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せんだって日記

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2007.03.25
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カテゴリ:親不知
 せんだって、親知らず抜歯の担当医師から渡された「下顎智歯抜歯同意書」は、手術で何があっても病院や医師を訴えませんという白紙委任状だった。
 その日、帰ってから、担当医の名前をインターネット検索したが、大学病院の医師だけあって、研究に関する項目が多く検索できた。医療過誤で致命的なミスをしたというような、私が探している経歴は見つからなかった。
 下顎智歯抜歯同意書には気になる項目があった。
 「当病院は教育病院ですので、その旨をご理解ください。」とある。
 その旨ご理解という曖昧とした言葉は、どういうことか。その辺よろしく察してよという風情の、こちらに下駄を預けるわりにおっかない条項。
 この紙に判を押す覚悟が求められる。なにしろ以前、耳たぶに悪いできものができたときに、迂闊に同意した手術でインターンのお嬢さんに縫合されたことがある。麻酔がかかっていて痛みは無いが、傷口を縫い合わせた糸を引っ張るたびに私の頭も手術台から持ち上がってしまった。不器用なインターンのお嬢さんの練習台になったのだ。いや、そういう機会が必要なのは理解している。私以外の患者に当たればいいのにと思うのだ。
 ところで私の親は、子供の歯並びに関していろいろな対策をしたものだった。子供のころの私は、歯列矯正をする医者に連れて行かれては何度もブリッジを架け替えたものだ。
 しかし現在その甲斐は無く、私の八重歯はチャームポイントのひとつとなっている。
 つまり私は、歯医者に関して深い不信感を持っているのだ。
 あれこれ不安を抱えていると、妻がパートから帰ってきた。
 妻に、局部麻酔が怖いことなどの愚痴を述べる。
 私は手術で聞こえるであろう骨を削る音が怖いから、局麻なんかではなく全身麻酔で寝かせてくれればいいと言った。全麻で死ぬこともあるが、それはそれで仕方がないと、背に腹は変えられないと、むしろ死ねないケースで一生寝っぱなしよりはマシではないかと、訴えてみた。
 妻は医者の娘である。門前の小僧ではないが、麻酔の怖さを知っている。
 私の弱音を聞いた妻は、顔を真っ青にして黙りこんだ。
 タイミングのいいブラックジョークは控えようと思った。
 この晩に読んだ小説に、口腔外科医が出ていた。
 患者の口に両腕を肘までつっこんで、血まみれの札束を掴み出していた。





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最終更新日  2014.09.03 15:50:15
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