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新英語教育研究会神奈川支部HP

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英文法、ルターの冒険 1~3話

英文法、ルターの冒険  
12.10.02初稿 12.20.06、8.7.08, 4.28.11,2012/04/07 2018/10/25更新

第1話「サム(some)を救え」のあらすじ
かわいそうなサム(some)。語法で有名なスワンの言うように、We need cheese.とWe need some cheese.という2つの文で「チーズが要る」という意味は同じなのでしょうか? someはあってもなくても同じだというのでしょうか? サム(some)は自分が顧みられないでいるのは20世紀の日本のバブル経済とその崩壊を目の当たりにして、みな忙しかったせいであるから仕方ないと我慢してきました。でも今は21世紀。もう我慢の限界です。とうとう、しくしく泣き出してしまいました。そこに「英文法ルター」が通りかかります。言語学者のソシュールやバルトというサポーターを得て、ルターはサムを救います。
第2話「ルターの対比的文法解説」のあらすじ
サム(some)を救出してホッとしていたルターのところへ【無冠詞】がやってきます。今度は【無冠詞】が仲間はずれにされているというのです。自分がした仕事が不十分だったことを思い知らされたルターは深く反省します。そして「対比を利用した文法解説」によって【無冠詞】もa / an / someやtheと関係があることを皆に示します。

なぜ主人公の名前は「ルター」なのか?
1517年ドイツのルターが95か条の論題を公表し、宗教改革を行いました。聖書はラテン語で書かれており、ヨーロッパの大衆はラテン語が読めないため、カトリック教会が神の言葉を独占していました。大衆は神の言葉を知りたければ教会システムに所属し、献金して教会を維持しなければなりませんでした。そのような状況下でラテン語聖書をドイツ語訳して大衆に広めたのがルターです。おおげさではありますが、この物語の案内役の英文法、ルターはキリスト教世界のルターと同じ気持ちでいます。
並べ替え問題や複雑にカッコをつけた英文法問題で学習者を煙に巻き、教授者が「解答」を独占している現状は異様です。学習者が自習できるように環境を整えるのが日本の英語教育界の「英文法、ルター」の仕事だと思っています。
正直、16世紀のルターの行為、ほんとうによかったのか、疑問です。ありがたがっていたことの舞台裏を知ってしまったら、人間は不遜になります。メタ意識に苦しむ現代人はエデンの園でリンゴを食べたアダムとイブです。でも「英文法、ルター」がやっていこうとしていることは宗教家ルターほどの大げさなことではないので、気楽に書きながら、不遇な文法事項たちを救出していこうと思います。some以外にも現在進行形や分詞など、待っている文法項目も多いので…。


目次
第1話 サム(some)を救え
  ルター登場
  サム(some)との出会い
  ルター、ソシュールに会いに行く
  ソシュールの〈連合〉からバルトの〈体系〉へ
  比較言語の観点で:英仏中日
第2話 「ルターの対比的文法解説」
   無冠詞、ルターに直訴する
   ルター、冠詞たちのクリスマス会に参加する
     ルター、「対比を利用した文法解説」を説明する
     和解


第1話 サム(some)を救え

●ルター登場
 12月のある日、散歩がてら新宿の書店に寄ったルターは「語学のコーナー」をのぞいてみた。このところ英文法関係の本は大手の一般書の出版社から出版が相次いで、たくさん平積みになっている。「冠詞が分かる」という本も数冊出ている。一冊手を取ってみると、冠詞のルールと称して定冠詞だけで50項目近くあった。そんなにルールがいっぱいで普通の学習者に冠詞の使い方の本質が分かるのだろうか? また平積みになっているベストセラーのコーナーには『勉強するな』という逆説を説く本まである。フランス語や中国語なら「勉強するな」なんて本は書かれないだろうし、売られることもなかったろう。「これでバッチリ」「完全マスター」など、本当にどのことばを信じたらいいのか? 英語の学習者は情報洪水の中で溺れているのではないだろうか?

 ルターはため息をつきながら手にした本を閉じた。本を書棚に戻し、ふたたび一冊手にしてはパラパラめくる。そしてがっかり。ルターは書店に来るといつもこのようにして英語の会話本や英文法書をチェックする。その日も何冊か見終えてつぶやいた。
「江川泰一郎さんの『英文法解説』 や林野滋樹さんの『たのしい英文法』 をしのぐ本はやっぱり、まだないな」

 やがてルターは「英語」「英語」とうるさい表紙に囲まれてボーっとしてしまった。ルターのような英語オタクならいざしらず、おそらく普通のご家庭のお父さんお母さんならどの英語学習参考書を子どもに選んだらいいかわからず、クラクラしてしまうだろう。
そんなことをうつらうつら思索しながら「いつかここにあるダメ本を一掃してしまうくらいの文法書を書くぞ!」とひとりごちていた。

●サム(some)との出会い
 そのルターの耳にさめざめと泣く声が聞こえてきた。ちょっと気になる。どうやら本の中からのようだ。ページを開いてみるとsomeがしくしく泣いているではないか。
someといえば、冠詞ではなく、形容詞の分類。このページは冠詞のページだ。なぜ冠詞のところで泣いているのだ?
 ルターはsomeに話しかけた。

ルター: どうしたんだい? そんなところで。
some: お前なんか、いたっていなくたって変わらない、って言われたんです。
ルター: 誰に?
some: スワンです。スワンといっても白鳥じゃありません。語法で有名なマイケル・スワン。
ルター: そいつはひどい。でもスワンはすばらしい語法の本を書いていて、日本の英文法の語法書はスワンのパクリばっかりと言ってもいいくらいだよ。私はスワンが大好きだ。でもあのスワンから「いてもいなくても変わらない」と言われたとはねぇ。そんなこと、人間に向かって言ったら、ケンカ売っているも同然だな。弱い人が相手なら、立派なイジメだ。でもどこで言われたの?
some: この例文です。67 articleの項目61ページで、

Uncountable and plural nouns can often be used either with some/any or with no article. There is not always a great difference of meaning.
 We need (some) cheese.
 We didn’t need buy (any) eggs.

