NHK「日本の、これから」の次回3月8日(土)テーマは「学力」だそうです。
NHKは、多くの人たちを対象に「アンケート調査」を行うようですが、私のような教職員からの意見も大切と考えて、アンケートに答えることとしました。項目は多いので、一つひとつ質問項目と「私の回答」を紹介します。(このたびが第5回)
〔アンケートの項目〕
教育についてお聞きします
いわゆる“公立離れ”が進み、私立の学校を受験する子どもが増えています。 そのために塾に通う子どもも多くなっています。 こうした現状をどう思いますか?
〔私の回答〕
問題だ
なぜそう思うのか、ご自身の体験などをふまえ、詳しくお聞かせください。
この傾向は、「有名大学への合格」という一面的なものさしだけで親たちが学校を判断している結果だと思われるからだ。そのような一面的なものさし・見方が幅を利かせているから「中高一貫」の私立に対抗するため「世界史の履修をごまかす」といった問題が出てくるのではないか。
有名大学に進学できる「ごく一部の生徒」の要求を中心に「公立」の教育を評価するのではなく、社会全体に対して果たしている役割に注目して公教育を総合的に評価する必要がある。
OECD諸国と比べてはるかに「悪条件」であるにもかかわらず、日本の子どもたちが「高学力」をいまだに維持していることがむしろ驚くべきことだ、という点については先に述べたが、公教育の「成果」はそれだけではない。
注目すべきは日本の「犯罪発生率」が「教育条件」において恵まれていると思われる欧米諸国と比較してもはるかに低いことである。
〔(2003年 殺人事件の認知件数は人口10万人当たりにして日本1.2、アメリカ5.7、イギリス3.3、ドイツ3.1、フランス3.6)(窃盗事件の認知件数 10万人当たり日本1752件、アメリカ3588、イギリス5815、ドイツ3670)いずれも日本の低さは群を抜いている〕
これについては大阪大学大学院の小野田正利教授も述べているが、「数値に表れない形での日本の学校教育の成果が相当に大きいのではないか」と考えられる。
「膨大な生活指導の領域を抱え(・・・)『一人ひとりの子どもたちのために』活動するわが国の教師たち。運動会や文化祭といった特別活動の領域の幅広さによって、勉強ができる子どもだけが評価されるのではなく、実に多様な活動の場がそれなりに設定されている学校・・・」。
(小野田正利著『悲鳴をあげる学校』より)
なるほど、確かに高校を退学していく生徒も少なくはないが、高校進学率98%に対して、年間の退学率は2%、青年期の男女(全人口)の90%以上は高校を卒業していく。欧米と比較しても群を抜いて大きいこの数字の背景には、上記のような学校の「特質」(例えば、特別活動を通した「学びあい」や「自己実現」を大切にし「集団の中での個人の活躍や成長」を柔軟に評価しつつ、個人と同時に「クラスが成長する」という視点を持った「生活指導」)があるだろう。「そのことはもっと評価されてもいい」とベネッセの関係者も述べていた。
水谷修も指摘しているが、現在は日本全体に「余裕のないイライラした状況」が広がっており、子どもたちはその犠牲者である。家庭の教育力は明らかに低下しつつあるが、「貧困層」が15%をこえている現実(『ワーキングプア3』)もその背景にあるだろう。
地域共同体の「教育力」もほとんど崩壊しているような現状、さらには「欧米では製造されていないインターネットつきの携帯電話が普及してさまざまな“犯罪”の温床になっているような状況下」で、上記のような犯罪発生率の低さは「奇跡的」でさえあるのではないか。
そのような「事実」に目を向けず、一面的なものさしで「公立」の教育があたかもダメであるかのような評価をすることに根本的な問題はないだろうか。
(小野田教授の講演会の内容はこちら)
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(教育問題の特集も含めてHP“しょう”のページにまとめていますのでよろしければ…)


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