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新英語教育研究会神奈川支部HP

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2002.6 会報97:英語嫌いの生徒と作る授業

■2002年6月(会報No.97)
●実践報告(高校)「英語ギライの生徒と作る英語の授業」
萩原 一郎さん(県立白山高校)

白山高校に赴任して2年。「来週のことを考えると気が重い」から「生徒がかわいくなってきた」という境地に至るまでの軌跡を報告していただきました。

(1) 白山高校
・学校:横浜北部学区にある。創立27年。男女比は1:2(美術・国際教養コースを希望する女子が多く在籍するため)。
・ 再編計画:今年4月よりダブルコース開始。
1年(6クラス)=一般コース(4)+美術(1)+国際教養(1)
2,3年(各6クラス)=一般コース(5)+美術・国際教養(1)
・ カリキュラム:特色があり、選択科目が多様。「情報」の先取り授業。
英語は少人数の授業がかなりある。

(2) 昨年1年目 土曜日の憂鬱(白山1年目の授業の様子)
・ 教室に入らない生徒たち(教室に入れるのに15分)/注意はほとんど無視/化粧/ずっとプリクラを見つめる少女/列を越えた私語/立ち歩き/授業が始まると「先生、トイレ」/飲食/携帯電話でのメール、通話、着メロが飛び交う/気がつくと居ない生徒/数々の暴言etc.
・エピソード:今年、他の教師に向かって「死ね」と言った生徒が5日間の謹慎処分に。「去年より校内が落ち着いていることもあって、重い処分になってしまった。去年だったら全体の中で目立たなかった」と仰ったあと、「去年、生徒から『ぶっ殺すぞ』と言われても堪えていたのは何だったのか…」と萩原先生がつぶやかれたのが印象的でした。きっと、苛立っている生徒は教師に向かってというより他の「何か」に向かって暴言を言っているんだ…、と頭では理解していても、やはりその場で実際に心ない言葉を言われるとつらい。そしてつらいことも他の人に話すことで楽になれるのだけれど、話すことさえつらくてできないという状況があったかと思います。でもこんな状況から逃げずに立ち向かい、以下のように授業改善しながら2年目にして「楽しい」と言えるようになった萩原先生です。

(3) 状況分析と改善
・ 生徒との関係:生徒の状況がつかめず、生徒との関係作りにも時間がかかる。
・ 授業:訳読式/プリントを作り、提出を義務づけた/仕方なく「面接テスト」でオーラルの授業をさせた
・ 生徒の英語力;
1. 「見えない学力」ともいえる集中力と持続力が欠けている
 →「細切れ作戦」でさまざまな活動を取り入れた
2. 文法面が一番弱い(I favorite musicノと書く生徒。)
 →説明は最低限、言わせて書かせた
3. 中学1年レベルの単語が分からない(help, tell, parkさえ、知らない)
 →「チャンクシート」などで言える単語を増やす。
4. 単語が読めない/スペリングは壊滅的
 →「フォニックス」で下準備をし、「速写50発」にも取り組む。

(4) 今年2年目 楽しい授業が待っている(白山2年目の授業の様子)
・ 職場に慣れ、腰が据わってきた感じ。
・ 生徒にも慣れてきた=関係作りも順調。不思議なことに愛着が湧いてきた。
・ 1年生中心でスムーズなスタートが切れた(昨年は2年生を受け持ったので、前任者と異なるという点で萩原先生の指導法に慣れない生徒の反発があったのは事実。今年は1年生なので、抵抗感無くペアワークなど生徒同士の活動ができている。ただ「授業崩壊がいつ訪れるかという不安が常にある」とのことです)

(5) 具体的な取り組み
・ 4月以前の準備段階で変えたこと:
1. 教科書・教材を生徒のレベルに合わせた。「CLIPPER 1」(大修館書店)
2. 英和辞書を購入させた=辞書引き指導+自分で学習できる態勢作り
(6月現在も25-30名の生徒が辞書を持参している)
・ 「細切れ作戦」で様々な活動を!
1. キッチンタイマーを利用し、時間を区切った活動を仕組む。
2. 意味解釈や文法説明は最小限にする。
3. オーラル・イントロダクションを利用(英語を書く力はないが音声面では大きな差がない生徒たち。省力化すれば生徒も十分対応できる)
・ 音読の重視:chorus reading, buzz reading, pair reading,
日本語混じりのテキスト音読/Read and Look up/教科書の読みのテスト
・ ペアワークの活用:チャンクシートを使って/ペアリーディングなど
教材 ・ 中学でも使えるマル秘「チャンクシート」
「語句を固まりでとらえよう」と題して、教科書で出てきた「形容詞+名詞」「副詞」などを20表現、B5版に左右で抜粋。2つの活動をする(各3回)。
先取りまたは復習のどちらにも使える。
1.  英語を見て日本語にする
2.  日本語を見て英語で言う。言えるようになったら書く。
表:英語と日本語(3つのチェック欄付き)
裏:空欄(書き取り練習用)と日本語(3つのチェック欄付き)
「形容詞+名詞」
1. a small town □□□ 小さな町
2. an art museum □□□ 美術館
3. a farming town □□□ 農業の町
「副詞的な表現」
4. for the first time □□□ 初めて
5. in the fall of 1985 □□□ 1985年の秋に
6. ten years from now □□□ 今から10年後
・ Read and Look up:工夫する点は、声のかけ方。Yumi Nagaya is my good friend. I often visit her and talk about pop music. なら「good friend まで」「visit herまで」のようにどこまで言うかを教えるとスムーズにできる。
・ 「英語置換音読練習」(プリント作成に工夫があります)
数行の英文とその対訳の間に折り線があるので、そこを折ってペアワーク。日本語交じり文に英文を入れて読む側と確認して教える側になる。
Yumi Nagaya is my good friend. I often visit her and talk about pop music.
Yumi can't walk. She is in bed almost all day.
・ Yumi Nagaya is my 親友. I よく訪問する her and 話す aboutポピュラー音楽. Yumi歩けない. She is寝ているalmost一日中.

■レポーターの感想
□ 本当にふつうの授業でできる工夫を発表したつもりです。「特別な」実践ではない、ふつうの実践の交流も大切かなあと思います。

■参加者の感想
□ 2年目で様々な工夫をして「楽しくやれている」のに励まされます。私も「英語で」楽しくやれるように教材研究したい(時間が欲しい)。
□ いろいろな高校説明会の中で「単位制」「フレキシブル」「選択教科が多様」などの話を聞きますが、少し実態が見えたような気がします。
□ 萩原さんのチャンクシート、参考になりました。困難を困難と思わず乗り越える姿勢がすばらしい。
□ 萩原さんの1年目の様子のところをプリントで見て、ウチの学校にもいる最悪のケースが重なりました。2年目にはやる気が出て、腰が据わって、生徒とコンタクトを取りながら取り組み甲斐のあることを飽かずにさせる。たくましい! 
□ 異動されてから「大変だ」とは伺っていましたが、お話の途中途中で出たエピソードを具体的に知って、正直びっくりしました。自力でovercomeされた萩原先生はすばらしいなと感じました。簡単な単語も知らない生徒たちを前にして、「出来ない」と決めつけるのではなく、初めて見た単語を読めるようにするフォニックスを少しずつからでも教え、チャンクシートで「言える単語」を増やしていく。このように主体的に生徒が取り組める「手立て」を与えたことが成功の秘訣だと感じました。自分で取り組めるようになれば生徒も変わってくる、授業も変わってくる、そして自分自身も変わってくる。こういう良い循環をつくる1つの見本がここにはあります。萩原先生、どうもありがとうございました。


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