 「意味に大きな違いがあるわけではない」って一体どういうことですか? これじゃ、someなんて、あってもなくても変わらないって、言っているも同然じゃありませんか! ボクは繊細なんだ。【無冠詞】のヤツはもともとナシなんだから、何言われてもピンと来ないかもしれませんけど。
ルター: まあまあ、仲間割れはだめだよ。無冠詞だってこの間怒っていたよ。「日本の英語学習ではオレは不遇だ。I like dogs.ぐらいでしか注目されない」って。それにサムくんこそ、もともとは形容詞の分類なんだから、冠詞の項目の中で文句言ってもね、無理があるんじゃないのかな。
some: そんなことないんです。だって名詞にくっつくという点では冠詞も形容詞も一緒です。ボクたち仲間なんです。
ルター: なるほどね。
some: どうしてボクは形容詞に入れられてしまったのかな。形容詞のクラスに入れられて、しっくりこないんです。学校だって、学期ごとに席替えしたり、一年ごとにクラス替えするじゃないですか。ボクら文法項目だってクラス替えしてほしいですよ。
ルター: そうだね。ぼくも日頃、書店で売られている文法書や中学高校の英語教科書・問題集・入試問題を読んでいて、文法項目の分類が問題だなと感じていたんだ。そうだ、こうしようじゃないか。君は学校英文法の世界で不遇だと感じている仲間をあつめておいてくれないか。ぼくの方は他の仲間を集めてドリームチームといえるような弁護団をつくるよ。そうすれば君たち文法事項の代弁ができるだろ?
some: ありがとう、是非そうしてください。今の日本では「コミュニケーション」「英会話」「児童英語」「ビジネス英語」って、いろいろ号令はかけても、英文法の体系は旧態依然としたままなんです。ルターさん、口べたなボクたちの代わりに本を書いてください。そしてボクたちの代弁をしてください。

 数日後、ルターは言語学のソシュールのところへ出かけた。そこで記号学のロラン・バルト、レトリック研究の佐藤信夫に会った。実際にはすでに亡くなっているが、皆こころよく協力してくれた。またルターと交流のある言語、中国語やフランス語も「私たちを仲間に入れて」と協力を申し出てくれた。みんなの思いはただひとつ。「サム(some)を救え」。


●ルター、ソシュールに会いに行く
 ルターはまずソシュールに会いに行くことにした。本来ならば、悲しい思いをしているサム(some)にもう一度会って、じっくり話を聞いてやれば気持ちもおさまったことだろう。しかしルターは急いでいた。一刻でも早く日本の英文法学習体系の再編成をしなくては。そうしないと英語学習者が英語嫌いになってしまう。だが、あせるあまり不用意にsomeの気持ちを代弁してしまうと、感情的だと批判されかねない。そうしないためには理論が必要だ。理論は「分類のための枠組み」を提供してくれる。経験的な分類や場当たり的な思いつきではダメだ。あるいは自分が学習してきた学校英文法の焼き直しではダメだ。ここはひとつ「理論武装」しておくに越したことはない。急いでいるからこそ「急がば回れ」のルールに従って、ルターはこれからソシュールに会いに行くのだ。

 幸いなことにソシュールのところにはロラン・バルトと佐藤信夫が遊びに来ていた。ルターはああ助かったと感じた。ルターから言わせてもらえば、ソシュールはいいこと言っているのだがどうも話が分かりにくい。「恣意性」「共時態と通時態」「ラングとパロール」「シニフィアンとシニフィエ」なんて言い出したので、日本ではみんながその用語の定義にばかりに目が奪われ、カンカンがくがく、大騒動になってしまったこともあったらしい。ソシュールが言いたかった肝心の「統合と連合」というもっとも有効な概念はその議論に埋もれてかすんでしまった。
 そういえばこの間、バルトが代わりに説明してくれた「統合と体系」という話の方がよっぽど分かりやすかった。バルトの方が話し上手なのだ。レトリック研究の佐藤信夫はバルトの著作の翻訳者でフランス語が堪能である。この人は心やさしい人なので、困ったときに心強い。きっとサムたち、英語の文法項目で不遇なものたちの気持ちを察してくれるのではなかろうか、とルターは期待していた。ソシュールが口火を切った。

●ソシュールの〈連合〉からバルトの〈体系〉へ
ソシュール: ルターくん、この間は電話ありがとう。話はだいたいわかったよ。日本では英文法がひどい目に遭っているそうじゃないか。
佐藤信夫: 力を貸しますよ。ぼくたち三人で助けますよ。宮澤賢治の『オッペルと象』の白象の仲間の象みたいにね。「もうさようなら、サンタマリア」なんて悲しいこと言わないでくださいね。
ルター: ありがとう、佐藤さん。さっそくですが、ソシュール先生にもう一度「統合と連合」のお話をうかがいたいのです。
ソシュール: ああ、いいですよ。喜んで。でも私からよりも、バルトくんからお話いただいた方がいいかもしれないね。
バルト: はい。では僭越ながらお話しさせていただきます。
ルター: (内心、ホッとする)
バルト: では、以下の引用は、ソシュール先生の「統合と連合」の概念をあらわした「古代建築の柱」のたとえです。

