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カテゴリ:教育論・教育問題
教育基本条例案で大きく揺れる大阪の仲間から、「アメリカの競争教育から大阪をみる」という講演会の報告をいただきました。米国の現実に基づいた話で、非常に説得力のある内容だと感じています。以下に転載しますのでぜひご一読ください。
堤未果さんの講演「アメリカの競争教育から大阪をみる」は聞き応え十分、ある意味戦慄を覚えるものでした。内容を紹介します。 昨今報道されたウォール街のデモは、1%のリッチ層が他の99%の生き方を決めてしまうことへの抗議であったというところから話は始まります。デモの先頭には「Education Not for Sale」「We need teacher」のプラカードが。 アメリカで2人に1人の先生が5年以内に辞める事態だといいます。その理由は「落ちこぼれゼロ法」。そのきっかけは2001.9.11テロ。アメリカが思考停止に陥った画期だといいます。テロ後、ブッシュ政権は対テロ戦争を名目に社会保障や教育予算を削減、そして愛国者法で監視社会の強化がはかられ、対テロを理由に異論が言えなくなっていって人々は委縮していったといいます。 教育でも、「学力が低すぎる」ということが問題となり、国が学力を管理する流れが「落ちこぼれゼロ法」になります。この法案がでたのが2002年の春。いきなり出てきた法案です。 その柱は政治介入と厳罰化、点数至上主義、そして民間の力の活用です。まさに、「教育基本条例案」そのものです。堤さんいわく「条例案は弁護士さんがつくったそうですが、彼はアメリカにもいたようで参考にしたのでは」とのことでした。そして数字ではかれないものまで、あらゆるものが市場化されていきました。 現場の先生たちは公務員で工夫がないと攻撃され、ノルマが課せられるようになります。先生の勤務時間は長くなり、ノルマを達成するため成績改竄などのインチキが横行していったそうです。ここは小野田先生も集会でお話されていましたし、堤さんの本『社会の真実のみつけかた』にも詳しく述べられています。お話にでてくる競争においたてられていく子どもと先生たち親たちのすがたが痛ましく思えました。 教育の市場化で戦慄を覚えたのはここからのお話です。アメリカでは、教育予算の削減で給食のおばちゃんを解雇し、かわって大手ファストフードが学校給食に参入していき、そして給食が民営化されたそうです。 出される給食は高カロリーで味が濃いファストフード・ジャンクフード。その影響で子どもたちはみるみる肥満に陥ります。今やアメリカでは3人に1人の子どもが肥満だとか。ミシェル大統領夫人が肥満撲滅キャンペーンをはじめたそうですが、それは「もっと運動しましょう。」というレベルのもの。こうした肥満傾向は大人にも拡大し、結果的に医療費を押し上げることにつながっていきます。 そして虫歯と貧困の関係にも驚きました。こうした食事をしているとどうしても虫歯になります。虫歯になってもアメリカは国民皆保険ではないので医者にかかれない。保険のない人がたくさんいるのです。虫歯になると、顔だち・容姿に影響して就職にも苦労するようになって仕事をえられない若者がたくさんでるそうです。 貧困に陥った若者をリクルートするのが軍です。アメリカの学校は「落ちこぼれゼロ法」によって軍に個人情報を提供することが義務付けられています。若者のケータイに軍のリクルーターが電話をかけ、「大学に行ける。資格がとれる。仕事が得られる。」という殺し文句で次々と兵隊にして、アフガニスタンなどにおくりこみます。 堤さんは、「教育の市場化をベースにした経済徴兵制」と表現していました。アメリカでは戦争も市場化され、高収入の派遣社員の仕事はアフガンやイラクの私兵です。そうした私兵は正式な戦死者には数えられないといいます。運よく生きて帰って除隊して、大学に行っても近年アメリカの学費の高騰は著しいとのことでした。 教育予算が削られたからで、まだ教育がよかった時代を経験した親から「なんとか大学には行きなさい」と言われて学資ローンを組む。しかし、学資ローンの負担に耐えられない人が続出し、今や6人に一人はそういう状態だといいます。破産という手も学資ローンに限っては消費者保護法からはずしてしまって使えなくしているそうです。死ぬまでローン負担がついてまわる。そんな事態です。 給食にしても保険にしてもアメリカの企業は儲かると思えるものにどんどん入っていって、利益をあげると必ず政治家に献金をするようになるといいます。政治家と大手企業の癒着の構造ができあがります。 堤さんが、アメリカのビジネスマンにインタビューすると、日本はどうしても進出したい市場だそうです。給食も保険も参入したい。しかし、規制があるし、憲法9条もある。しかし、虎視眈々と参入をねらっている。TPP問題もその延長上にあります。しかもそこには支持率低迷の中で再選をめざすオバマ大統領の政治的思惑があるといいます。 