013565 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

Sherbettte Time!

Sherbettte Time!

小説No.5

003:「あなたの傍で生きていたい」
Title:ロンリー・イン・ザ・レイン



その日は、雨がきつかった。
その日は、joyjoyバーガーが事実上倒産した日だった。

joyjoyバーガーの社長であるjoy三郎を探して、当時、支店長であった日下真一郎は雨の降りしきる中を走っていた。

やがて、かつて店があった場所に、傘もささずに立ち尽くすjoy三郎の姿を発見した。

「社長!」

日下は、joy三郎に呼びかける。

joy三郎は、振り向かずに返事をする。

「あっ…あぁ…その声は、日下君…だね?」

「社長…こんな所で何を?こんな所に居ては、お体に障ります。せめて、傘くらいはさしていただかないと…」

日下は、そっとjoy三郎の後ろから傘を差し出した。

しかし、joy三郎はその手を払った。

「社長…?」

後ろからなのではっきりとは分からなかったが、joy三郎は、店の残骸を見ていたようだ。

「日下君…君は、かつてここに何があったか、知っていますね?」

やっと、joy三郎が口を開いた。

「はい…ここは、われわれが居たjoyjoyバーガーの本店があった場所です。」

「その通り。かつて、ここにはjoyjoyバーガーがありました。ここは、本店であり、第1号店でもあったのですよ。」

「第1号店…社長が考案し、はじめて建てた店…という事ですね?」

「そう、この店には、私の夢が…つまっていました。」

「夢…ですか?」

日下がそっと聞き返すと、joy三郎は深く頷いた。

「ふふ…私には、世界中の人を喜ばせたいという夢があってね。壮大だろう?私は、はじめてバーガーを食べた時のあの感動を…他の人が知ってくれて、喜んだ顔が見たくて、このバーガーショップをはじめたんだ。だが…。」

ふと、joy三郎の言葉が止まった。

「倒産した今、私には何が残されているというのでしょう?この…降り続く雨の中、今までは雨漏りひとつ起こさなかった店に…今では雨が降り注ぐようになってしまいました…。私は…自分に経営が悪かったせいでこうなってしまった…それが、悲しくて、可愛そうで、見ていられないのです!」

せきをきったように、joy三郎の涙が、雨に混じって頬を流れた。

日下は、じっと話を聞いていたが、すっとjoy三郎に近寄っていった。
そして、傘の中にjoy三郎が入るようにした。

日下は、怒る事もなく、ただおだやかな表情をしていた。

「…本当に、終わりですか?」

「えっ?」

「社長…あなたの夢は、世界中の人を喜ばせる事でしたね。」

「えぇ、そうです。」

「ならば、ここじゃなくても出来る事じゃないですか。…社長、まだ目標は叶えられていませんよ。」

「………。」

日下は、joy三郎の前に回りこんだ。

「社長には、明日があります。そして、私が傍にいます。…ですから、安心してください。この日下真一郎、社長の夢を全力でお手伝いさせていただきます!」

ドンと自分の胸を叩く。と同時に、強く叩きすぎて、むせた。

「ゴホッ、ゲホゲホッ。」

その様子を見ていたjoy三郎が、クスクスと笑った。

やがて、大声でおなかを抱えて笑い出した。

「あー…こんなに笑ったのは久しぶりです。まんまと日下君にやられました。アッハッハ…。」

日下は、恥ずかしさのあまり、うつむいた。

「日下君、その言葉…確かに聞きましたよ。私は、一生忘れませんからね。…今、ここに約束しましょう…私の一番の部下は、日下真一郎ただ一人と。」

joy三郎は、日下の傘の中に入り、降りしきる雨の中、ずっと笑っていた。



そして、1年後…



「オーナー!いけませんよ、雨の日に窓を開けたいなどと…雨が中に入ってしまいます!」

とある立派な庵には、joy三郎記念聖・ラフォーレ病院の事務長となった日下と、オーナーとなったjoy三郎の姿があった。
庵は、オーナーであるjoy三郎の自室だ。

「いいじゃないですか、たまには。私は、雨が好きなのですよ。」

フフ…と微笑するjoy三郎の様子に、日下はあきらめて窓をあけた。

「あぁ、そうだ…日下君。ちょうど1年前…君が私に言ってくれた事、覚えていますか」

「1年前…ですか。懐かしいです。ちょうど、店が倒産したのが、今頃でしたね。」

「えぇ、その時、最後に私に言ってくれた言葉ですよ。あの言葉は、私にとって日下君との永久雇用書のようなものと思っていますから。」

「そ、そうですか?いやぁ、お恥ずかしいです。しかし…気持ちはあの頃と全く変わりませんよ?」

「ほう、どういう気持ちですか?」

joy三郎を見つめながら、日下は答えた。


「ずっと…あなたの傍で生きていたい。」



Fin



~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
はい、というわけで、久々の更新です。

前から書きたいと思っていた事務長とオーナーのネタです。

これは、一応事務長とKERO☆YUKIのキャラソンを参考にしながら書いていました。(詳しくは、S.S.D.S.のキャラクターソング集である「テン・サプリメンツ」をお聞きください。ちなみに、タイトルは「風を起こそう!」)

事務長は、オーナー愛なんですけど、最近、どうもギャグ方向に走っているようなので、3枚目路線で書いておきたかった…というわけで、古典的なギャグをやってみたり。

あと、オーナーの名前…joy三郎というのですが、打っていて「jyo三郎」と何度も間違えてしまいました;;
難しいです…。

さて、話なのですが、タイトルは、なぜかすんなり出て来ました。
ただ、英語表記にしようか悩み、面倒になったのでカタカナになりました。

2人居るのに、なぜタイトルは「ロンリー」か?
それは、joy三郎の気持ちが日下から離れていたからなんです。
でも、一人じゃないってオーナーに分からせて、はじめてロンリーじゃなくなるんです。

という、深い事やっていたり;;

では、これにて失礼!!


2006/01/07(sat)   アルテ・アリス


© Rakuten Group, Inc.