましょう跡の月の二十日に親仁の謀判して上銀二百匁を今晩きりにして借りました。

 や、まあ後を聞いてください。手形の面は上銀一貫目、借りた金は二百匁、明日になれば手形の通りに

貳貫匁にして返す約束。それよりも悲しいのは親兄の所は言うに及ばず、兩町の年取り五人組に先様から

断るはず。今になってこの金の才覚、泣いても笑っても叶わない事。自害して死のうと覚悟して、これ懐

にこの脇差を差しは差して出たけれども、只今の両親の歎き、我が身を不憫がって下さるお心を聞いては

今この自分が死んで借金の後始末まで親仁にさせるのは不幸の上塗り、又家の身代破滅の基ともなるかと

思いを廻らせば死ぬにも死なれない。生きてもいられず、詮方なさにあなたの慈悲心を見込んでの御無心

です。無ければ是非もないが、有る金、たった貳百匁で與兵衛の命を継いで下さる御恩徳は黄泉路の底ま

で忘れようか。お吉様、どうぞ貸して下されい。そういう目も誠らしく、そうした事情もあるかも知れぬ

と、一旦は思ったものの、又かねての嘘八百を思えばこれもまたいつもの仕掛けと思い返して、ふう

う、禍々しい(尤もらしい)あの嘘でしょう。まだいいけれども、尾ひれを付けて言わしゃんせ。貸せぬ

と言ったら絶対に貸せませんよ。

 これほどに男の冥利にかけて誓言立ててもなりませんか。はあ、はあ、どうしても貸しませんよ。言う

より心の一分は別、そんなら仕方がない、この樽に油を二升掛売にしてください。

 それは互の商いの内、貸し借りしないでは世が立ちません。如何にも詰めて差し上げましょうと、売り

場にかかり、消える命の灯火は油を量るのも夢の間と知らないで、升を取り柄杓を取る。





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最終更新日  2025年04月28日 19時11分37秒
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