その5(10話)41【刻音】 ファミレスで遅い昼食を摂っていると、 カチ、カチ、カチ、……と、どこからともなく聞こえてきた。 気になる音だ。 時限爆弾でも仕掛けられているのか。 食事を中断し、テーブルや椅子の下、床、壁、天井に目をやる。 どこにもそれらしきものはない。 いつもと変わらぬ店内。 カチ、カチ、カチ、……。 ほかの客には聞こえないようだ。 おや。私はいつの間にかテーブルの上に立っていた。 いつ脱いだのか、下半身丸出しだ。 腰が左右に振れだす。 左手が水平に、右手が垂直にまっすぐ上がった。 そして、叫んだ。 「ボォーン、ボォーン、ボォーン」 ------------------------------------ 42 【ものにあたる】 「うえェ~。きもちわりぃ~。飲みすぎちった。 まっすぐに歩けませんよぉ~だ。おえ~。 どうせオレは、三下のチンピラですよ~だ。 おーっとっと。うわあ、あ痛たたたたあ! くぅ~、痛てえ。 ったく! おい、このアホくずかご! こんなところにつったてんじゃねえ! じゃまなんだよ! こんちくしょう! エーイ! あ痛たたたああ。 この、バカくずかごヤロウ!」 「うるせえ! 社会のくずのテメエよりマシだ!」 ------------------------------------ 43 【安倍さんと神戸さん】 長引いている会議をこっそり抜け出し、トイレに入る。 小のほうの便器の前に立ち、急いでジッパーを下げ、いちもつを出す。 ふぅ~。極楽極楽。よく出るなあ。昨夜のビールが残ってるのかな。 顔を上げる。 うっぷ! おしっこが止まった。 正面の窓に、男の顔がふたつ。 ここはビルの二十七階。窓の向こうに足場は無いはず。 「安倍です」「神戸です」 しゃべった。 『ふたり合わせて、あべこーべでーす』 あべこべ? わっ、わあああぁぁぁ~~~落ちてゆくうぅぅぅ~~~ こんなかっこうでえぇぇぇ~~~~~。 ------------------------------------ 44 【相性】 うららかな春の日曜日。 自然公園のベンチに、付き合い始めたばかりのカップルがすわっていた。 遠くでウグイスが鳴いている。 「わたし、鳥って好きだなあ」 「ボクもだよ」 「じゃあ、好きな鳥の名前を同時に言いましょう」 「いいよ」 『せーの』 「コマドリ」「つくね」 ------------------------------------ 45 【四角くんと三角さん】 四角くんと三角さん ある日出会って恋をした いつでもいっしょ どこでもいっしょ 肩をよせあい なかよく歩いた 四角くんと三角さん ある日突然 けんかした コンパスさんが やってきて くるっとまわって まあるくおさめた 四角くんと三角さん 重なりあってお家ができた やがて ちっちゃな 五角形 ふたりの あいだで きゃらきゃら笑った ラーララ ラーララ ラーララ ラー ラーララ ラーララ ラーララ ラー ------------------------------------ 46 【発明記者会見1】 江崎博士は、多くの記者を前に説明を始めた。 「みなさん。これが、今回発明した、植物意思疎通マイクです」 手にカラオケマイクのようなものを持っている。 「では、さっそく、この機能を実際にお目にかけましょう」 そう言うと親指でペチッとスイッチを入れ、 テーブルの上に用意しておいた鉢植えのヒマワリに体を向けた。 「ヒマワリさん、ヒマワリさん。自然破壊について、一言」 『ほっとけ、ドあほう!』 ------------------------------------ 47 【発明記者会見2】 江崎博士は、たくさんの記者を前に説明を始めた。 「これが、今回発明した純粋肉探知機です」 テーブル上には、金属探知器のようなものがあった。 「農水省からの要請を受け、昨今のあくどい牛肉偽装に対処するために、 緊急開発しました。 このセンサー部をビニールパックのままの食用肉に近づけるだけで、 純粋肉か混入肉かを瞬時に判別できます。 従来のDNA鑑定のようなめんどうな検査がいらなくなったわけです。 では、実際に、この機能をお目にかけましょう」 すでにテーブル上には、 ビニールパック状の食用肉がいくつか並べられていた。 博士は、機器の本体に線でつながっている細長い棒状のセンサー部を 手に取り、ペチッとスイッチを入れた。 すると、 ピロンピロンピロンピロン……。 おかしいぞ。食用肉に近づけていないのに鳴っている。 センサー部の間近には── 「いや~ん」 隣の女性助手が、両手で胸をおさえた。 ------------------------------------ 48 【自動販売機1】 いつもいく公園の駐車場に、見慣れぬ自販機があった。 押しボタンに表示された文字を見ると、 『まだ』『ブス』『おもいやり』とあった。 な、なんだあ!? 百二十円を投入し、三つ同時に押してみる。 「ぐぇえ!」 槍が十数本飛び出してきて腹に刺さった。 そして、倒れて覆いかぶさってきた。 「う、ううううう……。お、重い、……そ、そうか…… 『おもいやり・ブス・まだ』──つまり、重い槍衾だ、か……うっ」 ------------------------------------ 49 【自然破壊】 海と陸がけんかした。 海:「このツンツルあたまのハゲやろう!」 陸:「うるせえ、このゲロやろう!」 そこへ、空が仲裁に入った。 空:「きみたち、けんかはやめろ」 海と陸は上を見、そろって言った。 海・陸:「黙ってろ、この毒ガスやろう!」 ------------------------------------ 50 【自動販売機2】 加奈子は美人だ。自他共に認める。スタイルもいい。 そんな彼女にもコンプレックスがある。 それは、声だ。だみ声なのだ。 ある日、コンビニの前の真新しい自販機に目がすいこまれた。 新発売飲料『うぐいす』──濁りを取り、さわやかな声に! ほんとかなあ。飲んでみましょう。 コインをいれ、その缶飲料水を買って、飲んだ。 「あーあー。あいうえおー。かきくけこー。ちっとも変わらないわ」 だみ声のままだ。 「なによこれえ。たまされたあ。ひゃくにしゅう円、返せえ!」 あらっ? 「へんたわ。とうなってるのお?」 以来、濁音が清音になってしまう。 ジャンル別一覧
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