H.K.追悼文

H.K.君の逝去を悼む
H.K.よ、お前とは大学入学以来からの付き合いだから、もう45年以上のつきあいになる。お前は経済学部、俺は工学部と学部は違ってはいたが、同じ航空部で空にあこがれてグライダーの練習をやる仲間として知り合った、お前はグライダーの操縦は下手くそで上級には進めなった、しかし航空部仲間の何が気に入ったのか、卒業までずっと航空部に所属して、他では得られない友人関係を続けてきた、とりわけ、お前とは下宿が近いせいもあって随分と行き来をしたもんだ。俺の部屋はいつも清潔にしていたが、お前の部屋は万年床で、布団の周りはいつもワタぼこりが積っていた。そんな中でお前がたまに読む小説の中でも特に太宰治が好きで、わざわざ人間失格の道化師のような素振りを演じていたのには笑わされたよ、何しろ授業をサボってマージャンとパチンコに明け暮れていたのを知っていたから。
卒業してからもたまに飲みに行こうと約束しても、“悪い悪い、マージャンすることになったんで行けへんわ”と断ってきよる、と思うと、自分の会社で新しい事業の模索として、背広屋を始めるので、背広を買ってくれとか携帯電話事業を始めたので携帯電話を買ってくれとか、俺の会社の電話をこの電話会社のものに変えろとか、あつかましいことを平然と頼んできよったなあ、それでもそんな屈託の無いところが憎めなくて、俺は何でも聞いてやったぞ、感謝しとるか。肺がんの治療で慈恵医大病院に入院しているときも、土日は先生も看護婦も相手にしてくれないので寂しいのか、何処かにドライブに連れて行けとか、退院してからも修善寺の俺の山に遊びに来たりとか、結構元気になっていたのに、癌の転移が見つかっても何とか負けずに戦っていたのに、---------
三ヶ月ほど前かなあ、おれに電話をしてきた時、“おれの葬式のときに、友人代表で挨拶してくれよ”といってきた。“わかったわかった、あること無いことをいっぱい言っといてやるから心配するな”と言っておいた、それがこんなに早く来るとは思わなかった、少し早や過ぎるよ、みんなそう思っているよ。
でもなあ、俺は命の永遠を信じている、何しろ一人の人間は60兆もの細胞から成り立っているらしい、これは全世界人口の60億のまだその一万倍にもなる膨大な数だ、そして、一人の人間のその一つ一つの細胞の中に、全く同じ記号で書かれた、30億の記号の羅列があるらしい、それによって顔かたちや性格や能力、そして人間の人間となるまでの何万年の歴史をも含めて記録されているらしい、そしてそんな細胞たちが一致協力して一人の人間を生かしているという、そんなすごいものが、過去から未来にわたって突然途切れて、無くなってしまうとはどうしても思えない、ある条件が満たされたら、同じ記号の羅列をしたDNAを持つ細胞が生まれ、また
新しい生命として生まれてくるに決まっている、いつそんな機会にめぐり
合うか分からないが、そんなに遠いものとは思わない。
またどこかで左肩を少し上げて、人生の虚無を装って、格好をつけた若者が居たらお前だと思って、また付き合ってあげるよ、お前には分からんだろうが俺にはすぐわかるぞ。
家族、親類、友人、みんな早い別れを悲しんでいるが、新しいH.K.の出発と思って送り出そう、そのまんまのH.K.に又会えるに違いないよ。
H.K.君のご冥福を深くお祈りいたします。


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