2011167 ランダム
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せいやんせいやん

せいやんせいやん

その5(10話)

41
【刻音】


ファミレスで遅い昼食を摂っていると、

カチ、カチ、カチ、……と、どこからともなく聞こえてきた。

気になる音だ。

時限爆弾でも仕掛けられているのか。

食事を中断し、テーブルや椅子の下、床、壁、天井に目をやる。

どこにもそれらしきものはない。

いつもと変わらぬ店内。

カチ、カチ、カチ、……。

ほかの客には聞こえないようだ。

おや。私はいつの間にかテーブルの上に立っていた。

いつ脱いだのか、下半身丸出しだ。

腰が左右に振れだす。

左手が水平に、右手が垂直にまっすぐ上がった。

そして、叫んだ。

「ボォーン、ボォーン、ボォーン」


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42
【ものにあたる】


「うえェ~。きもちわりぃ~。飲みすぎちった。

 まっすぐに歩けませんよぉ~だ。おえ~。

 どうせオレは、三下のチンピラですよ~だ。

 おーっとっと。うわあ、あ痛たたたたあ! くぅ~、痛てえ。

 ったく! おい、このアホくずかご!

 こんなところにつったてんじゃねえ! じゃまなんだよ!

 こんちくしょう! エーイ! あ痛たたたああ。

 この、バカくずかごヤロウ!」

「うるせえ! 社会のくずのテメエよりマシだ!」


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43
【安倍さんと神戸さん】


長引いている会議をこっそり抜け出し、トイレに入る。

小のほうの便器の前に立ち、急いでジッパーを下げ、いちもつを出す。

ふぅ~。極楽極楽。よく出るなあ。昨夜のビールが残ってるのかな。

顔を上げる。

うっぷ! おしっこが止まった。

正面の窓に、男の顔がふたつ。

ここはビルの二十七階。窓の向こうに足場は無いはず。

「安倍です」「神戸です」

しゃべった。

『ふたり合わせて、あべこーべでーす』

あべこべ?

わっ、わあああぁぁぁ~~~落ちてゆくうぅぅぅ~~~

こんなかっこうでえぇぇぇ~~~~~。


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44
【相性】


うららかな春の日曜日。

自然公園のベンチに、付き合い始めたばかりのカップルがすわっていた。

遠くでウグイスが鳴いている。

「わたし、鳥って好きだなあ」

「ボクもだよ」

「じゃあ、好きな鳥の名前を同時に言いましょう」

「いいよ」

『せーの』

「コマドリ」「つくね」


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45
【四角くんと三角さん】


四角くんと三角さん ある日出会って恋をした

いつでもいっしょ どこでもいっしょ

肩をよせあい なかよく歩いた

四角くんと三角さん ある日突然 けんかした

コンパスさんが やってきて

くるっとまわって まあるくおさめた

四角くんと三角さん 重なりあってお家ができた

やがて ちっちゃな 五角形

ふたりの あいだで きゃらきゃら笑った



ラーララ ラーララ ラーララ ラー

ラーララ ラーララ ラーララ ラー


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46
【発明記者会見1】


江崎博士は、多くの記者を前に説明を始めた。

「みなさん。これが、今回発明した、植物意思疎通マイクです」

手にカラオケマイクのようなものを持っている。

「では、さっそく、この機能を実際にお目にかけましょう」

そう言うと親指でペチッとスイッチを入れ、

テーブルの上に用意しておいた鉢植えのヒマワリに体を向けた。

「ヒマワリさん、ヒマワリさん。自然破壊について、一言」

『ほっとけ、ドあほう!』


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47
【発明記者会見2】


江崎博士は、たくさんの記者を前に説明を始めた。

「これが、今回発明した純粋肉探知機です」

テーブル上には、金属探知器のようなものがあった。

「農水省からの要請を受け、昨今のあくどい牛肉偽装に対処するために、

 緊急開発しました。

 このセンサー部をビニールパックのままの食用肉に近づけるだけで、

 純粋肉か混入肉かを瞬時に判別できます。

 従来のDNA鑑定のようなめんどうな検査がいらなくなったわけです。

 では、実際に、この機能をお目にかけましょう」

すでにテーブル上には、

ビニールパック状の食用肉がいくつか並べられていた。

博士は、機器の本体に線でつながっている細長い棒状のセンサー部を

手に取り、ペチッとスイッチを入れた。

すると、

ピロンピロンピロンピロン……。

おかしいぞ。食用肉に近づけていないのに鳴っている。

センサー部の間近には──

「いや~ん」

隣の女性助手が、両手で胸をおさえた。


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48
【自動販売機1】


いつもいく公園の駐車場に、見慣れぬ自販機があった。

押しボタンに表示された文字を見ると、

『まだ』『ブス』『おもいやり』とあった。

な、なんだあ!?

百二十円を投入し、三つ同時に押してみる。

「ぐぇえ!」

槍が十数本飛び出してきて腹に刺さった。

そして、倒れて覆いかぶさってきた。

「う、ううううう……。お、重い、……そ、そうか……

 『おもいやり・ブス・まだ』──つまり、重い槍衾だ、か……うっ」


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49
【自然破壊】


海と陸がけんかした。

海:「このツンツルあたまのハゲやろう!」

陸:「うるせえ、このゲロやろう!」

そこへ、空が仲裁に入った。

空:「きみたち、けんかはやめろ」

海と陸は上を見、そろって言った。

海・陸:「黙ってろ、この毒ガスやろう!」



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50
【自動販売機2】


加奈子は美人だ。自他共に認める。スタイルもいい。

そんな彼女にもコンプレックスがある。

それは、声だ。だみ声なのだ。

ある日、コンビニの前の真新しい自販機に目がすいこまれた。

新発売飲料『うぐいす』──濁りを取り、さわやかな声に!

ほんとかなあ。飲んでみましょう。

コインをいれ、その缶飲料水を買って、飲んだ。

「あーあー。あいうえおー。かきくけこー。ちっとも変わらないわ」

だみ声のままだ。

「なによこれえ。たまされたあ。ひゃくにしゅう円、返せえ!」

あらっ?

「へんたわ。とうなってるのお?」

以来、濁音が清音になってしまう。






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