 「ひとつひとつの言語単位は、古代建築の柱のようなものだ。柱は建築物の他の部分、たとえば台輪などと実際に隣り合っている関係にある(統合関係)。しかし、もしこの柱がドリア様式のものだとすれば、それはわれわれの頭の中に、他の建築様式、イオニア式やコリント式との比較を呼び起こす。これが潜在的な置換関係(連合関係)である。」

ソシュール: そうそう、「統合と連合」はこの箇所を読めばバッチリだよ。僕は本は書かなかったけれど、みんなよくノートをとってくれたよね。こんなふうに理解してくれていて、うれしいよ。
ルター: そうですね。ハハハ。(…と、気のない笑い。急に真顔になって…)正直申し上げて、この説明ではみんなには伝わりにくいのではないでしょうか?
佐藤信夫: 我々日本人にはかなり分かりにくいですよね。
バルト: ソシュール先生の〈連合〉を私は〈体系〉と呼んでいます。〈体系〉というのはある概念のセットです。意味の定まり方が対比的です。「ドーリア式」という言葉を聞くと、高校で世界史を学習した人だと「イオニア式」や「コリント式」というギリシアの建築様式をセットでいっしょに思い出します。「ドーリア式」と言えば「(コリント式やイオニア式ではなくて)ドーリア式」と他のものと区別して分かるということです。
ルター: (小声で…)ドーリア式って、どんな柱でしたっけ?
バルト: 〈体系〉というのは、「どれか?」(Which?)という違いが「分かる」ことに関心があって、「どんなものか?」(What?)を「知る」ことには関心がない。〈体系〉とはコトバの世界。だから「どんなものか」知らなくとも我々人間は「分かる」ことが可能なんだ。「ドーリア式」というのは「コリント式」や「イオニア式」ではない、と分かれば、人間はある面で納得するものなんだ。
ルター: あのう、ドーリア式って、どんな柱でしたっけ?
佐藤信夫: ほらほらバルトくん、例えが難しいと、それにこだわってしまう人もいるから気をつけなくっちゃ。ちなみにドーリア式は「ギリシア前期で装飾がないタイプ」、イオニア式は「ギリシア中期で渦巻き装飾があるタイプ」、コリント式は「ギリシア後期で装飾が複雑で華麗なタイプ」です。
 こういう時は、もうすこし日常生活に密着した具体例を出してあげると分かりやすいと思うよ。

バルト: そうですね。私の著した『モードの体系』では、ファッションを語りつつ、言語体系を描いてみました。宣伝はこれくらいにして、やってみましょう。
 ルターくん、国でいうと、イギリスは何とセットになるかな?
ルター: 国ということなら、フランスとかドイツですかね。
バルト: ルターくんはイギリスやフランスに行ったことはあるかい?
ルター: いいえ。
バルト: でも、直接知らなくても、コトバの上ではセットだな、と思うだろう? 「イギリス/フランス/ドイツ」などの国も行ったことがなくとも、また「どんな国か」知らなくとも、我々はコトバの上で区別できる。それが〈体系〉の特徴なんだ。
 ではもう1つ。朝食の〈体系〉を考えてみよう。ルターくん、佐藤さんは朝食は何を食べるかな?
ルター: パンとコーヒーですね。
佐藤信夫: 私はご飯にお味噌汁。
バルト: ほかには朝食の〈体系〉に何が考えられるかな?
ルター: シリアルとか、ですかね。
バルト: では、スパゲッティはどうかな?
ルター: えー、朝からスパゲッティですか??
バルト: そこで感じる違和感が大事なんだ。実話なんだが、ある朝、うちで母がご飯もパンもなかったので、「スパゲッティにする?」って、言ったんだ。思わず、聞き間違いかと思ったよ。ショックだったな。これは文化の崩壊だ!って思ったね。
佐藤信夫: でも、四国ではうどんを朝から食べているらしいですよ。
バルト: そこなんだな。スパゲッティはだめだが、うどんはいいかもしれない。その区別はどこにあるか。それこそその人が所属する「文化」であり、その文化が形成してきた「記憶の宝庫」という枠、つまり〈体系〉なんだ。
まとめると、
  朝食の〈体系〉
   ┌ ごはん
   ├ パン
   └ シリアル
 ということだ。

佐藤信夫: 翻訳を担当した私が用語を紹介しましょう。〈体系〉はparadigm(英語で「パラダイム」/フランス語で「パラディグム」)と言います。〈統合〉はsyntagm(フランス語で「シンタグム」 )と言います。「犬も歩けば・・・」と聞くと「棒に当たる」って言いたくなるようなそういう文の要素の結びつきが〈統合〉です。主語から述語へ続くような関係が典型です。
ルター: 英語ではsyntax「シンタックス」という「統語論」という用語で耳なじんでいますね。
バルト: では、もう少し説明しますね。〈体系〉では「あれかこれか」に関心があり、意識がパラパラっと、〈体系〉内で動きます。一方で談話は線状に進行していると言われますが、〈体系〉だけだと、談話自体は停止してしまう。談話を進行させるのが〈統合〉です。主語があって述語がある、また、次の主語があって述語がある、そうやって談話が進行していきますから、意識はそこでパラパラ分散して停止するのではなく、意識が集中して進行していくわけです。
ルター: 〈体系〉と〈統合〉がからみあって談話が進んでいくのですね。
佐藤信夫: 音楽で例えるなら、曲のある時点で「ドレミファソラシド」のどれを選ぶかという〈体系〉があり、そこで「どれにするか」で意識が止まりますが、ドレミドミドミのようにどうつなげるかが〈統合〉ということで、どんどん進んでいく。こんな感じですよね、バルトさん。
バルト: そうです。佐藤さんはレトリック研究家だけあって、例えがうまいな。
ソシュール: さあ、ルターくん。これでsomeくんを助けられますね。
ルター: えー?? もう少しお知恵を拝借しないと、これだけでは分かりませんよー。

