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草加の爺の親世代へ対するボヤキ

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草加の爺(じじ)

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2025年05月09日
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二番生(にばんばえ)共がはらはらと立ち寄り、拙者らは郷左衛門組下の、弓役どもだ。お身は山脇小七郎

の舎兄とな、早速の無心、弟の事を頼むのもばからしいけれど、前髪姿に神ぞ照覧あれ、爪先から頭の旋

毛(つむじ)まで打ち込み、毎日々々静心のない玉章(たまづさ、艶書)、奉書紙の代金だけでも銀五百匁も

使った。身上(しんしょう)を紙に打ち込んでもつれない小七郎。

 兄貴、是非にも所望申した、これ、軍右衛門が膝を突いて手を揃えてお願い申す、こりゃさ、拝み申す

す。呉れ申せと笠に掛かって言う。

 甚蔵と逸平は、こりゃ、半兵衛、おおっと言ったら難しいぞ、外方(とかた)にも惚れ手が有る。奉書代

は愚かな事、君にかかって壱貫五百が外郎(ういろう、口臭を消す為に使う丸薬)を摘まむこの甚蔵。弓矢

八幡身にくれろ、いやさ、この逸平にくれろうと、耳際に噛みつく如くに悪風(悪臭)を吹きかけて、眼も

眩み、前後を忘ずる程なのだ。

 煙管も離さずに半兵衛は大あぐら、御城下の習い、衆道は御法度のはず。おお、と言えば弟は首が御座

らぬわいな。いやさ、当国は女色のふしだらは下々までが罰せられる。しかし、衆道にはお構いなし。三

人の内どれへなりと魂を据えて返答しろと、もたもたと持ち掛ける後ろへ、小七郎がこれまでに受けた文

を一抱え半兵衛の前に置き、兄者人の手前も恥ずかしながら、こうなった上は隠せません。数ならぬ私に

御執心とは元服前の振袖の身の思い出、忝いのは山々ですが、一人だけではなくてあなたこなたから多数

の文の数、無下に返すのも情け知らずと請けとっては置きながら、一通も封を切らないのはいずれも様へ

の立て分(義理を立てた私の計らい)。どなたにも従う心もありません。

 兄半兵衛の存じられし事ではない。この文封したままで御返却。思しきって下されと男色の義理を立て

通した詞の優しさ。

 そのやり方に一倍心が惹きつけられたと嫌らしくも取り巻くので、半兵衛が見かねて、はてさて、聞き

分けもない方々だ、形(なり)こそ町人だが心は侍、拙者が目利きで皆様の内で真の惚れ手にやりましょう

よ。こりゃ、小七郎、死装束をしろと心を目で知らせれば、直ぐに察して、あっと頷き部屋に入れば、半

兵衛は多くの文の上書きを読み、ははあ、みな各々の名書き、このひと括りの上書きに小一兵衛とは誰の

事か御存知ないか、と問いければ三人が共に口を揃えて、その小一めはこの屋敷の中間、へへえ、慮外な

(生意気な、不躾な)下司めがやりおったわと、似非笑いをする(嘲笑する。せせら笑いをする)。

 いや、そうでござらぬ、この道に身分の高下はない。その小一兵衛も呼び出して並べて置いて念者(男色

関係で兄貴分)に頼もうか。

 いやいや、下司め。身などと同座におくやつではない。殊に留守なのか頬(つら)も見ない。無用、無用

と言う所へ山脇小七郎が白小袖に浅黄の上下、覚悟を決めて座につけば、半兵衛は取り敢えず肴台の三方

に抜き身(鞘から抜き放った刃、白刃)を二口(ふたふり)弟の前に置き、惚れ手は四人、惚れられ手は弟一

人、どこへ進ぜても残る三人の恨み。この兄は他国住居、行く末も気遣い、厭とは言わさぬ御所望、歴々

の御侍、町人風情に手を下げてのお頼み、のっぴきならず、弟に覚悟させての死に装束。上部ばかりの恋

慕ではなく、未来までも小七郎を不憫と思召すならばこの場にて差し違え、人が構わぬ未来・来世での念

者若衆、兄弟分の関係を結ばれるがよかろう。

 さあ、弟を遣る、どなたなりとも兄弟の契約をと言って三人を睨みつけた。思いがけない抜き身の刃と盃

だ。それに死に装束姿、それに吃驚して、へへん、へへん、と咳に紛らし身ぜせり(身をもじもじさせ

る)。

うんともすんともないのだった。

 御門脇の長屋から紺のだいなし(仲間などの着る、紺無地で仕立てた筒袖の着物)を裾を絡げられるだけ

からげて尻を一振り振って振り出したのは恋に来いと言うのだ。小一兵衛三人の鼻の先、尻を突き出して

かっつくばう(うずくまる、を強調して言う)。

 兄御、半兵衛様の御手前も、しゃ、お恥ずかしいべいながら、小七様にとんと打ち込み、二合半の盛り

切りの飯も喉に詰まってぎっちぎっち、てきない(切ない、苦しい)こんでごはりまする。今日君が御情け

をつん出して未来ではやつがれめをお念者になさるべいとは、有難いやら、悲しいやら。

 せせ、せせ、せせ、せせ、唐辛子を五つ六つ齧ってもこんなに熱い涙は出ませぬでごはりまするで。ご

はりますると白刃を取って立ち寄れば、小七郎も引き寄せて、すはや(あわや、危機一髪の際に発する感動

詞)と見えた刀の中、半兵衛が飛び入って、こりゃ、狂気したか小一兵衛と二人を左右に引き分けた。

 これさ、上方の御旦那、糠味噌汁の御恩(主君の恩と言うのに同じ。仲間は、一日二合半の食い扶持をあ

てがわれ、糠味噌汁をすすって生活を立てるので言う)に代えたお若衆、此処で死ななければ心中が見え

まいらせぬ。是非に死なせて下されと立ち上がるのを引き伏せて、男気は見えた。小七郎に誠の惚れ手は

そち一人。小七郎を思う真情において他に匹敵する者があるならば大事な弟を殺しもしもするが、争い手

のない若衆、八百屋半兵衛ならぬ山脇半兵衛が挨拶して取り持とう、向後(きょうこう、今後)兄分として

頼んだぞ。

 はは、はっと悦び小一兵衛、御侍方と同座が許されない奴めが武士に劣らない魂故に、結構なお若衆様

の兄様とは忝い、忝い、冥加ない(勿体無い)。手附にちょっとほてくろしい(でれでれした、でれついた)

