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新英語教育研究会神奈川支部HP

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★グッドナイト・サイゴン

第177回
Goodnight Saigon グッドナイト・サイゴン~英雄達の鎮魂歌
♪ビリー・ジョエル(Billy Joel)

 今回の歌のテーマはベトナム戦争(1959-1975 年)。フランスが敗退し,ベトナムの共産主義化を恐れたアメリカが軍事介入しました。ベトナムの人々は森に潜んで見えないところから攻撃し,農民がゲリラ(=軍隊に属する職業軍人ではない)になったので,米兵はいつ撃たれるかしれないという恐怖に脅え,ナパーム弾で森や村を焼き,ダイオキシンの含まれる「枯葉剤」を撒いて森を死滅させました。戦後はそのダイオキシンが原因と思われる奇形児が多数生まれました(胴体のつながった双生児のベトちゃん,ドクちゃんが有名)。
 今ここで「この歌が歌われている情景を思い描きながら聴いてみましょう」と呼びかけられても,教室にいる10 代の生徒たち,そして若い教員のみなさんは困ってしまうでしょう…。まずは大人である教員のみなさんがベトナム戦争について知り,肚[はら]で受け止め,肚から言葉を発し,次世代に橋渡ししていくこと,そういうことをこの歌が私たちに求めていると感じます。この歌を戒めとし,戦争を起こさないという決意を新たにしようではありませんか。そして,オーウェルの『1984』さながらに,仮想敵国の脅威を喧伝[けんでん]し,人々の恐怖心をあおる焦[きな]臭い不穏な空気に流されることなく,みなさんの日々の教室から清々しい風を送ろうではありませんか。

●歌の背景:「グッドナイト・サイゴン 英雄達の鎮魂歌」は,「素顔のままで」「オネスティ」で知られるビリー・ジョエルの1982 年のアルバム『ナイロン・カーテン』所収。「プレッシャー」「アレンタウン」に続く第3弾シングルで,3曲ともアメリカ社会の底辺に生きる人々の報われなさを強く打ち出す骨太な作品。このような優れた曲を作ったビリー・ジョエルですが,悲しいかな,アルコール依存症らしい。マイケル・ジャクソンやホイットニー・ヒューストンの不遇な死に垣間見えたアメリカの深い闇を感じます。

●歌で展開:印象的な歌詞を取り上げる
 
我々はパリスアイランド(海兵隊の訓練地)で
ソウルメイト(魂の友)として出会い,
精神病院の入院患者として別れた。
 
我々は飼い慣らされていない馬のように
けいれんしながらやって来て,
我々はプラスチック(body bag)に入って
番号を付けられた死体として去った

 この曲は湾岸戦争中に米国で放送禁止歌になっていました。戦争に行って「精神病院の入院患者」になり,「番号を付けられた死体として去った」というのでは,誰も兵士になりたくありませんし,厭戦[えんせん]気分が高まりますから…。

 
誰が間違っているのか?
誰が正しいのか?
そんなことは戦闘の真っ最中には
問題ではなかった


 この歌で魂の叫びと言えるのがこの箇所。平均年齢19 歳でベトナム戦争に送り込まれた若い米兵,そしてベトナムを守ろうとするゲリラたち。それぞれに「正義」があったのでしょう。このような状況に追い込まれないようにし,非戦を守りたいです。



●内容で展開(1):19(Nineteen)
 神奈川支部の泉康夫先生に教えていただいた,1985 年のPaul Hardcastle の曲。従軍兵の平均年齢が第2次世界大戦は26 歳,ベトナム戦争は19 歳だったことを曲名が示しています。私はこの事実に衝撃を受けました。「ベトナム戦争の退役軍人の半数が精神
科医が言う『PTSD』で苦しんでいた。帰国して8~10 年後,80 万人は今もなおベトナム戦争を闘っていた」という一節が印象的です。