 ルターは少し青ざめていた。ソシュールはさっさと立ち上がって行ってしまった。これで話は打ち切りなのだろうか。そんなルターを見て、バルトと佐藤信夫は2人で目配せをし、ルターにやさしい眼差しを向けた。

●someを助ける方法

バルト: ルターくん、心配いらないよ。僕らがいるから。ソシュール先生は本を残さなかったくらいで、繊細な方なんだよ。気にしないでね。実際、〈体系〉と〈統合〉に関する今までの話でサムくんの問題は解決できるというのは事実なんだ。ただ、パッと分かる人は少ないだろうけど。
佐藤信夫: 〈体系〉について言うと、日本語の場合、「は」という助詞は、〈体系〉をつくる機能語になっている。
例えば
 ┌ 月は東に
 └ 日は西に
のような対句を作る。「月は・・・」と言われると、「他に何と対比しているのかな?」と聞き手は待つことになる。あるいは対比するものを暗示されているように感じる。説明文では「女の子は…だが、男の子は…だ」のように対比して論じることが多い。

 〈統合〉について言うと、日本語の場合、助詞「が」の機能の1つになっている。
例えば
 月が東の空に見える。
のように「月が…」と言えば、「月は…」というのと異なり、対句は作らない。
 〈統合〉は「いつだれがどうした」のような語りの形式に向いていると言える。物語文では「むかしむかしあるところに白雪姫という女の子がくらしていました」のようにa girl named Snow White「白雪姫という女の子」と提示して、「どんな子?」「だれ?」を述べながらその主人公に焦点をあわせて物語ろうとする。だから「対比を避ける」機能のあるa / an / someが用いられる。
日本語に関して言えば、以上のことが言えますね。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


比較言語の観点で:英仏中日 
〈話題を対比する場合〉と〈話題の対比を避け、そのものだけに言及する場合〉
文法上の視点の持ち方 「対比する/対比を避ける」という切り替えをある機能語が果たすというのは英語だけのことではなく、他言語にもある。例えば、対比を避ける機能語として、英語では【a / an / some】、中国語では【很】、日本語では主格の助詞「が」などが該当すると私は考えている。

英語
【名詞】冠詞の有無
(1)【無冠詞】:対比的
 I like dogs.([動物では]イヌが好き)
 I like dogs, not cats.(ネコではなく、イヌが好き)
 Tea or coffee?  Tea, please.(コーヒーか紅茶はいかが? 紅茶、お願いします)
 定義文向き。グループ内に並列関係にある、違いに関心がある。
   He was elected chairman.「彼は議長に選ばれた」
   They are doctors, not nurses.「彼女らは医者で、看護婦ではない」

(2)【a /an やsome】対比的ではない。提示文や物語文向き。「どんなものか」に関心がある。
定義文での例外的措置:単数の場合は冠詞が付く
  I am a student.「私は学生です」
  He is a doctor.「彼は医者だ」
(He is doctor.ではなく、英語では具体的イメージを優先したため、不定冠詞を用いたHe is a doctor.となったと私は考える。ちなみにフランス語では定義においては対比を重視しているので、無冠詞が徹底している)
   Yesterday I met an Australian.「昨日オーストラリア人にあった」


【形容詞】
対比的。定義する文ではそれぞれの違いに関心がある。
   He is Australian, not American.「彼はオーストラリア人で、アメリカ人ではない」
解説:『プログレッシブ英和』(集英社)には「国籍を言う場合はHe’s an American.とはあまりいわない」と註が付いている。
 国籍を話題にする場合は対比することに焦点があるので、無冠詞になっている。それに対して、話題を提示する場合や物語文では対比説明はせずに、Yesterday I met an Australian.「昨日オーストラリア人にあった」のように言うのが自然になる。

【固有名詞】:それぞれの名前の違いに関心がある
 【称号/駅名など】(大文字始まりの無冠詞単数形):名前の違いに関心がある。

フランス語
【名詞】
【無冠詞】:対比的。定義する文では役職名の対比に関心がある。
   Il est docteur.「彼は医者だ」【無冠詞単数】(英語では不定冠詞aが付く)
   Ils sont docteurs.「彼らは医者だ」【無冠詞複数】

不定冠詞un / une やdes】対比的ではない。提示する文ではどんな物かに関心がある。
   C’est un crayon.「鉛筆です」【不定冠詞un / une+単数】
   Ce sont des crayons.「鉛筆です」【不定冠詞des+複数】

中国語
【形容詞】「很」の有無
(1)「很」をつけない: 対句を作ることが可能。「月は東に、日は西に」という語調
  我矯、他高。 「私は背が低く、彼は背が高い」
(2)「很」をつける:対句的に述べるのでないなら、「很」をつけること。話題を拡散させず、そのものだけに言及できる
  他很高。 「彼は背が高い」
  很好。 「良い/いい」

【名詞】量詞の有無
(1)量詞をつけない:肩書き・職業名:それぞれの種類・名前の違いに関心がある
  他是不是老師? 「彼は先生ではないのですか」
  不是。他是生徒。 「いいえ。彼は生徒です」
(2) 量詞をつける:対比的ではない=話題を拡散させず、そのものだけに言及できる…《一個+人に関する名詞》「一人の…」 一個人(一人の人)
《一篇+文章に関する名詞》「一つの…」 一篇論文(論文一編)
《一匹+馬や布に関する名詞》「一頭の…」「一枚の…」 一匹馬(馬一頭)


