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青藍(せいらん)な日々

青藍(せいらん)な日々

第82話 各艇のコンセプト パート4

大手の造船所はどんなコンセプトを持っているのか。これを考えるのも参考になると思います。大手ということは建造艇数が多い、という事はもっとも一般的な需要を対象としています。ただ、単純に大手と言ってもいろいろありますから、ここでは中規模、モデル数もそれ程大きくなく、年間に100艇以下ぐらいの建造艇数、そして大手となればモデル数はもっと増えて、数百から数千艇以上という規模にまでなります。もちろん、数ある造船所をこの範疇で決め付けるわけにはいきませんが、おおまかな考え方を想像してみます。当らずとも遠からずでしょう。

大手の造船所は人間も多い、つまりそれだけ数売っていかなければなりたちません。数多く売るにはどうしたら良いか。一般的にはコストダウンを図って、販売価格を抑える。価格が下がれば下がる程、対象となるお客様の数は増えてくることになります。ですから、大手の第一目的はコストダウンにある。コストダウンする為には安い人件費で建造する、製造工程をできるだけ少なくして、できるだけ短い納期で建造する。コンセプトは強い個性をあまり打ち出す事は無く、一般受けする、最も一般的な使い方をする人々を対象にします。どうでしょうか?他の産業分野でも同じような物ではないでしょうか。私が造船所の経営者ならばこう考えます。
デザインはモダンなスタイル、フリーボードが高くキャビンが広い、コクピットもあまり絞ってなく、広いコクピットが多い。

ある典型的な量産艇の41フィート艇を取り上げます。水線長/排水量比は180、軽排水量、セールエリア/排水量比は19.4、これはやや軽い艇でセールエリアもかなり大きい。このようにちょっと軽めで良く走る。時化た時にはあまり乗らない。沿岸沿いクルージング。これが最も一般的な使い方なのでしょう。

中規模の造船所では、大手との差をつける事、しかし、あまりにも特化しすぎると販売数に限りが出てくる恐れがあります。一般的にはデザイン的にはトラディショナルからモダンなスタイルで、 外洋志向、中大型艇、高品質という分野にターゲットを絞っているケースが多いようです。従って、コスト的にも高めの設定となります。代表的な例としてはフィンランドのスワン、5~6年前だったでしょうか、年間30艇の建造だと聞きました。当社扱い艇ではセーバー社、ここで70艇ぐらいです。
こういう艇を建造する場合は手間がかかり、どうしても数多くは造れない。イタリアのコマー社で100艇というところです。共通するデザインとしては低いフリーボード、バウにはオーバーハングを持ち、スターンの所で少し絞っています。深いコクピットでやや狭い。

今は建造されていませんが、スワン40というのがありました。水線長は32.4フィート、排水量は19,500ポンド、これで計算しますと255という値がを得られます。中排水量中の中、ノルディックフォーク25と殆ど同じ値です。セールエリアは829平方フィート、この排水量に対する比は18.3となります。スワンの建造元であるナウター社は外洋艇クルージングではある程度重い方が良いとし、そのようになっています。だからと言って、セーリング性能を無視せずに、セールエリアはやや高い数値を出している。

当社取り扱い艇と比較してみますと、セーバー402というヨットがありますが、水線長は34フィート排水量は19,300ポンド、セールエリアは822平方フィートです。水線長/排水量比は219です。これはスワンに比べると中排水量の軽い側に入ります。セールエリア/排水量比は18.3とスワンと同じです。この両艇を比べますと、コンセプトは非常に似ている事がわかります。重量もセールエリアもほぼ同じ、ただ、水線長がセーバーの方が2フィートだけ長い。違いは殆どそれだけです。結局、こういう小規模生産の造船所が意図するコンセプトはこういう外洋艇クルージングであり、その中でもややセーリング性能を重視したヨットという事になる。或いは、外洋の頑丈性をもっと強調し、ロングキールを持たせたような、もっとクルージング寄りのヨット、こういう所に落ち着くのではないでしょうか。

ついでながら、超高級艇というものがあります。こうなると船体やデッキを積層するモールドはあるものの、あとは全てカスタムにて造られます。セミカスタムという分野ですね。アメリカのヒンクリーやアルデンヨットなどがそれにあたります。建造艇数は年間10艇以下です。



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