堤さんは、政治が市場化を入れる時の手口があると紹介してくれました。それは 1)敵をつくる 2)ワンフレーズをばらまく 3)内容はぼかす 4)議論させない 5)マスコミは一部しかみせない の5点です。なるほどと思わせます。そして市場化に対抗するための手法も紹介してくれました。すなわち、1)大きな流れをみる 2)世界/過去の事例をみる 3)異なる層の関心をつかむ 4)相手を叩くより本質をアピールすること 5)良き代案を出すこと 6)わかりやすく/面白く/ワンフレーズで これまたなるほどと思いました。 「教育の問題だけじゃなくて、医療も、働き方も、エネルギーももう一度全部一緒に考えて、どんな社会だったら子どもたちに手渡したいのか、どんなふうに社会に住んでいけるのか、国を信頼して家族やコミュニティとつながっていけるのか、どんなふうに教育でまなぶことの楽しさをつかんでいけるのか、その全体像をイメージすることが大事だと思います。」 「自分は和光学園で、先生とのむすびつきが強かった。いろいろ悩みも聞いてもらった。社会に出て壁にぶつかったきに・・授業じゃないですよ、そんなものは忘れちゃったんですけど(笑い)先生が一緒に何かを体験してくれたりとか、喜んでくれたり、泣いてくれたりとか、思い出とか体験とかうれしかったこと、そういうことが自分の背中をおしてくれて力になった。 教育はテストの点数、数字だけではかるものではなくて、その子の人生の中で繰り返し花開いて背中をおしてくれるものだと思います。これからの子どもたちにもそういう教育の宝物を残していきたいし、これからもがんばりたい。」と語られました。 最後に堤さんは、ハリケーンカトリーナで未曾有の災害を受けたニューオーリンズの先生が、日本の先生に伝えてほしいと言っていた詩を紹介しました。ニューオーリンズは大水害をきっかけに復興特区ができて市場化が一気にすすんだといいます。 学校も、公設民営のチャータースクールになり、民間手法で経営がすすんでいます。そしてつぶれる学校もふえているとのことです。大震災を経験したわたしたち日本はアメリカを反面教師にしないといけないでしょう。さて、その詩とは・・・。(アメリカでは有名な詩だそうです。) ナチスが共産主義者を弾圧したとき、私は不安になったが、自分は共産主義者ではなかったので何の行動も起こさなかった。 次にナチスは社会主義者を弾圧した。私はさらに不安になったが、自分は社会主義者ではないので何の抗議もしなかった。 それからナチスは学生、新聞、ユダヤ人と順次弾圧の輪を広げていき、そのたびに私の不安は増大した。しかし、それでも、私は何もしなかった。 ある日、ついにナチスは教会を弾圧してきた。私は牧師であったので行動するために立ち上がった。 しかし、その時は、すべてが遅すぎた。 「私は、大阪も日本もまだ間に合うと思っています。ともにがんばりましょう。」と結ばれました。アメリカを反面教師としながら、あるべき社会のすがたを多くの人とかたっていくこと。堤さんの市場化に対抗する手法に学びつつ具体化していきたいと思いました。元気のでるお話が聞けてよかったです。 教育問題に関する特集も含めてHPしょうのページに (yahoo geocitiesの終了に伴ってHPのアドレスを変更しています。) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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いつもありがとうございます。
堤さんの講演を以前、聴いたことがあります。 素晴らしい視点をお持ちだと思っています。 大阪の件。 今のこの国を象徴しているのかもしれません。 何でもいいから、変えたいという思いだけがあって、危うい方向に向いているのかと。 (2011.12.11 17:37:24)
静岡で教員をしています(一児の父親でもあります)。堤未果さんは「貧困大国アメリカ」というベストセラーで有名になったジャーナリストですよね。大変聡明な女性だと尊敬しています。新聞などにもよく登場しておられ、いつもその鋭い視点に感銘を受けています。日本のマスコミはアメリカの暗部を伝えませんが、堤さんの警告は本当に今の日本がアメリカの後追いをしていることがリアルに理解できる非常に貴重な提言だと思います。大阪の「教育基本条例」は静岡の私のいる地区の教員の間でも危機感が広がっています。手遅れにならぬうちに私たち大人が立ち上がりこの流れを止めなければいけませんね。貴重な情報をありがとうございました。
(2011.12.11 19:22:57)
大変示唆に富む講演の内容だと思います。特に、反撃の方法が今まで気がつかなかったモノでした。
要旨のまとめありがとうございました。 (2011.12.11 19:54:59)
けんとまん1007さん