日本語 助詞の「は」「が」

(1)説明文での主格の「は」:対句を作ることが可能。「月は東に、日は西に」という語調
 「メロンは好きだけど、リンゴは嫌い」
(2)説明文での主格の「が」:対句的に述べるのでないなら、「が」を使う。
 「メロンが好き」
助詞の「が」「を」「助詞なし」

(1) 初めての話題で「が」:他の話題を言外に暗示
 「(昨日は飲まなかったから、今日は)お酒が飲みたいな」
 「(今日はビールではなくて)お酒[日本酒]が飲みたいな」
 承諾・肯定・確認の感覚で「を」:「(今晩は)お酒を飲むんですね」
(2)初めての話題での「助詞なし」:他の話題を言外に暗示しない効果がある。
 「お酒飲みたいな」

留意点
日本語の例で分かるように、「が」という機能語は「は」と比べると(2)の「対比を避ける」機能があり、「助詞なし」と比べると(1)の「対比する」機能がでる。機能語の学習上のポイントは「どう言わないか」と「どう言うか」の2つの場合分けを適切な文脈設定ですることに尽きる。

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バルト: ではsomeについては私がお話ししましょう。以下のように考えてみましょう。

(1)無冠詞は対比的で、それぞれの違いを説明することに関心がある。パラパラと切り替わる〈体系〉のイメージでとらえると良い。


ペットの〈体系〉[数えられる名詞は無冠詞では複数形]
   ┌ dogs 犬
   ├ cats 猫
   └ birds 鳥

 I like  dogs.  犬
      cats 猫
      birds 鳥
(無冠詞複数形を使った「犬が好き」という場合、好きなものが犬か猫か鳥かの違いを説明することに関心がある。)

飲み物の〈体系〉[数えられない名詞は無冠詞では単数形]
   ┌ coffee コーヒー
   ├ tea 紅茶
   └ milk ミルク

 Coffee, please.
 Tea
 Milk
(無冠詞単数形を使った「コーヒー、お願いします」という場合、頼むものがコーヒーか紅茶かミルクかの違いを説明することに関心がある。)

(2)a / an / someは対比的ではなく、意識は分散せず「そのものだけを話題にする」。曲が流れていくのに似た〈統合〉のイメージでとらえると良い。

ルター:以下のスワンの例文では、どうなるでしょうか?
 We need (some) cheese.
バルト:(1)無冠詞は対比的で、それぞれの違いに関心があるわけですから、
 We need cheese.「(バターなどではなく)チーズが必要だ」
      milk ミルク
      butter バター
(2)a / an / someは対比的ではなく、意識は分散せず「そのものだけを話題にする」ということで、
 We need some cheese. 「チーズが必要だ」
ということになりますから、(1)無冠詞のWe need cheese.「(バターなどではなく)チーズが必要だ」は、ちょっと聞き手には強く聞こえる場合がありますね。だからふつうに言いたい場合、さりげなくsome cheeseと言うわけです。Give me water.「(他のものではなく)水をください」よりGive me some water.「お水ください」がソフトに聞こえるのと同じ効果がsome waterにはあるわけです。
ルター:なるほど。someは機能としては「対比を避ける効果」があるんですね。心優しいsomeにぴったりな役回りですね。早く教えてやらなくっちゃ。バルトさん、佐藤さん、ありがとう。

 ルターは急いで戻って、その話をsomeにしてやった。someは「心優しい」と言われたのがよほどうれしかったらしく、他の文法項目たちにそこを強調して話していた。ルターはそんな無邪気に喜ぶsomeを見て、他の項目たちも早く助けてやらなくては、と心に誓うのだった。

「第1話someを救え」ストーリーは終了です。

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 以下は雑誌『新英語教育』(三友社)の2002年1月号「授業に歌を」の記事です。someのことにも触れています。
■『犬が好き』事件を検証する
 大学生だった私が、塾で中学1年生を教えていたある日、一緒に働いている恩師と「『犬が好き』と英語で何というか?」で議論になった。
 恩師の主張:I like a dog.と絶対に言わないということはないのだから、I like dogs.とI like a dog.、どちらを言ってもかまわないではないか。
 「I like dogs.だと思うけど…」と、私はこの主張には不満だったが、その時点では「理論武装」できておらず、弁の立つ恩師には勝てず、泣き寝入りした(悲しい!)。この議論が今の私を作ったと言っても過言ではない。そして30歳を過ぎた頃、私を助けてくれたのはレトリック研究で有名な佐藤信夫さんと仲良しの記号学者ロラン・バルトくんとソシュールくんだった。ありがとう、みなさん!

■ソシュールの「統合と連合」で無冠詞を解明!
 ソシュールの「統合と連合」の概念をあらわした「古代建築の柱」のたとえをご紹介します。
 「ひとつひとつの言語単位は、古代建築の柱のようなものだ。柱は建築物の他の部分、たとえば台輪などと実際に隣り合っている関係にある(統合関係)。しかし、もしこの柱がドリア様式のものだとすれば、それはわれわれの頭の中に、他の建築様式、イオニア式やコリント式との比較を呼び起こす。これが潜在的な置換関係(連合関係)である。」
紙数が限られていますからワープしてしまいますが、これが大ヒントになったのです。

■無冠詞は「対比」、説明文向き
(リンゴやナシではなく)「バナナが好き」のように「種類の違い」を対比的に説明する場合【無冠詞】を使います。
対比する【無冠詞】
・数えられる名詞[数を数える場合]は複数形
I like ┌ bananas.(リンゴやナシではなく)バナナ
├ apples. リンゴ
├ pears. ナシ
├ …  …
※2022/10/04訂正加筆 
「好きな果物」で丸ごと食べないメロン、スイカ、パイナップルなどは
I like melon/watermelon/pineapple.のように単数形になる。


・数えられない名詞[量で量る場合]は単数形
I like ┌ chicken. 鶏肉
├ pork. 豚肉
├ beef. 牛肉
├ …  …
(適用:Give me water.と無冠詞で言うと「(他のものではなく)水をくれ」と強く聞き手には聞こえます。そこで話し手はGive me some water.として話題のものだけに言及します。「対比を避けるsome」よ、くじけず頑張れ!)

