異論・極論・直言――マスコミが言わない解説、提言

2010/08/23(月)10:50

弱者、貧しいから、熱中症で年寄りが死ぬのではない

 今、暑い夏で、熱中症で何百人ものお年寄りが亡くなっていると いうことが毎日のように報道されている。その中で、必ずと言って よい程、テレビのコメンテーターや司会者が、「貧しくてクーラーも 買えないお年寄りは大変で、今の不況がお年寄りにしわ寄せされた 結果」というコメントが出て来る。  マスコミの常識では、「お年寄り」=「弱者」「貧しい人」であり、 だから、何か起きると、「不況」=「弱者切り捨て」という話になっ ていく。でも、事実はまったく違う。 (事実を前提に議論、話をしない日本)  海外では、会社でも学校でも、ある一定以上のレベルにある人の 間で議論をする時、事実を背景に議論をし、間違った前提で間違った 結論を言った人は、議論で論破されたり、指摘されたりして、自説 を撤回しないといけないのが常識である。  ところが日本では、まず、議論をする時に、事実に基づいた主張 ではなく、思いこみや、自分がこうしたい、こうありたいという 前提で結論を出し、それに前提をこじつけて合わせていくということ が珍しくなく行われる。  亀井金融担当大臣は「郵政の民営化」=「郵便局の廃止の続出」 で、だから、民営化反対なのだが、実際は、民営化以前は郵便局は ずっと減り続けてきたのが、民営化後、数の減少は止まり、むしろ、 増加に転じていた。だから、国民新党の主張は根本の前提が間違っ ている。  こうした人や政党が政権の中枢にいて、その間違いを指摘されて も、自説を撤回しない。これだから、その他は押して知るべしで、 日本人は結論や前提の間違いを指摘されても、自分がこうしたいと か、こういう前提の方が自分に都合がよいという話なので、自説を 撤回しないで、同じことを言い続けている。  以前、テレビで「朝までテレビ」という番組があった。これは日本 の重大な問題について、論客や学者、政治家が議論をし、日本社会 でのコンセンサス作りができればという趣旨で始まり、そこに登場 した人の何人もが有名になり、政治家や有名評論家になった。  しかし、何年も放送され、議論された結果は、出席者は自説を言 い放っなしで、結局、議論は平行線で噛み合わず、最近は番組自体 が話題にものぼらなくなった。 (「年寄り」=「強者」を認識する)  「朝までテレビ」だけの話ではない。この事実に基づかない議論や 話というのが日本ではあまりに多い。その1つの典型が「お年寄り」 =「弱者」「貧しい人」というものである。まったく、事実に違う。  ずっと書いているが、日本の個人金融資産1400兆円の3分の 2は65歳以上のお年寄りが所有している。65歳以上のお年寄り で、若い時から真面目に仕事をして定年を迎えた人であれば、ほと んどの人がマイホームを所有している。貯金も少なくても、千万円 単位であり、年金も月に20数万円もらっている。  中には、マイホームを持たずに賃貸住宅に住み、貯金もほとんど なく、年金も月に7、8万円しかなくて、日々の生活に追われてい る人もいる。でも、これは数の上では少数派である。  お年寄りだから、体は若者程、強くはない。しかし、金もあり、 不動産もあり、余裕もあるお年寄りが圧倒的な多数派なのだ。最近、 お年寄りの登山ブームで、遭難者の3分の2が年寄りという話がある が、これは豊かで暇があるから、山登りをしているのであり、豊かさ の象徴の話なのである。 (大きく変わった家の環境)  熱中症の話でも、「貧しい」から「エアコンを買えない」のでは なく、「金はあるが、エアコンは買わない」のであり、買っても、 「体によくないから、使わない」のである。  今の年寄り世代は、子供の時には、家庭にエアコンはなかった。 60歳代半ばの筆者の例でも、エアコンを買ったのは、30歳近く になり、大阪に住んで、熱帯夜で、エアコンがないと、夜眠ること ができないので、買ったのが最初である。  社会人になって、家にエアコンが入りだした。エアコンは便利だ が、エアコンをつけっ放しで、冷房病になったり、なりかけたという 人がほとんどで、「エアコン」=「体に悪いもの」という認識が年配 者では一般的である。だから、エアコンを使わないのである。  ところが、大きな家の変化が起きている。今の年寄り世代が若い 頃の家は木造で、すきま風が通り抜ける家だった。だから、戸を 閉めても、風は抜けた。しかし、今の家はコンクリートのマンション でも戸建てでも密閉状態で、風が抜けない。  加えて、都会では、緑と土がどんどん減少し、コンクリートとアス ファルトが増え、皆がエアコンを使うので、各家庭や店からエアコン の熱風がどんどん出されている。ヒートアイランド現象だ。 (自分の生活スタイルを変えることに大きな抵抗)  年寄りはこうした時代の変化、環境の変化を、だから自分の生活 スタイルを変えないといけないというように、発想が結びつかない のだ。長年の習慣や常識というのは恐ろしく、それを変えることに 大きな抵抗がある。  だから、いくらテレビで、こうしたら熱中症は防げるということ を専門家に解説させても、実行しない。しかし、そこで、色々な人 が様々な思惑で動き意見を言うので、話が変な方向に向かっていく。  「年寄り」=「弱者」論者は、「だから、政府や地方自治体は何か しろ」ということを言うし、「不況が貧しい年寄りを直撃」という ように話を持っていく。行政は、これは「自己権益拡大のチャンス」 と考え、対策を色々考え、だから、予算を要求する・  本来はマスコミは、こうした様々な意見、思惑を見極め、それを 整理して報道しないといけないのだが、今のマスコミはそうした 見識もないし、見分けもできないので、事実と違う思惑をそのまま 報道する。  結果は思惑をもって発言したり、行動する役人が権益拡大で 得をする。厚生労働省が「大学生の就職難で、支援制度」という 話が先週、新聞で大きく書かれた。一見、好さそうに見えるが、 実際は権益拡大の典型例で、これで予算要求なのだ。  もっと、ひどいのが、失業保険を勝手に使って、その費用にあてる ということで、役人が何でもありの社会の構図がここにもある。熱中症 問題でも、これが役人の予算拡大、権益拡大に使われないことを 願うのみである。

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