「Ｃａｓｔ ｏｆｆ　～小さな君のその手を抱きしめるために～」

もう何年前になるかな？

何年も前の今頃の話・・・

「笑顔の素敵な人が好き」

そう言う彼女とはバイト先の取引先で知り合った

千蔵は当時大学３年生

彼女は高校３年生

海水浴客で賑わうビーチ前のお土産屋でのバイト

遠方への発送作業もあり

手の空いた時間に宅配便を取り扱うお店に顔を出していた

そこの受付のバイトをしていたのが

智美と友美

通い出した頃はさして印象に残らない２人でしたが

いつしか３人で冗談を言う間柄に

宅配を請け負う仕事も２人のお陰で楽しく

２人との会話を楽しみにするようになる

夏も残り僅か・・・

バイトも数日で終わる

そんなある日・・・

思い切ってこんな事を切り出してみた

『バイトが終わったら３人でディズニーランドにでも遊びに行かない？』

智美は

「行きた～い」

ちょっと鼻に掛かった声で笑顔を見せた

友美は

「行きたいけど・・・２人で行って来たら？」

優しい笑顔でそう言った

後で聞いた話なのですが・・・

友美にはこの時に想いを寄せる人がいたらしく

例え３人でもその男性以外と出掛ける事に抵抗があったそうです

出来る事なら３人でと何度か頼んではみたけど

友美は２人で行くようにと頑なだった

友美の勧めもあり

期せずして智美と２人でディズニーランドに出掛ける事となった

この時が千蔵のディズニーランド初体験

開門前から並び閉門まで遊び倒した

エレクトリカルパレード

幻想的な光と音のファンタジーに

奥手な千蔵も智美の肩を抱いていた

ディズニーランドも悪くないな・・・

そう思った瞬間だった

帰りの車中で

『バイトも終わっちゃったし、もう会えないかな？』

「そんな事はないよ」

そう言ってにっこり微笑む智美

『聞いてもいい？』

「何を」

『好みのタイプってどんな男性？』

「丸顔で笑顔の素敵な人が好き」

丸顔ではない

それに笑顔に全く自信のない千蔵

もちろん笑顔でなくても全く自信なんてありません

彼がいない事は聞いていましたが・・・

この時点で彼にはならないだろうなって

漠然と思っていた

夜遅くに彼女を家まで送り届け

『また会ってもらえる？』

「うん」

元気良くそう言った彼女の笑顔が可愛らしく見えた