>いつもありがとうございます。 >堤さんの講演を以前、聴いたことがあります。 >素晴らしい視点をお持ちだと思っています。 こちらこそありがとうございます。 堤さんの講演、聞かれたことがあるのですね。 ぜひ、素晴らしい視点を共有していきたいものです。 >大阪の件。 >今のこの国を象徴しているのかもしれません。 >何でもいいから、変えたいという思いだけがあって、危うい方向に向いているのかと。 堤さんの話は、単純な独裁批判ではなく何がどのように危ういのか、どう考えるのがいいのか、実に説得力のある問題提起ですね。 (2011.12.11 21:30:22)
まさはるさん
はじめまして☆ コメントありがとうございます。 >静岡で教員をしています(一児の父親でもあります)。堤未果さんは「貧困大国アメリカ」というベストセラーで有名になったジャーナリストですよね。大変聡明な女性だと尊敬しています。 >新聞などにもよく登場しておられ、いつもその鋭い視点に感銘を受けています。日本のマスコミはアメリカの暗部を伝えませんが、堤さんの警告は本当に今の日本がアメリカの後追いをしていることがリアルに理解できる非常に貴重な提言だと思います。 サッチャー政権以降のイギリスの実態は結構調べたことがあるのですが、アメリカがこのような状況であることは、わたしも初めて知りました。堤さんの提起は、取材に基づいた実に迫力のあるものだと感じています。 >大阪の「教育基本条例」は静岡の私のいる地区の教員の間でも危機感が広がっています。手遅れにならぬうちに私たち大人が立ち上がりこの流れを止めなければいけませんね。貴重な情報をありがとうございました。 最後に紹介されたアメリカの詩は、私も以前から知ってはいたのですが、大阪基本条例案をどう受け止めるべきか、と言う点で実に示唆に富んでいますね。大人が一歩を踏み出すべきでしょう。 (2011.12.11 21:38:10)
KUMA0504さん
>大変示唆に富む講演の内容だと思います。特に、反撃の方法が今まで気がつかなかったモノでした。 >要旨のまとめありがとうございました。 反撃のあり方については湯浅誠なども具体的に実践していると思いますが、上記のようにすっきりまとめていたいただくと「なるほど!」と腑に落ちますね。 それを実践すべく、微力を尽くしていきたいと思います。 (2011.12.11 21:43:04)
なかなか読み応えのある堤レポートですね。
アメリカもそうですが日本も奈落の底に転がり落ちるように何か大切なものを置き去りにして変化しているようです。 電気屋のテレビを立ち見して野田総理の会見をチラッとみました。ユーストリームのチャンネルで細野大臣と東電の記者会見をみました。国民一般は、どの様に感じているのでしょうかね。冷温停止・安全宣言・放射能事故は収束しましたと細野大臣が国民に押し付けるような物言いで今でも怒りが治まりません。あちらのブログで人格批判してやりました。 しかし、はっきりした事があります。今回の福島第一原発の事故は、国民と放射能をまき散らかされた自治体が被害者で東電と国が加害者なのだと言う事です。 今までは、通じようの事故でいう加害者側からの示談交渉に被害者の国民や地方自治体がどの程度の条件を提示して保障するかの交渉に応じていたにすぎません。 東電や国が加害者の立場から冷温停止・安全宣言・事故の終息宣言をコメントしたのですから、その条件に異議を申したてる法廷闘争に発展するかが焦点なのだと国民の側から声が上がる事を期待して見守る事にしました。 自分のブログにも書いたのですが、小出先生が言うように今回の原発事故の責任は大人にあります。子供達には何の責任もありません。希望の持てる社会を継承していけるかどうかも私たち大人の責任なのです。だけど、教育で子供達に荒廃した社会の責任を担わせるような条例案や放射能で汚して安心して食べ物を口に入れる事が出来ない現実を背負わせる事になりました。細野や枝野は、自分達のミスで子供達にヨウ素剤を供給する義務を怠らせる会見を開きそれを正当化しています。国民が許しても私は彼らを絶対に許しません。卑怯で軽蔑すべき大人達でする。国民は、異議を申し立てますかね? (2011.12.17 02:01:25)
無縁仏さん
>なかなか読み応えのある堤レポートですね。 >アメリカもそうですが日本も奈落の底に転がり落ちるように何か大切なものを置き去りにして変化しているようです。 今進みつつある行き先が奈落の底であることを何としても共有していきたいものです。 >電気屋のテレビを立ち見して野田総理の会見をチラッとみました。ユーストリームのチャンネルで細野大臣と東電の記者会見をみました。 >国民一般は、どの様に感じているのでしょうかね。冷温停止・安全宣言・放射能事故は収束しましたと細野大臣が国民に押し付けるような物言いで今でも怒りが治まりません。 原発事故の直後も政府の発表は疑わしいと感じた人が少なからずいたと思いますが、このたびはもっと多くの人が「発表」に違和感を覚えたことでしょう。 彼らの責任を断じてあいまいにしない、という無縁仏さんの姿勢も共有していきたいと考えます。 (2011.12.18 15:54:41) |