その10(10話)91【あの世~城太郎の場合】 城太郎が借金苦に耐え切れずに服毒死すると── 『うぉおおおおおお……』 四角いジャングル──リング上にいた。 観客の喚声がすごい。 直後、もうひとり男が出現し、レフェリーはそいつの 右腕をつかんで上げた。 喚声がより激しくなる。 どうやら城太郎は、タッチの差で負けたようだ。 リング四隅のポールには、競技名の『ザ・ガマン』。 ------------------------------------ 92 【飼い犬】 玄関を出ると小犬がいた。 ときどきやってくるやつだ。 ころころしていてかわいい。 「おいでおいで~」 呼ぶと、 「ワン! ワンワン!」 と元気よく吠えたあと、 シッポをふってやってくる。 「よーし、よしよし」 あたまをなでてやる。 人に慣れている。 誰かに飼われていて、逃げてきたのか、 それとも捨てられたのか。 うちで飼ってやりたいけど、ここは社宅だ。 犬猫の飼育は社則で禁止されている。 「お! 田中くん!」 あっ、専務! あわてて立ち上がる。 「はい! はいはい!」 「返事は一回でよろしい」 「ワン! ……あれ」 ------------------------------------ 93 【手帳】 夜道を歩いていると手帳が落ちていた。 よくある、黒くて細長い手帳。 拾って、街灯の下にいってめくってみる。 薄いエンピツで書かれた細かい字。 なになに── ****************** ……… 7月14日(土):アリ6、クモ1、ゲジゲジ1、ミミズ1 7月15日(日):アリ13、ネコ1、毛虫6、ミミズ3 7月16日(月):アリ8、ゴキブリ1、ガ1、トカゲ1 ……… 8月11日(土):アリ28、ナナホシテントウ2、カマキリ1、蚊3 8月12日(日):アリ17、アゲハチョウ1、M1、コオロギ2 ……… ****************** なんだこりゃ? 昆虫や動物のよこに数字か…… 「Mってなんだ?」 おもわずつぶやくと、 「MはMan──」 耳元で男の声。 びっくりしてふりむく。 「──つまり人間ってこと」 「ううっ!」 わき腹に激痛。 ------------------------------------ 94 【人間対ロボット1】 22世紀。 少子化による労働人口の減少その他諸々の理由により、 地球上至る所、人間とロボットが共生していた。 そして互いに競争心を燃やしていた。 <荒野の決闘> ジャペニカ合衆国は西部の荒野。 向き合って立つガンマン。 共にガンベルトを腰に巻き、同型のガンをぶらさげている。 片や人間ジュリアン、片やロボットライザー。 背格好は同じくらい。 ちょっと見にはどちらが人間かわからない。 立会人の合図で両者回れ右し、10歩あるいて、振り向き── と、そのとき、ライザーの脳裏に 敵方ジュリアンの家族の顔が浮かび上がる。 『パパァ! がんばってきてね!』 『あなた、しっかり。信じてるわ』 ライザーが腰のサックからガンを抜いたときには、 もうジュリアンは引き金を引いていた。 眉間から煙を発して仰向けに倒れていくライザー。 一瞬のちゅうちょ、一片の人情が勝敗を決した。 ------------------------------------ 95 【人間対ロボット2】 <名人決定戦> 銀閣寺一階の畳の間。 棋界のアイドル「林葉リンコ女流名人」と、 高性能ゲームロボット「キャリきゅら子」が、 将棋盤を挟んで対峙している。 対戦を前に、林葉リンコがタバコのヤニでまっ茶色になった 歯をむき出しにし、キャリきゅら子に喰ってかかった。 「あんた、あいさつもなしにナマやってんなっつーの~! つーか、なにげにむかつくぅ~! ゲロやべぇ~! うぜぇんだよ、しょべぇんだよ、つーか、さりげにしょべりばぁ~! げらみに、さらばいて、はざまりかぁ~ってかんじぃ~! ぞいぞいばばって、ちょっころまいて、けすたみたろかぁ~! それとも、けつかっちんで、ぱいもぎさらして、へすかすぞぉ~! だいたいあんた、げたみがせぜめいて、かもらびさいてんだよぉ。 ぶいぶいごがっさめいて、なむにに、ばがらぎって……」 キャリきゅら子は、頭部から火を噴き、活動を停止した。 林葉リンコの使用言語を理解しようとしたのが命取りだった。 将棋のほうは、不戦勝で林葉リンコに軍配が上がった。 ------------------------------------ 96 【人間対ロボット3】 <運動会> 泉が丘自然公園の運動場。 トラックのスタートラインに、なかよし幼稚園の園児たちが きれいに並んでいる。 一周200メートル。ゴールは4分の1行ったところ。 「よーい、ドン!」 ピストルの音を聞き、元気よく走り出す子供たち。 8人のうち半分は人間、半分は人型ロボットだ。 10メートルほど行ったところで海斗くんがころんだ。 つられるように洋介くんもころんだ。 あっ、勇太くんも純くんもころんだ。 おや、人型ロボットがもどってくるぞ。 4体が4人のあいだに入り、仲良く手をつないで走り出した。 そして、よこ一列になってゴール! 全員一位だあ! ほほえましい(?)ですねえ。涙が出ますねえ。 父兄に言われたわけでもないのに、 すばらしい気の回し様だぞ、人型ロボット。 春の演劇発表会は、全員桃太郎で名演技だあ。 ------------------------------------ 97 【どこいった】 「ミケー! 出てきなさーい。ミケー! ミケー!……」 むかいの奥さんが必死に呼んでいる。 ミケって名前か。 オレはくずかごからアイスの棒を拾い、 マジックで『ミケ』と書いて、自宅の庭の隅に刺した。 「まゆみー! 夕飯ですよー。どこいったのー。まゆみー!……」 となりの奥さんが必死に呼んでいる。 オレはくずかごからカマボコの板を拾い…… ------------------------------------ 98 【ゲーム】 気がつくと体育館にいた。 50脚ほどの椅子が円状に配置され、 その周りに、オレを含む50人ほどが立っている。 なぜオレはここにいるんだ? そうだ! 確か、NPOとして戦地でボランティアをしていて、 テロ集団に捕まり── そんなことを考えていると、天井のスピーカーが鳴り出した。 なつかしい曲。 運動会で聞いたことがある、『オクラホマミキサー』だ。 からだが自然に動き、オレたちは左方向に周りだした。 椅子から目を放さず、みんな緊張気味だ。 そして、20秒ほどして、曲が止まった。 オレたちはあわてて椅子に駆け寄った。 どけどけどけ~! しまった! 座れなかった。 オレは日頃の運動不足をのろった。 くっそ~! 次の瞬間、体育館内に断末魔の絶叫がこだまし、 椅子に座ったやつらから真っ黒い煙が上がった。 「で、電気椅子かあ!」 煙と肉の焦げる臭いにむせながら、オレは胸をなでおろした。 「ヘーイ! ラッキー・ボーイ!」 出入り口に迷彩服の男が現れた。 こちらにやってくる。 オレの前で止まり、腰のサックからリボルバーを抜き、銃口を向けた。 「弾の節約ね」 銃口が火を噴いた。 ------------------------------------ 99 【検定3話】 「パパぁ、目ぇ血走らせてなにやってんの? ねえ、あそんでよ」 「うるさい! あっちいってろ! いま、‘子育てパパ検定’の勉強やってんだ!」 「雅子さんや。オムツを取っ替えてちょうだい」 「ちょっと待っててよ、義母さん。 いま、‘介護検定’の勉強やってんだから」 「おや、けさのお茶、へんな味だねえ」 「ふふふふふ。任せて、義母さん。 あたし、安楽死検定1級よ」 ------------------------------------ 100 【あの世~定次郎の場合】 会社ではダメ社員とバカにされ、 家庭ではダメおっと・ダメおやじと蔑まれていた定次郎が、 電車の前に跳び込んで昇天すると── 「それでは、発表します」 なにかの授賞式会場にいた。 「本年度ハカデミー助演男優賞は──」 プレゼンターが2,3秒もったいぶった後、定次郎の名を呼んだ。 スッポットライトが定次郎に当たり、割れんばかりの拍手が会場を満たした。 なんだ、そうだったのか。賞をもらうなんて幼稚園の運動会以来だなあ。 うれしいような、むなしいような思いで、定次郎は舞台に上がった。 プレゼンターである、前年度受賞者の松岡利勝から、 トロフィーが授与される。 「いまのご感想は?」とアシスタント。 「複雑な気持ちです。とにかく、次は主演男優賞をねらいます」 「ええっ!」 ‘次’はもう無い。 ジャンル別一覧
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