事を御免、御免。半兵衛様も気をお通し(粋をきかせて、お見逃し下さい)と、べったりと抱き付けば、紺

のだいなしと白無垢が、黒白粋の兄弟だ。

 岡軍右衛門が法界悋気をおこして、くゎっと急き(苛立ち)、こりゃ、下郎め。見苦しい、控えていろ。

と、肩を取って引き退ければ、こりゃ、何をなさる、むむ、聞こえたぞ(分かった)、御もてなしの酒が過

ぎての事、むむ、合点、合点。さすがに二腰(両刀を腰に差す御侍)の心がけは格別、柔術(やわら)の稽古

を遊ばすなら無調法ながらもお相手致そう、と座興に見せかけてずっと寄り一当てあてて引き担ぎ、うん

と投げて、はは、はは、はは、はは、こりゃ粗相を致した。粗相でごはりますると空惚(そらとぼ)ける。

 甚蔵と逸平が堪らずに一度に寄って胸ぐら掴み、どんざいなる小丁稚め、朋輩を何故投げたのだ。返報

に砂を齧らせてやろう。と、引き立てた。

 さてさて、お心掛けのよい、お前方もこりゃ柔術か。どりゃ、お相手と立った拍子に二人の息使いを見

計らい、はった、はったと蹴返せば板敷から真っ逆さま、はは、はは、はは、はは、こりゃまた粗相仕っ

たぞ、御免、御免と言ったのをしおに(好機会、きっかけ)三人はぐずぐずと起き上がって、ええ、鈍な所

に給仕に来て、酒を盛って尻を踏まれた(諺、親切を見せて却って馬鹿を見た)。と、袴の腰の痛い顔、堪

えながら帰ったのだ。

 半兵衛はぞくぞくとして小気味よく、さっても手際(見事な手並み)だ。小一兵衛、我は他国住で頼りな

い、弟の事を頼んだ、頼んだ、今日の料理の御褒美に二人の事を旦那に訴訟して、権柄晴れて(天下晴れ

て、公然と)念比(ねんごろ)をさせようぞ。その仲介は半兵衛が八百萬の神々に誓約して必ず結ぶ。深い

約束だ。


            中 之 巻

 五月雨ほど恋慕われて、今は秋田の落とし水、軒の玉水とくとくと、ござれしげく、ござれば、名の立

つのに玉水(山城の国綴喜郡伏見の南)近い、山城の村は上田に家富んで庄屋に並ぶ萱屋根も、内は暖かく

下女(しもおんな)が並んで紡ぐ綿車、手廻りもよく(暮らし向きも豊かで)、幾はえ(土間には米俵がいくつ

も積んである)か、庭には五つのたなつ物(五穀、ここは米)を積む蓬莱の島ならぬ、島田氏、平右衛門

と言う大百姓、妻は去年の秋に霧の如くに消えても、娘二人、惣領の軽に入り婿を取り、鳥飼(摂津の国三

島郡)から呼び迎え、妹の千代にも大阪にれっきとした婿を取って、老後の収入も上々で、田畑を作るこ

とを止めて、万事が限りの俄か病、姉のお軽は側を離れずに台所には女子共、何と今朝から仕事のはかも

いったではないか、ちと休もうお竹とお鍋が呼び連れて思い思いに立ち出でた。

 親のすやすやと転寝の隙を伺い女房は、心せわしく奥より立ち出でて、これこれ、台所に人が誰もいな

い。連れ合いの平六殿は淀川筋、新田開きの御訴訟に大事の病人を振り捨てての上京、男共は皆野に行

く、ええ、憎い女子ども、我が見る前では忙し気にちょこちょこと立ち廻り、ちょっと立てば早何処に、

大切な主の患いに煎じ薬一つ温めようとはしない。

 下々には何がなる、囲炉裏の下を焚きつけないか、次郎よ、次郎よと呼び廻す門の口、駕籠を舁き据え

て、申し申し、大阪の新靭(しんうつぼ)八百屋伊右衛門様からと、駕籠の戸を開ければ打ち萎れ目元しぼ

よる(小さく皺が寄ること)縮緬の、二重廻しの抱え帯、涙の色に染め代えて泣く泣く出て来れば駕籠の

者、確かにお届け申したと言い捨てて帰るのも足早である。

 親の家でさえ女気の敷居が高い、佇んでいる有様、姉が見つけて、やあ、お千代おじゃったか、定めて

御病気の見舞いであろう。ようこそ、ようこそ、何故に駕籠の衆を止めてやらなかった。余所外でもある

