NHK「日本の、これから」の次回3月8日(土)テーマは「学力」です。
NHKは、多くの人たちを対象に「アンケート調査」を行っていますが、私のような教職員からの意見も大切と考えて、アンケートに答えることとしました。項目は多いので、一つひとつ質問項目と「私の回答」を紹介します。
〔アンケートの趣旨と項目1〕
昨今、日本の子供たちの学力低下が問題視されています。
OECD(経済協力開発機構)が行った国際学力調査(各国の15歳対象。以下PISA)は、 子供の「知識量」をはかるのではなく、「実生活で役立つ能力」をどれだけそなえているかを 調べる目的で行われ、読解力・数学的応用力・科学的応用力の3項目が調査されます。 00年、03年、06年と3回調査は行われ、読解力(8→14→15位)、数学的応用力(1→6→10位)、 科学的応用力(2→2→6位)と全て順位が下がっています。
あなたは、子どもたちの学力が低下していると感じていますか?
〔私の回答〕 感じない
なぜそう思うのか、ご自身の体験などをふまえ、詳しくお聞かせください。
〔私の回答〕
そもそも自分自身の体験をもとに、日本の生徒の「学力低下」について判断することには無理がある。従って「学力テスト」の結果を妥当な形で判断していくしかないが、「学力が低下している」という主張には根本的に疑問がある。
PISAの結果についての上記のまとめも、「学力は低下している」という結論を前提としたような形になっているが、ベネッセが紹介しているPISAの結果分析を見ただけでも、妥当でないことが分かる。
〔2010年 11月 右のリンクを追加 「日本の子どもたちの学力は低下していない」〕
(なお、PISAの学力テストで世界一のフィンランドの教育についてはこちら)
『にっぽん 本当に格差社会?』のなかで池上彰は次のように述べている。「日本の児童・生徒の学力は、騒がれているほど低下していない。むしろ世界的に見ても依然として高い水準にある。国際調査のデータを正しく読み取ることのできなかった大人の問題であり、こちらのほうがよほど「学力低下」の心配がある」と。
池上は具体的なデータをていねいに検証しており、その主張には説得力を感じた。引用を続けよう。
「順位が下がったから『学力低下』だ、と騒ぐ発想は、実はそういう人こそ「学力低下」が疑われます。参加している国が同じで、順位に統計学的な差(有意差)があって初めて、成績(学力とは断定できない)が上がった、下がったと議論できるからです。(…)検証しましょう。(…)
IEAの調査では、日本の中学2年生の数学が、1982年には1位だったのに、1995年には3位に後退しています。ところが、1981年の調査に参加した国・地域の数は20だったのに対して、1995年には41に倍増しています。しかも、1995年に日本が3位に後退したとき、1位はシンガポール、2位は韓国で、どちらもこの時初参加だったのです。
1999年に日本は5位に下がっていますが、このとき、1位と2位は変わらず、3位は台湾、4位は香港でした。台湾は、このときが初参加でした。
つまり、日本は強豪が参加しない試合で好成績を収め、「日本はトップレベルだ」と喜んでいたに過ぎなかったのですね。(…)強豪が加わるたびに、順位が下がる。その順位の数字だけを見て、「学力低下!」と叫んでも仕方がないのですね。
さらに、こうした調査には、統計学的な誤差はつきものです。数字に僅かでも差があれば順位はつきますが、統計的に意味のある差かどうかは別問題です。(…)
OECDによる調査(PISA)も、同様です。2003年の「数学の応用力」は6位ですが、日本より上位の5カ国と日本とのあいだに(統計上の)有意差はありません。日本は「1位グループ」に入っているのです。
2003年の「読解力」の成績は14位になっていますが、これも日本より上位国の中に有意差のない国があって、日本の実際の位置は「9位グループ」ということになります。これだと、こちらも「前より下がった」と大騒ぎするレベルではない、ということになります。
〔ちなみに2003年の科学に関する応用力(科学的リテラシー)は1位グループ、問題解決能力も1位グループであった〕
私の知るかぎり、「学力低下」論者のなかで池上氏の問題提起にたいしてまともに応答している人はいない。「わかったつもり」の人が多いように思われる。
そして、「学力低下」と騒ぎ立てることが、教育にとって果たしてプラスになるのかどうか。。池上彰も「ゆとり教育の集大成がまとまった途端、再び『学力低下』批判が起こり、教育方針は再度、転換を始めました。こうした右往左往ぶりのほうが、よっぽど心配なのです」と述べている。
2011年1月追記: PISA2009に関わるニュースについてshira さんもブログ記事で述べていらっしゃいますが、2010年になっても日本の報道機関のデータ読解力は全く向上していないようです。
教育行政の右往左往を生み出した「マスコミの読解力不足」に関して報道機関にまったく自覚がないのは、日本の教育にとって大きな問題だと思いますね。
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(教育問題の特集も含めてHP“しょう”のページにまとめていますのでよろしければ…)
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