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新英語教育研究会神奈川支部HP

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1999 國弘 正雄さん

5月合宿例会報告 1999年5月15~16日 川崎市民プラザにて 参加者:20名

●講演:「英語教師に求めること」
國弘 正雄さん(エディンバラ大学特任客員教授)
◆ インターネット、英語習得、異文化論と多岐にわたるお話で参加者も大満足でした。國弘先生、ありがとうございました。またぜひお越し下さい。

(1) はじめに
・(英米では「ジョーク」でスピーチを始めるが)、I am not an expert in [on] English teachingノ (私は英語指導の専門家ではない)と、日本流に「言い訳」からスタート!
(2) 資料
◆日立製作所刊行物「ぱんぽん」242より抜粋
・略歴:1930年生まれ。1965年サイマルインターナショナル代表取締役就任。外務省参与として先進国サミット(第1~2回)で活躍、「日本外交のキッシンジャー役」(毎日新聞)と評された。NHK教育テレビ講師(11年間)、日本テレビの国際キャスター、ラジオ「百万人の英語」講師、参議院議員(1989~95)。専門は文化人類学、異文化間伝達。
・著書:「英語の話しかた-国際英語のすすめ」(サイマル出版会)、訳書にD・クリスタル著「地球語としての英語」(みすず書房)、C・オーバビー「地球憲法第9条」(講談社、講談社インターナショナル)、など著訳書は70冊以上。
(a) プロジェクト
・東北アジアを非核地帯に!
 日本中国朝鮮半島を含む東北アジアに非核地帯を作る。世界には6つほどの非核地帯があるが南半球にしかない(南極、ラテンアメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、東南アジア、アフリカ)。国際会議でこの主張を展開している。
・仮称「共通歴史教科書」づくり
ヨーロッパにはフランスの出版社デルーシュが作った「History of Europe」がある(26カ国語に翻訳、日本語もある)。日本、中国(台湾を含む)、朝鮮半島で作ろうと4年間やってきていて、2001年までには出版したい。
(b) 日本から世界に発信できること
  =「憲法第9条」「水田稲作技術」「美意識(「生かし生かされている」共生という発想)」
(c) 幼児化した日本の学生:「大学における私語にどう対応したらよいか」を国会で問題にしている。幼児化してしまったのは日本の学生だけ。民族としてのエネルギーが残念ながら枯渇しつつあるのでは(と國弘先生は考えている)。
(d) 異分野間の切磋琢磨:『第3の波』のアルヴィン・トフラーを異分野の人と話す会に連れていったら「なかなかいいと思うよ。しかし経済人だけの異分野ではダメだよ。あそこには哲学者、宗教家、芸術家が居なかったね」と言われた。トフラーは「異質な物同士が混ざり合う、対抗し合う、切磋琢磨しあうときにしか創造性は芽生えない」と言い切る。cross-germination of ideas / cross-fertilization が必要だ。

(3) 講演
・インターネット:
インターネットには違和感がある、それは米国軍部(ペンタゴン)がからんでいるからである。(「戦中派で頑なかもしれないが…」とおっしゃる國弘先生は[反戦ではなく]非戦主義者。「戦争はハラが減る!」からもうケッコウ!)そうはいってもこうして広まったのは認めざるを得ない。
・「ことば」「こと」「こころ」:
本居宣長が万葉、古歌について言っている「ことば」「こと」「こころ」を、三位一体としてとらえる。日本人は他言語の習得で時間と精力を割かれ「ことば」の次元で燃え尽きてしまう。そして「こと」や「こころ」まで手が届かない。時事英語好きはゴマンといるが、時事問題には無関心という学生も多い。これでは「ことば」のみあって「こと」なし。本居宣長は古歌の心を理解しようとするならば自身で「古歌ぶり」の歌を詠みなさい、自分で作ることに苦労すれば、他人の作品が身にしみて分かる、と言っている。英語も書いて話す能動的な英語が求められている。
・「either or の英語」から「both andの英語」へ:
日本では学校英語か社会英語(実用英語)かととらえられてきたが、問題のたて方がおかしい! 西洋哲学のアリストテレスの「あれかこれか(mutually-exclusive)」ではなく、アジア的な「あれもこれも(mutually-permeable 相互に浸透できる)」の発想で、英語に取り組むことが大事。

