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憂国愚痴φ(..)メモ by 昔仕事中毒今閑おやぢ in DALIAN

公団・銀行、拉致。不感症日本




キャッシュカードは安全か? ~偽造を産んだ「不感症」~

           TBS報道局 ニュースの森ディレクター 安永英樹

●摘発

 1月19日水曜日午前9時30分、群馬県富岡市の名門ゴルフ場に警視庁捜査
員らの姿があった。広々としたロビーには、表面に水が緩やかに流れる現代的
なガラスの壁がしつらえてある。

 日本初の偽造キャッシュカードの摘発の舞台はゴルフ場だった。逮捕された
のは、横浜市の無職、藤原高広(33)容疑者やゴルフ場支配人の遠山秀樹容疑
者(51)ら11人(05年1月25日現在)。中には中国人も数人含まれていた。
その手口は?

●手口

 早朝のゴルフ場。ゴルフ客らは次々と貴重品ロッカーに財布や車の鍵を入れ、
プレーに向かう。ロッカー近くのソファーでは、ゴルフバッグを抱えた中年の
男らが談笑をしながらその様子を見守っていた。男らは客が一通りいなくなっ
た後、行動を開始する。

 ロッカーのマスターキーを使って非常用のために記録されている各ボックス
の暗証番号をプリントアウト。さらにボックスを開け、中から保管されたキャ
ッシュカードを盗み出し、そのカードを近くのトイレに持ち出す。

 トイレの中では手のひらサイズの小さな機械を持った男が待ち構えていた。
機械は、「スキマー」と呼ばれるカードリーダーである。男はカードを次々と
「スキミング」し、カードを再びボックスの中に戻す。男らはその足でゴルフ
に興じる…。

 逮捕された犯行グループは貴重品ボックスの利用者が暗証番号を記憶しやす
いようにキャッシュカードと同じ暗証番号を使うケースが多いことに目をつけ
た。キャッシュカードのデータだけを盗み偽造カードを作成、03年11月から約
150件のスキミングを繰り返し、関東や関西のATM(現金自動受払機)で
約3億円を引き出していた。

 プレー後、客らはカードデータが盗まれたことなど想像もせずに帰路に着き、
数週間後自分の口座から根こそぎ預金を引き出されて初めて被害に気づく。行
ったこともない土地の銀行ATMで、見ず知らず男に預金を引き出され、しか
も暗証番号は正確に入力される。手元にはカードも通帳もあるが引き出された
際に使われたカードは他人名義のキャッシュカード。しかも盗難届けが出てい
る。被害者は何が起きたか始めはさっぱりわからない。

 こんな事件が一昨年から相次いでいた中、ようやく捜査のメスが入ったので
ある。

●スキミング カード偽造の方法

 今回の事件でも使われていた「スキマー」と呼ばれるカードリーダーについ
ては、説明が必要だろう。

 これ自体は秋葉原や通信販売で誰でも購入できるもので、表示板が付いたも
のなら値段は平均3万円前後。カードを通すと表示板に「a00001234567890…」
と英数字が表示される。これがカード情報だ。

 このカード情報を特殊なプログラムにかけ、パソコンに保存し、ライターと
呼ばれるカード作成機を使って別のカードに移しこんでしまえば、カードのコ
ピーが簡単に出来てしまう。因みにこの「ライター」、値段は平均20万円前後
で、秋葉原界隈では容易に手に入る。

●のっぺらぼうの白カード

 ところで、コピーカードであるが、当初は真っ白いプラスティックの板に磁
気データが貼り付けられたお粗末なものが多く見られた。あまり知られていな
いが、実はカードを使ってATMで現金を引き出す際、ATMの内部では使ったカー
ドの表面が印刷されている。これが「ジャーナル」と呼ばれる記録で、引き出
しに使ったカードの絵柄、カード表面についている凹凸のあるエンボス文字、
引き出された金額、日時などが詳細に記録されているのだ。

 身に覚えのない預金引き出しをされた被害者が、警察で銀行から取り寄せた
ジャーナルを見せられたとき、絵柄エンボス文字もない真っ黒のカードが写さ
れたジャーナルであったケースが多くあった。

 真っ白でのっぺらぼうのカードであるため、撮影しても影しか映らないのだ。
その後、さすがに真っ白のカードではATMで怪しまれると思ったのか、犯行
グループは好んで盗んだキャッシュカードを使った。カムフラージュのためで
ある。

 それにしてもATMはカードにまったく別人のデータが載っていても暗証番
号さえあっていれば認証してしまうということには驚かされる。表面について
いるエンボス文字は一体なんのためにあるのだろうか。

●暗証番号入手

 さて、カードのコピーが簡単であるということは分かった。しかし現金を引
き出すには暗証番号が要る。暗証番号はどうするのか。

 実は1987年以前発行の銀行キャッシュカードには磁気テープの部分に暗証番
号が入っていた。仮にこの旧式カードをリーダーに通した場合あっさりと4ケ
タの暗証番号が表示されてしまう。

 旧式カードが財布に入っていて且つ暗証番号を他のカードと同じくしていた
場合、スキミング被害にあった場合は全預金が一瞬にして消えてしまうことに
なる。マズイと考えた銀行はその後対策を講じ、現在は暗証番号の4ケタの部
分がすべて「ゼロ」に暗号化(いわゆる「0暗証」)され、その解読は困難と
なっているという。