ように隔心がましい(他人行儀な、水臭い)、酒を一つ飲ませていなせばよかったのに。それ、呼びもどし

ゃと言うのだが、妹はさし俯むいて嘆くので一緒に嘆かれて、おお、道理、道理、疾く知らせようとは思

ったのだがこの病では死なない。

 気の取りにくい舅と姑を持ったお千代、婿の半兵衛も忙しい時分、聞いたにしても自由に来れるわけで

はあるまい。案じさせるな、不憫である、沙汰をするなとの病人の気にも逆らえずに、高麗橋の伯母様の

常盤町にも知らせていない。

 これ、気遣いしやんな、京の御典薬(御所方に勤仕の医者)に替えてからめっきりと薬も廻り、今朝も

粥を中蓋(ちゅうかさ、中位の大きさの木皿)に三よそい、病は請け取って治すとのお医者様の保証、本復

したのも同じ事。

 そなたの顔をご覧なされたら、いよいよ父(とと)様の病はすっぺりと癒(な)ろう。嬉しい、嬉しい、お

目にかかりゃ、と有りければ、ええ、父様は患いかえ、知らなんだ、知らなんだ。何時からの事で御座ん

する。や、何じゃ、煩いを知らなかっただと。そんならそなたは何をしに来たのか。何が悲しくて泣くの

だえ。

 ああ、恥ずかしや、又、離縁されました。そう言って顔を押し隠して咽び入る。

 姉も驚く顔に血を上らせて、のう、お千代や、五度三度の婿入り嫁入りも世間には有る習いとは言いな

がら悪い事は手本にはならない。恥ずかしい、恥ずかしいと口で言うだけが恥を知ったとは言われない。

そなたも軽々と三度の嫁入り、尤も始めの男、道修町の伏見屋の太兵衛殿は心不肖(甲斐性がなく、働きが

なく)身代を持ち崩し、暮らしもたたないようになり成り果てての不満足な別れ。その次には死に別れ、

死別となれば双方に欠点はないわけだが、人はそなたの辛抱が足りないために去られた、去られたと非難

を付けて、この度の嫁入りも追い出されるのに間はあるまい。忘れても島田平右衛門の娘の風下にいるな

と、娘を持った人々は寄合、茶飲み噺にもそなたの噂。

 ま一度戻っては親兄弟、人中に顔を出されない、とは知りぬいていて火に入り骨を砕かれたとしても戻る

まい、帰るまい。おお、必ず去られて戻るなと、念に念をつごうた今度の嫁入り。よく戻りゃった、父(と

と)様お聞きなされたらお悦びなされようぞ。顔をお見せする折があろう、必ず声高く話をしないでおくれ

よ。

 して、半兵衛の離縁状を取って戻りゃったのか。いや、跡の月半兵衛殿は父(てて)御の十七年の弔いの

為に生まれ故郷の遠州浜松に。戻り次第に道具に添えて暇の状は後から、先ずは往けと譯も言わずに、お

腹には四月の身重であるのに姑御が手を取って駕籠に引き摺り乗せ、酷い、辛いとばかりにて嘆くのを見

れば痛々しくて、子が有るものを夫の留守に隙をくれる姑、心に一物あるわいの。

 伯母婿ながらそなたの親分、高麗橋弐丁目川崎屋源兵衛殿を差し置いて、直ぐに此処へ突き付けた仕方

も憎い。よいよい、こちの人が京からの帰りを待って、詰め開かせ(談判)して、大抵では(一通りの事で

は)離縁はさせない。

 とは言え世上の夫婦中去るという事を誰が拵えたのか、憂き目を見せて可愛やと歎けばわっと泣き出す

声。あ、声が高い、高い、障子の向こうで父様の寝入りばな、泣くな、泣くなと言いつつも伝う涙の血筋

とて親は泣き寄る(普段は疎遠のようでも一旦不幸の境涯に陥ると心から同情しあうのは肉親だ)哀れさ

よ。





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最終更新日  2025年05月09日 20時07分03秒
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