●内容で展開(2):アレン・ネルソンさん
 2000 年の新英研北海道大会でお会いした,ベトナム帰還兵のアレン・ネルソンさん。温和な小柄な方でした。18 歳で入った海兵隊で「お前達の仕事はなんだ?」「殺すこと!」と連呼させられ,人としての感覚を麻痺させられ,ベトナムへ。偶然に村の防空壕の中で出産シーンに遭遇,人として目覚めて除隊。クエーカー教徒として非暴力を訴えたアレンさん。私たちに戦争について多くを教えてくださいました。日本各地で講演され,『アレン・ネルソンの「戦争論」1 I KNOW WAR』(かもがわ出版 1999),『ネルソンさん,あなたは人を殺しましたか?』(講談社文庫)など書籍になっています。ネット上では千葉新英研の高木繁さんが2002 年の講演会をまとめられた文章(plaza.
rakuten.co.jp/shineikenkngw/),英文インタビュー(www.indybay.org/newsitems/2009/02/02/18567572.
php)が読めます。

●内容で展開(3):「ベトナムの衝撃」
 1995 年NHK・ABC 共同製作『映像の20 世紀』第9集「ベトナムの衝撃」は1950-60 年代,黒人差別撤廃を目指す公民権運動とベトナム戦争という内憂外患を抱えたアメリカの苦悩を描いたドキュメンタリー。今回の歌の背景知識を理解するのに最適です。

1)お薦めシーンは,ジョンソン大統領が貧困を一掃して「偉大な社会」を成立させると宣言,トンキン湾事件を口実に「戦争拡大のための白紙委任状を手に入れたも同然だった」というところ。
解説:戦争開始には大きく2パタンあるようです。1941 年の真珠湾攻撃のように「(事前に知っていてわざと見逃して)相手に軽く殴らせておいて(正当防衛を謳い,国民の支持を得て)思いっきり殴り返す」というパタン(2001. 9.11 も…?)。もう一つは,アメリカによる1964 年トンキン湾事件,2003 年イラク侵攻(大量破壊兵器所持疑惑を口実),日本による1931 年の満州事変(柳条湖事件=関東軍が鉄道爆破)のようなマッチポンプ(自分で火をつけて消す=自作自演)のパタン。いずれにしろ,いじめた方は忘れてもいじめられた方は忘れない。日本が忘れても周辺諸国は忘れない。日本が為すべきは歴史的事実を次世代に語り継ぎ,同じ過ちは繰り返さない日本なのだということを表明して安心してもらうこと,そして批判精神を持ち,為政者に騙されないことです。

2)2005 年に高3女子クラスでNew Cosmos II(三友社出版)Lesson 9 The Boy Who Painted Christ Black「キリストを黒く描いた少年」(1930 年代のアメリカ南部を舞台に「キリストが黒人だったこともありうる(he could have been a black man)」と少年をかばった校長先生が左遷される短編小説)を読んだ後にビデオを見せ,感想を書いてもらいました。「このビデオにより今までバラバラだった歴史上の事実が1つになった気がした。黒人差別・反対運動・キング牧師の演説・ケネディ暗殺…,1つ1つの事件は知っていたが,これらに深い関係があるとは知らなかった。中学高校で歴史を学んできたが,まだまだ認識が甘いと思う」と受け止めてくれました。

 ただし,気になる感想には教員からのコメントが必要です。生徒の意見だから尊重するという名目で野放しにするのはおかしいと私は考えています。
・「日本はあまり関係していないけれど,アメリカとベトナムにしてみれば大きな歴史的出来事だと感じました。」
→ コメント 本当に日本とは関係ないのでしょうか? 沖縄からベトナムに出撃したり,物資を援助していたのは日本なのですが…。日本の三井東圧化学が枯葉剤の原料を輸出したと疑われているのですが…。小田実[まこと]さんのべ平連など反戦活動がありました。調べてみましょう。
・「アメリカ人がスゴクたんじゅんバカだなって思いました。自分たちが選んだ道の結果がコレなら自業自得だなって思いました。」
→ コメント 自業自得と言ってやるほど,私たちは神の高みにいるわけではありません。共に同じ地平に立って伝えていくこと,それが私たちにできることです。


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