“しょう”のブログ

2023/02/19(日)19:21

広瀬隆『二酸化炭素温暖化説の崩壊』批判

地球環境、エコロジー(43)

 広瀬隆の上記著書が注目をあび、よく読まれているようです。  しかしながら、根本的に『二酸化炭素温暖化説の崩壊』に関わる主張の多くは「科学的な妥当性に問題のある従来の懐疑論の受け売り」に「広瀬流の陰謀説」を加えたもの、というのが私の判断です。    確かに、福島原発事故の責任を厳しく追及すべきだとする点、そして「反原発」という根本において、私と広瀬氏の立場は共通しますが、「自らの主張に有利と見れば全く不確かな情報も間違いないかのように主張する姿勢」には根本的な疑問を禁じえません。   「反原発」、「温室効果ガス削減」いずれも重要だ、と考えます。  それでは、「二酸化炭素温暖化説が崩壊している」という主張のポイントだけを抜き出して、その問題点を列挙しておきましょう。(常体で)  広瀬隆『二酸化炭素温暖化説の崩壊』に関わって 1、「ここ10年来、地球気温は全く上昇しておらず、むしろ寒冷化している」(P. 8,16)について  広瀬氏は「気候変動と気象変動」の区別ができていないようである。 温室効果ガスによる気候変動を問題にする場合、少なくとも50年以上の傾向を見る必要がある。短期的には様々な要因で気温は上下に変動する。例えば2008年は今世紀に入って最低の気温を記録したなどと騒がれたが、観測史上で言えば10番目の高温だった。(2008年現在で10番、その後の気温はさらに上昇。)  長期的な温暖化傾向については、気象学者が100%合意している観測事実である。  (世界の年平均気温偏差のグラフ 気象庁のHPより) 2、「中世には、20世紀よりはるかに気温の高い時期があった」(31)について  IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第4次報告書では「中世の高温期」について以下のように結論づけられている。 (1)20世紀より前に最も暖かい期間は、950年と1100年の間に起こった可能性が非常に高い。ただしこの気温は1961~1990年の平均に対しておそらく0.1~0.2℃寒冷であり、また1980年以降に実測された気温よりも顕著に低い。 (2)中世の温暖期が全地球的なものであったかどうかについては、データは十分というにはほど遠い。 (3)現在の証拠からは、中世の間(950-1100年)の北半球平均気温はこの2000年の間では温暖であったことが示唆される。 (4)しかし地球全体が20世紀全体のように温暖であったと言うには、中世のいずれの時期についても、証拠が不十分である。 補足:また「人為起源温暖化説」は「近年の気温上昇が過去のいつの時代よりも異常に大きい」ことを主張しているのではなく、「近年の気温上昇が人為起源温室効果ガスの影響を勘定に入れないと量的に説明できない」ことを主張しているものである。  過去に高温期があったという主張は(それが事実であったとしても)、IPCC報告に対する反論の意味を持たない。 Q なぜIPCCの報告を信頼できると判断するのか?  IPCC報告書では、基本的に査読を経た多数の学術論文に基づいて、それらをさらに検討・引用する形で、現時点での科学的知見の総合的な評価が行われているため。  研究者が研究結果を論文として学術雑誌に発表する際には、通常2~3人の別の専門家(査読者)が匿名で論文の審査をする。(=論文の査読) 論文の書き方に不備はないか、論理展開や計算などが間違っていないか、過去の関連研究をきちんと踏まえているか、新しい重要な知見が書かれているか、などの観点から、査読者が論文を評価する。 IPCC報告書は政策決定の参考になる情報を総合的にまとめたもの(政策提言は行わないが・・・)。  「温暖化懐疑論」のほとんどは根拠となる論文や出典が不明確で、米国(懐疑論者)のHPや同種の著書などからの受け売りだと思われるが、少なくとも欧米における「懐疑論者」の大部分は特定の団体(石油業界など)と結びついているといわれる。(例)ブッシュ政権を支えた懐疑論者   私もこれまで「懐疑論者」の著書を複数読んできたが、私(高校社会・理科免許状取得)の知識であってもわかるような間違いが多く、「査読」にたえられるようなものはなさそうである。 3、「二酸化炭素増加が地球温暖化をもたらしているという事実はない」、「1960~70年代には二酸化炭素が増加したにもかかわらず寒冷期に入っている」(66~,74)について  例えば二酸化炭素などの温室効果ガスが、赤外線を吸収するという物理特性を持っていることは、科学的に確認されている。 