■a / an / someは「対比を避ける」、物語文向き
(a) 1. I’ve just bought a melon.(1個)
(a) 2. I’ve just bought some melons.(数個)
(b) I had some melon(ある程度の量)for breakfast.
(a)対比を防ぐ【a/an+単数形 some+複数形】
(リンゴやナシではなく)「メロンを買った」と対比したいなら別ですが、ふつうに「メロンを買った」と語りたい場合、並列関係にある他のメンバー[例えば他の果物であるリンゴやナシ]を連想させない言い方として【a/an/some】をつけます。
(蛇足:I like a dog.が単文として不自然なのは、Yesterday I saw a girl named Maria.のように「どんなa dog / a girlか」を物語る語句が抜けていたからなのです。21世紀、無意味な2文比較はもうやめようよ、チョムスキー君。)
(b)量を示す【some+単数形】
「メロンを食べた」と言っても、まるまる一個、 a melonを食べる人は少ないのでは? まるまる1個食べたと言いたいなら別ですが「(切ってある)メロンを食べた」とふつうに言いたい場合、1切れでも2切れでも関係なく「量」を漠然とはかる言い方として簡便に some melonと言います。

・無冠詞の学習に最適な歌として選曲しました。「理屈抜きに楽しく」あるいは「理屈つきで(?)納得の上で」歌っていただけたらと思います。

参考文献:ロラン・バルト『零度のエクリチュール』所収「記号学の原理」みすず書房 1971
マーク・ピーターセン『日本人の英語』岩波新書 

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第2話 「ルターの対比的文法解説」
●無冠詞、ルターに直訴する
 年末になって、ルターは今年を振り返って、someの気持ちを少し代弁できたので、ホッとしていた。来年は他の文法項目たちも助けてやりたいな、と思いつつ、クリスマス会や忘年会など、楽しい催しごとが続いていて、日々に流されていた。明日も飲み会なので今日は早く寝ようと思っていたところに、夜になって無冠詞が訪ねてきた。

ルター: おや、無冠詞じゃないか。どうしたんだい。
無冠詞: 夜分スミマセン。さっきsomeに久しぶりにあって、話を聞いたら、うらやましくなってしまって。どうしても今年のうちに自分のことも解決してもらいたくって。
ルター: でも、年末だからね。僕も予定が詰まっていてねー。
無冠詞: あー、ルターさん。冷たいなー。「今年の汚れは今年のうちに」というコマーシャルもあったでしょ。someくんのことを今年解決したのだから、今年のうちに冠詞のことは全部解決してくださいよ。
ルター: そうだなあ。うーん。でも無冠詞くんはそんなに悩みはないんじゃないの? 前に君が言っていたかと思うけれど、「日本の英語学習では無冠詞はI like dogs.ぐらいでしか注目されない」というのは事実かもしれないけれど。
無冠詞: ルターさんともあろう人が、そんな認識でいいんですか? someもかわいそうだったかもしれないけれど、オレなんて悲愴ですよ。クリスマスも近いのに一緒にクリスマスを祝う仲間がいないんですよ。生まれつき存在感が希薄なもので無口だし、居ても居なくても変わらないどころか、居ないことでさえ気づいてもらえないんです。
ルター: そうだな。確かに君は存在感はないよね。
無冠詞: ルターさん、「存在感はない」って、謙遜で言っているんですから。やっぱり、人から言われると傷つくなー。
ルター: すまん、すまん。
無冠詞: この間、someが言っていましたけれど、【不定冠詞】のア・アン(a / an)さん姉妹とsomeくんって、「対比を避けるa / an / some」という分類で一緒のグループなんですって? ルターさんが取り持ってくれたおかげで、someは今年は不定冠詞a / anさんとクリスマス会やるって言ってましたよ。今日はルターさんに、誰がオレのグループのメンバーか教えてもらいたい! 教えてくれるまで帰りません。

 無冠詞の言葉を聞いて、急にルターは深刻な顔になった。自分はみんなが仲良くなるように、そして不遇な文法項目を救いたいがために活動しているのに、無冠詞の話によれば、新たなセクト・派閥を作ってしまっただけになってしまっている。こうして無冠詞が疎外されているのがいい証拠だ。これはa / an /someたちの認識不足なのだ。無冠詞が居てくれて初めて同じグループだと言える。だからクリスマス会をするなら、無冠詞を招いて当然なのだ。これは無冠詞が嘆くのももっともで、someだけ救った気になってうかれていた自分が悪い。ルターは自分のしたことが全うしていないことに気づかされたのだった。


●ルター、冠詞たちのクリスマス会に参加する
 今日は遅いからと、無冠詞にとりあえず帰ってもらったルターは、a / an /someたちのクリスマス会に無冠詞と定冠詞theを連れて出席しようと考えた。そこでa / an /someたちに分かってもらえばいいと考えたのだ。まずはsomeに電話してみた。

