前回、ベトナム戦争の真実を明らかにしようとするジャーナリストの闘いを通して米国民の戦争に対する意識が変わり、ついにベトナム戦争が終結していった過程(番組内容)を紹介しました。勇気あるジャーナリストの姿が感動的だったのですが、番組はそこでは終わらず次のような指摘につなげていきます。
「だが、メディアの絶大な影響力を学んだのはむしろ政府だったのかもしれない。」
1989年の湾岸戦争で、米国政府は映像提供などを通して情報を巧みに制御することによってこの戦争は軍事施設をピンポイントで破壊するクリーンな戦争だというイメージを作ることに成功した。(実際は民間人の死者が多数出ていたにもかかわらず )
この番組の解説者(報道カメラマン)は次のように指摘します。
ベトナム戦争においてアメリカは戦争に負けたけれど民主主義を守った。しかし、湾岸戦争では、戦争には勝ったけれど民主主義を守れなかったのではないか。そして、そのことがイラク戦争での報道規制につながっていったのではないか、と。
「取材規制と報道と、政府とジャーナリストのせめぎあいは今も続いている」ことを示す画面とナレーションで戦場のシーンは終わります。
さて、根本的に、時の政府と報道との関係はどうあるべきなのか。
番組は、在任中、報道機関に圧力をかけたジョンソン大統領の言葉(全米報道人会議での)を紹介します。
「この国がうまくいくかどうかは、真実を広めるメディアにかかっています。その真実に基づいて民主主義の決定はなされるのです。アメリカの報道機関は、真実を知らせる自由と誠実さ、そして責任を決して妥協することなく、保たなくてはならないのです。」
一方、ベトナム戦争時に闘ったクロンカイトは、ジャーナリスト志望の学生たちに繰り返し次のように語ります。「権威を恐れることなく自由に聞き学び議論せよ、」
そして、番組は最後にシーハンの言葉(湾岸戦争時のインタビューで述べた言葉)を紹介するのです。
『国民が政府の政策を支持すべきかどうか迷っている時 政府はその目撃者であるジャーナリストを排除したがる。だからこそ私たちジャーナリストは、勇気を持ち真実を追究し、戦い続けなくてはならない。いつも成功するとは限らないが、報道なしには成功もないのだ。』
このように、勇気ある報道を貫いたジャーナリストたちは、現代に続く問題を私たちに投げかけているのです。
強く印象に残る番組でしたが、実はこれをNHKが放映したこと自体も画期的だったのではないか、と私は考えました。なぜなら、この番組が放映された2006年5月31日というのは、まだイラク戦争の出口が全く見えない時期、日本政府が米英の軍事行動を支持・協力を続けていた真最中だったからです。
あのベトナム戦争において、日本政府が米国を支持し、全面的な協力をしたように(「日本は米国に軍需物資・軍事基地を提供し、沖縄の基地からB52が出撃していった…」)、イラク戦争への支持・協力を日本政府は続けていたのです。
しかし、「報道機関はこの戦争(そしてそれに協力する意味)を正しく伝えているのだろうか」という問いかけを、番組(「これは正義の戦いか ~ジャーナリストたちのベトナム戦争~」)は私たちに、そして報道機関自らに突きつけていたのです。
私がNHKに望むことは、上記番組を通して行った鋭い問題提起(報道機関のあるべき姿)を自ら勇気をもって実践していくことです。
NHK内でもぜひ、(現時点では不適格だとしか言いようのない新会長も含めて)この番組を一緒に視聴し、報道機関のあるべき姿勢について議論し、公共放送としての役割をしっかり果たしていくよう切に願うものです。
さらに、制度上の問題(NHKの経営委員を時の首相が自分の気に入るメンバーで固めることができる現実!)を根本的に見直していくこと、そのための議論を徹底して行うべきであると考えます。
〔追記〕
上記のような(当然の)期待に反してNHKが「政府の広報機関」に成り下がるのであれば、視聴者からの受信料徴収は一切やめるべきです。(「公共放送」の名に値する仕事ができないのであれば・・・。)そして、これは単に将来的にといった話ではありません。
NHKスペシャル「返還合意から18年いま"普天間"を問う」(1月24日放送)では、仲井真知事や菅官房長官が何度も登場し、防衛大臣も生出演するなど、政府の主張を紹介する場面があまりにも長時間でした。「辺野古移設が唯一の選択肢でこれを推進するから理解してほしい(地元の理解を得たい)」の繰り返し。
名護市長選挙で基地建設反対の稲嶺進現市長がなぜ大勝したのか、市民の民意はどこにあるのか追求していくような場面は皆無といっていい状態。
まさに、「政府の広報機関」のような番組づくりに関しては、一視聴者としてNHKに直接抗議をしておきました。
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