そのような温室効果ガスが増加する結果、地球が宇宙空間に放出するエネルギーが低下し、太陽から受け取るエネルギーが放出を上回ることで、地表面の温度が上昇していくのである。 そして、20世紀後半以降の気温上昇傾向を説明するためには「温室効果ガスの増加を組み入れた気候モデル」が有効で、温室効果ガスの増加を考慮せずにそれを説明することが不可能だということについても、ほぼ100%の科学的合意が成立している。 太陽光線はほとんどが可視光線と紫外線という形で地球に届き、地球の表面からは赤外線という形で放出される。温室効果ガスによる赤外線の吸収がなければ(赤外線がそのまま宇宙空間に放出されれば)地表面の温度は計算上 零下19度になる。  1960~70年の気温低下は、火山活動や人間活動により大気中に多くの微粒子(硫黄酸化物やすす)が放出されて太陽光線を遮ったためであり(確認された微粒子の増加で)きちんと説明がつく。 4、「(水面に浮かぶ)氷が融けて水になっても海面は上昇しない」について これは当たり前のことで、地球温暖化を問題にする科学者は一人たりともそれを否定しない。しかし、気温上昇による山岳氷河やグリーンランドの氷床の融解、大陸上に存在する氷床の崩壊・流出が海面上昇をもたらすことについても否定する学者はいない。ここ100年間では17センチメートルの海面上昇が生じていることが確認されている。海洋面積の広大さを考えれば、すでに大きな変化が生じているのである。5、「氷河の後退が始まったのは、二酸化炭素大量排出以前の18~19世紀からだ」(92)について 氷河の後退の原因は温室効果ガスによる温暖化だけではない。16世紀~18世紀前半まで、太陽活動の低下が原因と思われる小氷期に入っており、その後この小氷期からの回復によって20世紀前半までの氷河の後退が起こったと考えられる。 気候モデルによる温暖化というのは、気温上昇の原因が「温室効果ガスだけであること」を主張しているわけでは決してない。20世紀後半以降に観測された気温上昇が、「温室効果ガスの増加による温暖化」という仮説抜きにはほぼ説明不可能であることを主張しているに過ぎない。 20世紀後半における太陽放射量は大きく変化しておらず、成層圏(高さ10~50kmの大気層)では温度が低下しているにもかかわらず、地表に近い対流圏では温度が上昇していることも、上記の仮説抜きには説明できない。6、「温室効果の大部分は水蒸気によるもので、二酸化炭素増加によるものではない」、「(都市化による)ヒートアイランド現象の影響も大きい」(120~)について 水蒸気も赤外線を吸収する(温室効果を持っている)のは事実であるが、その量は自然のバランス=大気と海洋および陸水との間の交換(主に気温・風という二つの条件で決まる蒸発と降水)によって定まるため、人間が直接に増加させたり減少させたりすることはできない。(人間活動でも水蒸気は排出されているが、それが大気中濃度に与える影響はほとんどない。)  ただし、「二酸化炭素等の増加⇒気温の上昇」が水蒸気量の増加につながり、温暖化を加速させる影響はあるといわれている。 ヒートアイランド現象はきちんと補正した上で気温の測定がなされている。また、温暖化の進行が激しいのは北半球の高緯度だが、それらの地域では都市化が進んでいない。  ところで「古気候も含めて今以上の温暖化はしばしば起こっているので現在の温暖化も人間による温室効果ガスの排出が原因ではない」という主張がある。しかし、各時代における「温暖化」の原因はその都度異なる。例えば、地球の公転軌道の変化が原因であったり、太陽活動の活発化が原因であったり。  問題は、現在の温暖化はそのような原因がないにもかかわらず進行していることである。(太陽活動の活発化がないため成層圏では気温が低下しているにもかかわらず地表から10km以内の対流圏では気温上昇が進行している。) それは、人間活動による温室効果ガスの増加を考えなければ説明できないのである。  参考文献『地球温暖化 ほぼすべての質問に答えます!』(岩波ブックレット)『地球温暖化の予測は「正しい」か?』(DOJIN選書)  日本ブログ村と人気ブログランキングに参加しています             教育問題に関する特集も含めて​HPしょうのページ​に (yahoo geocitiesの終了に伴ってHPのアドレスを変更しています。)

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