ルター: もしもし、ルターと申しますが。
some: ああー、ルター先生。この間は本当にありがとうございました。
ルター: someくんだね。いやいや、どういたしまして。実はね、頼みがあるんだ。
some: いいですよ。僕ができることなら。
ルター: 今度クリスマス会をア・アン(a / an)さん姉妹とするそうだね。それに参加できないかな、と思って。
some: そんなことですか。喜んでご招待しますよ。いらしてください。
ルター: 僕だけじゃなくて、無冠詞くんと定冠詞のtheくんも一緒でいいかい?
some: えー。どうかなー、それは。僕はいいですけど。
ルター: a / an さんたちのところでやるのかい? 
some: そうです。
ルター: じゃあ、a / an さんたちがいいって言えば、いいかい?
some: いいですよ。
ルター: そう、それなら僕からa / an さんたちに了解とるよ。
some: わかりました。24日の6時からです。お待ちしています。

 このあとa / an さんたちに電話して、すんなり了解が取れた。定冠詞theくんも行けると言うことで、メンバーは揃った。

 そして当日。最初、ワインを飲みながら和気あいあいとしていた。そんななかで普段は無口で内気な無冠詞はワインを飲みつけないのにカパカパと杯をあけた。気持ちも大きくなって、自ら口火を切った。

無冠詞: 他人のこと、うらやむようで嫌なんですが、不定冠詞a / anさんは日本の人にとっては珍しい感じがするので、いつも初級の入門者には大事に扱われていますよね。そのあとは指示代名詞の「this / these / that / those4兄弟」と「定冠詞theくん」が登場すれば、もう十分、っていうかんじで冠詞の学習は終了。最近の中学テキストでは無冠詞も扱われているけれど、やっぱりオレは誤解されている。それがくやしい。ルターさん、今日はそこのところをはっきりさせてくださいよ、みんなの前で。
ルター: わかった、わかった。すみませんけど、a / anさん、ホワイトボードとマーカー貸してください。

 ここに揃ったa /an / some とtheと無冠詞がどうしたら仲良くできるか? ルターは黙って板書し始めた。


●ルター、「対比を利用した文法解説」を説明する

ルター: 今日は説明法の説明、言うなれば「メタ説明」ですので、学習者向きと言うより、教授者向きの内容になります。一人で話すのもなんなので、someくん、生徒役になって下さい。
someくん: はい、わかりました。
ルター: 「対比を利用した文法解説」というのは、実際は無意識に行われています。中学生ならtoo ~ to「…するには…すぎる」とso ~ that ~ can’t ~「…で…できない」をほぼ同じ意味だと言うことで一緒に指導したりしていますね。
someくん: おなじみですね。
ルター: でも、「対比的文法説明法」と僕が言っているのはそういうものだけを指しているのではないのです。例えば、(本を借りに…)「図書館に行った」と言いたい場合、someくんはどう英作文するかな?
someくん: Yesterday, I went to the library ….ですね。
a / anさん: あら、Yesterday, I went to a library ….というのも、いいんじゃないかしら。
someくん: うーん、そうだな。the library でもa libraryでもよさそうだな。
ルター: そうそう、こんなときこそ、「対比を利用した文法解説」が役にたつんだ。2文を比較し、対比することではじめてそれぞれの意味がはっきりするんだ。
 結論から言うと、通常はthe libraryが自然に感じる。
a libraryだと2つの意味を聞き手や読み手に伝える。ひとつは「a library…とはどんな図書館なのかな?」という期待を聞き手や読み手に持たせる効果がある。英語におけるa /anは文脈から浮く効果があり、話し手や書き手が「どんな?」を直後で説明すると聞き手や読み手は納得して文脈に戻る。そういう文脈上での「動き」がでる。
 もうひとつはone of the libraries「いくつかある図書館のうちの一つ」という意味なので「他にも図書館がある!」という意味が余計に出てしまい、聞き手や読み手にとってある面でノイズになる。
 だから通常はthe library となって、文の後半に話題の焦点が行くようになっている。

(1) Yesterday, I went to the(→)library to borrow some books.
  文脈から浮かず、気にせずにさーっと過ぎられる【the】の働き

例) They went to the library to check out books on earthquakes, but they were too late. (http://www.americancorpus.org/)
    彼らは地震についての本を借りに図書館に行ったが、遅すぎた。

(2) Yesterday, I went to a(↑)library to borrow some books.
     文脈から浮いているので気になってノイズになる【a】の働き
    = a libraryと聞くと「どんな図書館か? 気になる」「他にも図書館がある! と分かる」のどちらかの反応を聞き手はとるので、ある面、ノイズになる。
例) J. L. Johnson started a library in Lynchburg, Virginia, that contained eight hundred books and an assortment of papers  (http://www.americancorpus.org/)
  バージニア州リンチバーグにある800冊の本を保有する図書館

someくん:【a / an】を使うと、「1つだけではない」「他にもある」という暗示になる。聞き手や読み手は気になって、かえってノイズになってしまう。そこで、話題の焦点に意識を向けさせるために、主題ではない単語を目立たせず、文脈で埋没させ、さーっと通り過ぎさせて、後半にある話題の焦点に意識を向けさせるように使うのが、theということですね。
ルター: いやー、someくん、まとめてくれてありがとう。

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■まとめ
・【a / an】の2つの機能
(a) 〈「どんな?」が気になるa / an〉:
 「どんな?」を聞き手に気にさせておいて、話し手は直後に説明
(b) 〈「他にもある」と暗示するa / an〉:a(↑)library
 「他にもある」を聞き手に暗示(one of the ~s「…のうちの1つ」の意味)
この2つの機能があるが、いずれにしろ、聞き手にはノイズ[雑音]となり、気になるのでそこに意識が分散する。
・【the】の2つの機能

