『イギリスの教育改革と日本』 2 -「ワーキングプア」にからめて-
イギリスの教育から何を学ぶか 1998年に発表された「貧困と社会的排除に関する主要指標」は50の指標を使って状況を報告している。(下記は一例:引用者)1、250万人の子どもが、仕事を持たない親のもとで育っている。(・・・)2、毎年、22万人の若者が義務教育をGCSC(中等教育資格)のCの資格を得ること無しに卒業していく。(・・・)3、セカンダリースクールから永久追放される子どもは12,500人で、これは、1991年の5倍になっている。(『イギリスの教育改革と日本』50頁) 「サッチャー教育改革」が主な原因とまではいえないかもしれませんが、1988年から始まる「教育改革」以降、確実に学力格差が拡大しているようです。ブレアー労働党政権は(全国学力テスト実施と学校別公開等、前政権の政策を踏襲しつつも)アンダークラスの形成という上記の現実から出発して、新しい政策を実施していくのです。 具体的には(・・・)1、底辺部分の学力達成をどう向上させるかが大きな独自の目標として設定され努力されていること、(・・・)3、一クラスあたりの生徒数改善目標に見られるように、ヨーロッパの他の先進諸国に遅れてはいるが、労働党の政策は一定の優先性をこれらの改善に与えていること、4、ニューディール政策に見られるように、底辺層の雇用改善と教育訓練とを直結して、底辺層の押し上げを強力に推進しようとしていること、(・・・)などである。(193~194頁) 「底辺層」の学力向上政策、学級規模などの条件整備、そして 「ニューディール政策」 、これらは確かにサッチャー政権の時代には見られなかったものです。 上記「ニューディール政策」についてはNHKスペシャル『ワーキングプア』でも放映されていましたが、 「担当者(全国で9000人)」が市内・国内をパトロールし、職についていない若者を集め、必要な就学援助や様々な技術を身につけるための支援を行うというもので、「貧困家庭」に育った若者に対して実質的で大きな支援となっています。 この番組で「社会的排除防止局」という役所の担当者が登場します。「社会的排除」を防止して「社会につながる」ことをどうすすめるか、これが具体的な政策として実践されているのです。 イギリスの若者の社会的排除防止の対策では、環境や福祉など社会的に貢献している企業(「社会的企業」)における就労訓練が放映されていました。このような「社会的企業」の多くは年間1億円以上の補助を受け、一人当たり13万円の支援を受けているのです。イギリス全体で5万5千社の社会的企業があり30万人がこうしたプログラムをうけているのだといいます。 さて、1967年の『ブラウデン報告』は、当時のイギリス労働党の進める福祉国家づくりの社会的風潮の中、一人ひとりの状況に応じて実質的に平等な教育を実現しようとしており、統合教育やいわゆる「落ちこぼし」「落ちこぼれ」をなくする「アファ-マティブアクション(弱者積極的優遇策)」の立場に立っていました。 他方、学校間競争が進められてきた現在のイギリスにおいて、「統合教育」が後退していることは以前の記事でも述べたとおりです。しかしながら、今のイギリス労働党の政策は『ブラウデン報告』当時の福祉国家作りの理念を「一部復活」させたものだ、といえるかもしれません。 このような点も、イギリスにおける(広義の)教育政策のなかで、日本も学んでいく必要のある重要なポイントであるように思われるのです。 教育問題に関する特集も含めてHPしょうのページに(yahoo geocitiesの終了に伴ってHPのアドレスを変更しています。) ↑ランキング(日本ブログ村)はこちらです