異論・極論・直言――マスコミが言わない解説、提言

2010/06/15(火)11:54

不況だから、内定がもらえないのではない

 就職情報会社の調査では、6月1日現在、大学4年生の企業内定率 は59%であり、4割の大学生がまだ就職する会社が決まっていない という。  そして、その調査では、内定企業を持っている学生の3分の1は、 その内定企業に行かずに、もっと上の企業、より志望度の高い企業を めざすという。 (大学院進学、留年は価値が下がるだけ)  就職活動に苦戦している学生から出てくる言葉は「今年は不況なので、 大学院に行くか、留年する。景気が少し回復してきているのだから、 来年は状況がよくなっているだろう」という内容である。  だが、企業で採用を10年以上担当している者の目からすると、この 考えは100%と言ってよいほど間違いである。  まず、大学院への進学だが、文系の院生は東大、京大クラスの法科 大学院へ進み法律を徹底的に勉強したような人はともかく、通常の文系 の大学院進学者は、まず、どこの企業も新卒採用では採らない。  文系の院進学者は、遊んでいた人、就職する気がなかった人という ように企業の人事担当者は認識していて、ほとんどの会社が書類で落と してしまう。  理系の院進学は有利と就職本には書いてあるが、これも間違いである。 理系の院生の半分が就職できていないという事実を多くの人が知らない。 理系の院生はその多くが研究職などの理系の知識を生かした仕事での 就職活動になるが、企業の採用はそれほど多くない。  というよりも、大学院生が多すぎるのである。文部科学省がこれから の日本は技術立国だという掛け声で、大学院生を大幅に増やしてきた。 しかし、企業の採用はそんなに増えていない。需給バランスが崩れている ので、東大、京大の学生でも就職に苦労している。 (採用できない学生が多いのは不況だからではない) マスコミの報道も大問題である。「学生の2割も就職できない」= 「不況」という図式で報道し続けている。だから、少し景気が回復すれ ば、採用は増えると多くの学生や、その親が考えてしまうのである。  マスコミを含めて、多くの人が勘違いしているのだが、不況だから、 大学生の内定が決まらないのではない。企業が求めている人物像と、 学生の実態に大きな差があり、テストやエントリーシ―トでセレクト された学生に面接してみても、採用したいと思う学生はほんの数%しか いないのである。  従って、企業はこの数%の学生に群がり、1人の学生が超有名企業 何社もの内定を得る一方で、企業が求めない学生は何百社受けても、 1社の内定ももらえないということになるのである。  経済行動が地球規模になり、アイスランドの火山の噴火で、日本経済 に影響が出る時代には、マニュアル通り、公式通り行動するだけの人は 企業が採用したいとは考えない。  特に大卒で企業の将来の幹部候補生として採用したいと思う人に求め られるのは、「自分で考え、自分で行動する人」である。「他の人にない あなたの強みは何か」という質問に、具体的に実例でわかりやすく答え られないといけない。  加えて、「状況の変化に合わせて、対応や行動を変える臨機応変さ」が ないと、有名企業の内定は得ることは難しい。 (大学生の数が多すぎる)  日本のマスコミや調査機関の大きな間違えは、率で考えることである。 大学生の2割が就職できないから不況で大変だという考え方である。率 でなく、実数で考えると実態が見えてくる。  前に書いて大学院生の話だが、ベビーブーム時代に大学院生は4万人 くらいだったのが、今は大学院には18万人が在籍している。企業が いくら技術に力を入れていると言っても、優秀な学生の数は一定だから、 半分が就職できないということになるのである。  大学生も同様である。少子化で大学生の数が減ってきたというが、 今の大学進学率は50%である。今の大学生の親の世代は大学進学率が 10%か多くて20%だったのであり、子供の総数が半分に減っても、 大学生の数は30年前に比べて増えているのである。  今の大学生の親の世代は進学率が低かったので、大学に進んだ者の 多くが上場企業に就職できた。だから、今の大学生の親は、「大学進学」 =「上場企業進学」という図式が頭に中に出来上がってしまっている。  「大学生」=「エリート」という図式はとっくに崩壊しているのに、 親の世代がそれを理解できないのだ。だから、大学生の息子や娘が中堅 中小の企業に内定を得て、就職活動を終わらせようとすると、「大学まで 行って、どうして超有名企業に就職しないの」という反応になってしまう のである。  大学進学率が5割の時代に、8割の大学生が就職できるという日本は 若者に恵まれた社会だということである。  

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