(a)〈「その…」と指し示すthe〉:
 「その…」と聞き手に言えば分かるか、その直後に説明して分からせるかする。
(b)〈文脈から浮かないthe〉:the(→)library

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●和解
 ルターの解説を聞いて、その場に来ていた定冠詞the、不定冠詞a /an、someは顔を見合わせた。何か文法事項を説明するときは、単独で説明するのではなくセットになっている他のメンバーを常に意識しないといけないらしい。ということは今まで邪険にしていた無冠詞に対しては、自分たちは悪いことをしていたようなのだ。一同しゅんとしてしまった。
 someは特に今まで自分が不遇だったのをルターが代弁してくれたおかげで今日こうしてクリスマス会に参加できたのだ。不定冠詞a /anさんたちと縁を取り持ってくれたのは他ならぬルターなのだ。それなのに自分は無冠詞をかつての自分と同じ境遇においてしまった。

ルター: someくん、どうしたの。
someくん: 無冠詞くんに謝りたいと思って。無冠詞くん、ごめん、今までのこと、反省しています。
無冠詞: いいんだよ。分かってもらえれば。
ルター: それぞれがうまくセットを組むと自分のことが分かってくるよ。相補的アイデンティティっていうことばもあるよね。「自分探し」って言ったって、自分の殻に引きこもっていたって何も分からない。自分を照らし出してくれる「セットになるパートナー」を見つけなきゃ。みんなが協力することで英語学習者も「なるほど、よくわかった」って思えるんだ。さあ、冠詞をめぐる問題をどんどん解決していこうよ。

第3話 「譲歩とは説得だ!」
2003.11.12 今日は高3で副詞句と副詞節を取り上げた。譲歩に関してわかってもらいたかったので、ルターとサムくんの架空対話をプリントで配った。みんなわかったかなあ。

■対話篇:「副詞/副詞節/副詞句を考える」
ルター: 副詞という枠で見る場合、副詞句、副詞節という言い方があります。まず副詞節から考えてみましょう。副詞節とは言い換えると「接続詞を用いており、文の従属節で、副詞的な機能を果たすもの」のことです。
サムくん: 副詞節といえば、英語の参考書見ると項目がたくさんあったなー。条件とか譲歩とか。
ルター: そうですね。以下にどの参考書にもある副詞の6項目と代表的な接続詞をあげてみましょう。
サムくん: (表を見て…)ふーん。こんなにあるのか。
ルター: ではここでクイズです。サムくん、「譲歩」ってどういう意味でしょうか?
サムくん: 「譲歩」には「譲る」っていう字が入っているし、よく「最終的に譲歩した」なんて言うのは、交渉するときに相手に譲るっていうことですね。遠慮深い感じがしますね。
ルター: 遠慮深いというのは、一面としては正しいですが、それだけの理解では「譲歩」の本質がまだつかめていません。
サムくん: むむむ、どういうことですか?
ルター: こう覚えてください。「譲歩とは、説得だ!」と。
サムくん: 「譲歩とは、説得だ!」 で、いいんでしょうか。
ルター: その通り。「押してダメなら引いてみろ」と言いますね。猪突猛進だけでは物事はうまく行きません。そこで譲歩を活用して、相手を説得するのです。
ところでサムくん、好きな人はいますか?
サムくん: 唐突になんですか、あせっちゃうなー。一応いますけど、内緒です。
ルター: なるほど、で、その子に告白するとき、次の3つだと、どれで言いますか?
 (1)「君のことが好きだ」
 (2)「僕のこと、好きじゃないかもしれないけど、君のことが好きだ」
 (3)「どうしても君のことが好きだ」
サムくん: 僕って、奥ゆかしいからなー。2番かな。でも3番も切実な感じでいいな。
ルター: (ルター先生、苦笑)。サムくん、君もなかなか策略家だね。
サムくん: えっ、どこがですか。
ルター: ははは、冗談だよ。(2)と(3)では「譲歩」を使っていて、それを敢えて選んだから「策略家」って言ったのさ。でもこういう状況だったら、人間ならだれでも相手に受け入れてもらいたいから作戦を練ったり、真剣に話すよね。まさにこういうときこそ、「譲歩」の用法が登場するんだ。「譲歩とは説得だ!」そして「恋愛には説得が不可欠だ!」
サムくん: 先生、脱線しないでください。ところでどこに譲歩が使ってあるんですか?
ルター: はいはい。では英文で(2)を確認しよう。

 I like you, even if you don't like me. (Swan)
(たとえ僕を好きでないとしても、君が好き)

サムくん: いやー、慎み深く、遠慮深いな、僕って。
ルター: 果たしてそうかな? 

 《譲歩》 説得の手法
(a) Even if ...「たとえ…でも」と、相手の言いそうなことを先取りする(=相手に納得してもらいたい)。
(b) It is true..., but...「確かに…だが、…」と、相手の言っていることを認める姿勢を示して置いてから、反撃する。
(c) Whatなど + on earth「一体全体」やanyway「いずれにしろ」「兎に角」(とにかく)などの決まり文句を使うと、相手は説得されてしまう。
(d) 主観的な意見を「~だ!」を言うとき、1文だけで述べると説得力に欠ける。しかし2文で言うと説得力がある。
・客観的事実をthough「~だけれども」と足すと、相手は納得してしまう。
・極端に範囲を区切ってunless「~なら別だけど」と言うと、相手は説得される。

サムくん: あれー、もしかして僕は「相手の言いそうなことを先取り」して「相手に納得してもらいたい」っていうこと?
ルター: そうなんだ。でもいいじゃないか。彼女を説得したいということは、彼女に対してそれだけ思いがあるということなんだから。
サムくん: そうなんです…(しんみり)。


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