 しかし、カードのコピーが簡単に出来てしまうという事実は変わらない。暗
証番号さえ何らかの形で手に入れれば預金は抜き放題である。

 今回摘発されたグループはゴルフ場の貴重品ボックスの利用者が暗証番号を
記憶しやすいようにキャッシュカードと同じ暗証番号を使うケースが多いこと
に目をつけ、マスターキーを悪用していた。この場合、ゴルフ場の支配人が手
引きしていたため、利用客は無力である。

●被害者は誰か

 仮にあなたがこうした偽造キャッシュカードの被害にあった場合、引き出さ
れた預金は「1円」も返って来ない。細かい法技術論は避けるが、預金は銀行
に預けた時点で法的に銀行の財産扱いとなるのである。仮に預金を引き出され
たとしてもお金を盗まれたのは「銀行」で預金者である「あなた」ではないの
である。

 無茶な話だが、被害者の中には預金全額を引き出された上キャッシング機能
を使われ、さらに数十万の借金を背負う羽目に陥るケースもあり、この場合も
銀行は「キャッシングした金を返せ、さもないとブラックリストに載るぞ」と
迫ってくるのだ。こつこつ貯めた預金が返ってこないだけでなく、借りた覚え
のない金まで返せと言われては被害に遭った身としてはたまらないが、現実に
例がある。

 さらに銀行の約款では、「預金者に責任がない場合は、不正に引き出された
預金を補償する」とされているが、補償を求めるには預金者本人が責任のない
ことを証明しなければならず、「その証明は非常に困難」(金融庁)なのが実
情だ。

 銀行側は「犯罪手口が明らかになっておらず、預金者に責任がないかどうか
は明確でない」という態度がほとんどだった。すがりつくような思いで警察に
行っても警察からは「被害者は銀行になります。刑法的にあなたは何も盗まれ
ていないことになるので被害届けは出せない」とまで言われる始末。

 さらに銀行はこの問題が報道で大きく取り上げられるまでろくに被害届けも
出さなかったため、警察の捜査も大幅に遅れた。その間被害は急増。全国銀行
協会が把握しているだけで2001年から04年9月現在までの累計で8億円近くの
被害が明らかになっている。この額はもっと増えるだろう。今回摘発された犯
行グループは暴力団との繋がりが指摘されていて、こうした金が暴力団の資金
源となったものと見られている。善良な預金者の貯金がブラックマーケットに
流れたのだ。

 ちなみに、米国では盗難・偽造などの被害に遭った預金のうち、50ドル(約
5100円)までは免責され、それ以上は金融機関が補償する「50ドルルール」が
ある。これを参考にした自主ルールが英国、フランス、ドイツなどでも設けら
れていて、被害者の負担額はごく一部に限られる。
 
●何故ここまで被害は拡大したのか

 それにしてもなぜここまで被害は広がってしまったのか。

 銀行は2001年から被害を確認していたが、偽造キャッシュカード被害の詳細
な調査を全国銀行協会が始めたのは04年春になってからである。さらに銀行側
が警察に率先して被害届けを出すようになったのは全国銀行協会からの通達が
あった同じく04年夏ごろ。暗証番号を生年月日などにしないよう訴えはじめた
のも同時期だ。

 その間も被害は爆発的に広がっていった。ICチップ入りキャッシュカードの
導入、生体認証などキャッシュカードへのセキュリティーをも今になってよう
やく高めようとしているが、初摘発になってようやく銀行や金融庁は被害者へ
の補償を検討し始めた。対応については遅きに失したといわざるを得ない。

 つまるところ、銀行は当事者意識が薄かったのだ。偽造を放置し続け社会的
責任を失う中、たとえ預金者(お客)の金が引き出されても身銭が切られたわ
けではない。自分の腹は痛まないのである。その「痛み」の無さ、「不感症」
こそ、この犯罪を放置した要因である。

●偽造を放置した「不感症」

「痛み」が無いゆえに犯罪を「放置」してしまうケース。似たようなケースが
他にもあった。ハイウェーカード問題である。偽造被害の発覚から何年も対策
を講じず、被害額を250億円以上にまで広げてしまった日本道路公団。これ
も特殊法人という体質から偽造被害に遭っても自分たちの腹が痛むわけではな
いため、迅速且つ抜本的な対策が大幅に遅れた。

 偽造されやすい製品、ハイウェーカードを廃止することなく使用し続け暴力
団にむざむざと資金を提供、そのつけは国民にまわしてきた。この構造は銀行
キャッシュカードとほとんど同じである。不感症が肥料となって偽造犯罪を膨
張させてきたのだ。

 銀行や道路公団は取り返しの付かない状態になって初めて対策を講じ始めた
が、もっと早く「痛み」を敏感に感じとることができれば、犯罪を未然に防ぎ、
あるいは被害を最小限に食い止めるための徹底した行動をとることが出来たで
あろう。しかしそういった観念がないままにセキュリティーの未熟なキャッシ
ュカードやハイカをユーザーに配り続けた社会的責任はあまりに大きい。私た
ちメディアはこうした企業が今後どのような行動をとるのか注視し続けなくて
はならない。

■著者略歴■
安永英樹(やすなが・ひでき) TBS報道局ニュースの森特集担当ディレク
ター。社会部内勤、警視庁捜査一課担当を経て現職。事件もの、ネット問題、
消費者問題、詐欺を中心に担当。





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