(4) 生い立ち
・東京生まれ。中3で神戸へ。また漢文が好きだったので、古典を読んだ。「(地域的に、歴史的に)いろいろな日本語がある」と感じた。
・只管朗読(しかんろうどく):都立6中(現新宿高校)中1のときの恩師が「声を出して読むことが大事」と言ったので「Kingユs Crown Reader」を500回(!)音読した。曹洞宗の道元の只管打座(=ひたすらうちすわる)に倣って、只管朗読と言っている。意味が分かっている文章(この前提が大事! 分からないものを読んでもダメ)をひたすら読む。
・只管筆写:紙のなかった時代にはわら半紙に1回目は黒鉛筆、2回目は赤鉛筆のように何度も英文を書いて練習した。配給で1200カロリーの食事をして生き抜いてきた。そういう時代でもやる奴はやる。現代のようにこんなに恵まれた時代はない。(「こんなときに泣き言を言う奴は豆腐のかどに頭をぶつけて…」と國弘先生は檄を飛ばしました!)。
・動作記憶(motion memory):動作を通さない言語教育はない。
・思い出の参考書:小野けいじろうの受験参考書はできない学生のレベルに合わせて丁寧に解説があった。國弘先生のつまずきの石は「現在完了形」だったそうです。

(5) 異文化
● 関東vs.関西(その1):司馬遼太郎は「出る息吐く息の“気息の間”でわかることをいわせるのは野暮。東京ではyes/noをいいすぎる。東夷[あずまえびす]の野蛮やで」と言っていた。
● 関東vs.関西(その2):中学の同級生の小松左京氏曰く…
 八百屋に行って「司馬遼太郎の本下さい」と言ったら…
 ▲東京の八百屋:「うちは八百屋です、本なんて置いていません」と怒る。
 ▼大阪の八百屋:「すんまへん、今日は置いときませんでわろうございましたな」
(小松左京氏「でもな、國弘、わからんで。3人そういうのがいたとしたら、八百屋も本置くようになるで」と言ってよく笑った。)
● 関東vs.関西(その3):神戸に中3で転校して下宿のおばあちゃんとの会話で気づいたこと。
朝出かけるとき…
 ▲東京:「いってきます」「いってらっしゃい」
 ▼大阪:「いってきます」「お早(はよ)うお帰り」(温かい…、ぜひ見習いたいです)
ご飯を食べて…
 ▲東京:「ごちそうさま」「おそまつさまでした」
 ▼大阪:「ごちそうさま」「よろしゅうおあがり」(温かいですね…)
● 米vs.英:Whatユs your favorite color? と聞かれて…
 ▲米:blue, pinkなど具体的に答える
 ▼英:何についての色、ネクタイですか、車ですかのように聞き返す(分析的ですね…)


■質疑応答
 □ESLの人たちは(実際に英語で話すことを重んじ)音読を人工的だと否定しますが…? 
 - 外国語をやること自体artificial。音読はいい。monolingualな人に言語習得法について聞いてもダメ。
 □大学について? 
 - Anything goes. 斜陽産業なので破綻したら責任をとらなくてはならないので政府もノータッチ(keep their hands off)。
 □国際英語という言葉について? 
 - その言葉を使ったのを今では恥じている(脱英米化de-Anglo-Americanization of Englishの気持ちで使っていた)。主権国家という概念をobsoleteにしなくてはいけない。(「国家は武装できる」という考えがある限り戦争はなくならない、ゆえに非戦の國弘先生の立場では受け入れがたいのですね…)

■参加者の意見
 □進学校から底辺校に移って、今まで自分が早口で話しているために生徒との意志疎通がうまくいっていないことに気づいた。
 □中学教科書で「メビウスの輪」を作るという内容で、英語で具体的にやりかたを説明するのではなく、イラストとlike this(このように)と書いてあるのみ。まるで日本で日本のための英語をやっているような気持ちになってしまう。
 □NHKで見た番組でチベットの山村から町の高校に行った青年が川をせき止めて水力発電(5kw)をして夜は照明をつけて18歳で読み書きできない妹を含め、村の子どもに教えている。アルファベット発音練習自体を楽しんで学んでいる。昼はその電気でパンを焼き、You can buy bread.と憶えたフレーズを観光客に言ってパンを売って収入を得ている。一方通行の英語だが使えたという喜びにあふれている。(「このように喜びのある英語学習は出来ないものか?」という問いに「功利的な学習はダメ」という反論があった)

■参加者から出された感想
 □教師に自信と勇気を与える内容でよかった。自信を持ってこれからも実践をつづけたい。
 □英語を学びにくい時代に生きても独自の力で学んで英語を話せるようになった大先輩の意気盛んな話を聞いた。「実践をしなければ言葉は覚えられない」ということを学んだ。
 □英語習得方法について、現場の教師への奨励について、特に得るものがあった。次回は「非戦」の話題で講演してもらいたいです。
 □「対談」に近い内容でキャリアからにじみでる言葉(英語もキレる)が印象的でした。「地球語としての英語」(最新刊:みすず書房)も図書館で借りて読みましょう。“気息の間”、「ことば」と「こと」と「こころ」の関係を追求してみたい。



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